第14話 隣国の軍事国家『帝国』が動き出す
大陸の西側に位置する、ガレリア帝国。
「鉄と炎」を信条とし、周辺諸国を次々と併合してきた軍事大国である。
その帝都にある軍司令部では、皇帝ヴォルダールが報告書を握りつぶしていた。
「……聖王国が、復活しただと?」
ヴォルダールは隻眼の猛将だ。その怒号に、並み居る将軍たちが震え上がる。
「はい。先日まで破綻寸前だったはずが、ここ数週間で経済がV字回復。さらに、謎の『新技術』によって、夜でも街が昼のように明るいとのことです」
「馬鹿な。あの国は勇者という『核』を失ったはずだぞ」
皇帝は地図上の聖王国を指で叩いた。
「調子に乗るなよ、弱小国が。……ガフ将軍!」
「はっ!」
「我が帝国の誇る『最新兵器』を持って、聖王国へ向かえ。脅しをかけろ。『技術を差し出すか、滅びるか』とな」
◇◇◇
数日後。聖王国の王都に、エンジンの爆音と黒煙が響き渡った。
ズズズズズ……!
大通りを我が物顔で進んできたのは、帝国の使節団だった。
だが、ただの馬車ではない。
彼らが乗っていたのは、鉄の塊に車輪をつけ、魔力機関で駆動する『魔導戦車』だった。
「ひぃっ! なんだあれは!」
「鉄が……走ってる!?」
逃げ惑う市民たちを見て、戦車の上でふんぞり返る男――ガフ将軍は、満足げに葉巻をくゆらせた。
「見ろ、この『鉄の棺桶』の威容を。中世レベルの聖王国人には、このテクノロジーの差が恐怖として刻まれるだろう」
彼はそのまま王城の前まで戦車を乗り付け、砲塔を城門に向けた。
「聖王国の代表者よ! 帝国将軍ガフが参った! 直ちに出てきて跪け!」
◇◇◇
城門が開き、ヴェルムとエレオノーラ、そして数名の護衛が現れた。
ヴェルムは、目の前の「魔導戦車」を見て、少しだけ眉を動かした。
「……ふむ」
「どうだ、恐ろしいか!」
ガフ将軍が戦車から降り立ち、威圧的に笑った。
「これが帝国の科学力の結晶、『魔導戦車マークⅠ』だ! 分厚い装甲は魔法を弾き、主砲は城壁を一撃で粉砕する! 貴様らの貧弱な魔法など通じんぞ!」
エレオノーラが青ざめる。
聖王国の騎士団は再建途中だ。あんな鉄の塊相手では、勝ち目がない。
「ヴェルム、どうしよう……あんなの、ミナの計算でもどうにもならないわ」
「……いや」
ヴェルムは戦車に近づき、ペタペタと装甲を触った。そして、同情するような目でガフ将軍を見た。
「将軍。これ……燃費、どれくらいです?」
「は?」
予想外の質問に、ガフは面食らった。
「ね、燃費だと? ……ええと、一時間の稼働に『魔石(中)』を10個ほど消費するが……」
「10個!? たった一時間で!?」
ヴェルムは仰天した。
「なんてエネルギー効率の悪い……。それにこの排気ガス、環境基準値を大幅に超えてますよ。騒音も酷い。これじゃあ『労災認定』されちゃいますよ?」
「う、うるさい! 兵器に環境もクソもあるか! 強さこそが全てだ!」
ガフは顔を真っ赤にして怒鳴った。
「貴様らが降伏しないと言うなら、この場で見せてやろう! この戦車のパワーを! ……おい、あれを持ってこい!」
部下たちが、巨大な「岩」を運んできた。直径3メートルはある花崗岩だ。
「見ろ! この戦車は、この程度の岩なら体当たりで粉砕……」
その時だった。
ピピーッ、ピピーッ。
軽快な電子音と共に、城の裏手から「黄色いボディの機械」がやってきた。
「なんだあれは?」
ガフが目を凝らす。
それは、帝国の戦車よりも一回り大きく、しかし驚くほど静かに動く、四本脚の作業用ゴーレムだった。
「ああ、あれですか。うちの『全自動耕運機』です」
「こ、耕運機……? 畑を耕す機械か?」
ヴェルムは頷いた。
先日、魔法研究所のジークたちが「もっと効率よく畑を耕したい!」と暴走して作り上げた、農業用パワードスーツである。
耕運機に乗っていたオークの農夫が、帝国の戦車の前に置かれた「岩」を見て、首を傾げた。
『お? こんなところにデケェ石があるぞ。邪魔だなぁ』
『除去しますか? 親方』
耕運機に搭載されたAI(人工知能精霊)が喋った。
『ああ、頼むわ』
ウィィィン……。
耕運機のマニピュレーター(巨大なアーム)が唸りを上げた。
そして、戦車が体当たりで壊そうとしていた大岩を、まるで小石のように「ヒョイッ」と持ち上げたのだ。
「は……?」
ガフの目が飛び出そうになった。
数トンの岩だぞ? それを、片手で?
『よいしょっと』
ブォン!
耕運機は、その岩を軽々と放り投げた。
岩は美しい放物線を描き、遥か彼方の荒野へと消えていった。
「……」
「……」
場に沈黙が流れた。
帝国の戦車兵たちが、自分たちの「最強戦車」と、目の前の「農機具」を見比べる。
パワー、静音性、排ガス。
どう見ても、農機具のほうが「未来的」だった。
「な、な、な……」
ガフ将軍が震える指で耕運機を指差した。
「なんなんだあれはァァァッ!! あんなバケモノみたいな出力で、畑を耕す必要があるのかァァァ!?」
「ありますよ」
ヴェルムは真顔で答えた。
「うちは『土壌改良』に力を入れてますから。硬い岩盤も砕けないと、いい野菜は育ちません」
「ふざけるなァァァ!」
ガフは戦車に飛び乗った。
「認めん! 認めんぞ! これは軍事演習だ! そのふざけた農機具と、我々の戦車、どちらが上か勝負しろ!」
ギュルルルル!
帝国の戦車が、黒煙を上げて突進を開始した。
対するオークの農夫は、慌ててレバーを操作した。
『わわっ、なんだ!? ぶつかってくるぞ! ……ええい、「害獣駆除モード」起動!』
耕運機のアームが変形し、先端から高速回転する「ドリル(本来は穴掘り用)」が出現した。
ガギィィィィィン!!
戦車の突進を、ドリルの回転があっさりと受け止めた。
いや、受け止めるどころか、戦車の装甲をバターのように削り取っていく。
「ひぃぃぃ! 装甲が! 穴が開くぅぅぅ!」
「だ、ダメです将軍! エンジン出力が違いすぎます! 押し負けます!」
「馬鹿な! 最新鋭の兵器だぞ!? なんで農機具に負けるんだァァァ!」
ドォォォォン!
数秒後。
帝国の誇る魔導戦車は、耕運機によって綺麗にひっくり返され、亀のように無様な姿を晒していた。
◇◇◇
完敗だった。
ガフ将軍は、黒焦げになった顔でヴェルムを見上げた。
「……き、貴様ら……一体何者だ……」
「申し上げたでしょう」
ヴェルムは、倒れた戦車に「産業廃棄物」というタグを貼り付けながら言った。
「我々は、平和的な『ホワイト企業(魔王軍)』です。……ああ、この戦車、修理代(スクラップ代)として置いていってくださいね。いい鉄が取れそうだ」
こうして、帝国からの「宣戦布告」は、「農業用重機による交通事故」として処理された。
しかし、逃げ帰ったガフ将軍の報告により、帝国本国はより一層の危機感を募らせることになる。
「聖王国は、戦車すら凌駕する『超重機兵団』を保有している」と。




