表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元社畜、ダンジョンマスターになる。 ~残業ゼロ・福利厚生完備の魔王軍を作ったら、人間界の勇者まで転職してきました~  作者: 綾瀬蒼
第2章「国家再建コンサルティング編」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/28

第13話 魔法研究所の変人たち ~魔術式(ソースコード)をオープン化したら、技術革命が起きました~

 聖王国魔法研究所。

 そこは、国中の叡智が集まる場所――のはずだった。


「……暗いな」


 視察に訪れたヴェルムは、カビ臭い廊下を歩きながら呟いた。

 研究所内はジメジメしており、すれ違う研究員たちは皆、自分の研究資料を鞄に隠し、疑心暗鬼の目で他人を見ていた。


「この国の魔術師は、『自分の技術を盗まれること』を極端に恐れていますから」


 案内役のエレオノーラが溜息をつく。


「師匠から弟子への『一子相伝』が基本。新しい術式を開発しても、他人に知られないよう暗号化して金庫に隠すんです。だから、技術が全く共有されず、数百年レベルで停滞しています」


「典型的な『ガラパゴス化』だな」


 ヴェルムは呆れた。

 技術は、共有し、改良し合うことで進化する。

 誰もが車輪の再発明(ゼロからの開発)をしていては、いつまで経っても飛行機は作れない。


「おや、あそこは何だ?」


 廊下の奥、地下へ続く階段の前で、怒号が響いていた。


「出ていけ! この穀潰しめ!」

「ま、待ってください所長! あと少しなんです! この『汎用魔力回路』が完成すれば、魔道具のサイズが十分の一に……!」

「うるさい! そんな金にならん研究より、貴族様を喜ばせる『花火の魔法』でも作っておれ!」


 薄汚い白衣を着た、眼鏡の青年が、太った所長に研究所から追い出されそうになっていた。

 青年はボサボサの髪に、目の下の隈。典型的な「オタク」だ。


「……彼、名前は?」

「えっと、確かジーク。変人として有名です。『魔法を全ての平民に使えるようにする』なんて夢物語を語って、予算を打ち切られたとか」


「ほう」


 ヴェルムの目が光った。

 彼はスタスタと歩み寄り、絶望して膝をつくジークの肩を掴んだ。


「君、その『汎用魔力回路』とやら、見せてくれないか?」

「え……? で、でも、まだ未完成で……」

「いいから」


 ジークはおずおずと、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。

 そこには、極小の文字でびっしりと魔術式ソースコードが書かれていた。


 ヴェルムは一瞥し、唸った。


「……美しい」


 無駄がない。

 従来の魔術式が「スパゲッティコード(継ぎ接ぎだらけ)」だとすれば、彼の式は洗練された「アルゴリズム」そのものだった。

 ただ、起動するための「OS(基盤魔力)」が、この国の技術では追いついていないだけだ。


「所長さん。彼、クビにするんですよね?」

「あ、ああ! 魔王様が引き取ってくれるなら清々するわ!」


「交渉成立だ。……ジーク君、今日から君がこの研究所の『新所長』だ」


「「はぁぁぁ!?」」


 ジークと旧所長の声が重なった。


 ◇◇◇


 数分後。

 ヴェルムは研究所の大講堂に、全研究員を招集した。


「諸君。これより、魔王軍による技術改革を行う」


 ヴェルムは黒板の前に立ち、チョーク(魔具)を握った。


「君たちがコソコソ隠し持っている『秘伝の魔術』。……ハッキリ言って、ゴミだ」

「な、なんだと!?」

「我々の伝統を愚弄する気か!」


 憤る魔術師たち。

 ヴェルムは鼻で笑い、黒板に巨大な魔法陣を描き殴った。

 それは、ダンジョンの転移トラップに使われている、超高度な空間魔法の術式だった。


「ッ……!?」

「な、なんだこの術式は……見たこともない構成だ……」

「転移魔法の詠唱を、ここまで短縮できるのか……?」


 ざわめきが広がる。

 本来なら、国家機密レベルのSランク技術だ。


「これは私が開発した『ダンジョンOS・バージョン2.0』だ。……これを、君たちに『無償』で提供する」

「は……?」


 研究員たちは耳を疑った。


「た、タダで? 見返りは何を……魂か? 寿命か?」

「見返りは一つ」


 ヴェルムはニヤリと笑った。


「『オープンソース化』だ」


 彼は黒板に条件を書き出した。


1. この術式は誰でも自由に使って良い。

2. ただし、これを元に改良・開発した新技術は、必ず全員に公開すること。

3. 技術の独占は禁止する。


「隠すな。共有しろ。君のアイデアに、隣の誰かのアイデアを足せば、もっと凄いものができる。それが『技術革新イノベーション』だ」


 静寂。

 最初に動いたのは、新所長に任命されたジークだった。


「……すごい。このOSを使えば、僕の回路も動く……! いや、あそこの『冷却術式』を組み合わせれば、家庭用コンロすら作れるぞ……!」


 ジークの目が、子供のように輝き出した。

 その熱は、伝染する。


「お、おい! 俺の『着火魔法』と、その回路を繋げてみてもいいか?」

「なら、私の『風魔法』で排気システムを作ろう!」

「待て待て、それならこの素材を使ったほうが効率がいいぞ!」


 今まで自分の殻に閉じこもっていた研究員たちが、次々と黒板の前に集まり、議論を始めた。

 彼らは本来、魔法が大好きな研究者なのだ。

 「隠さなくていい」「協力していい」という許可が出た瞬間、知的好奇心のダムが決壊した。


 旧所長だけが、蚊帳の外で呆然としていた。

 

「な、なんだこの熱気は……」


 ◇◇◇


 数週間後。

 聖王国の魔法技術は、爆発的な進化を遂げていた。


 魔導コンロ、自動掃除ゴーレム、遠距離通信機……。

 かつては王族しか使えなかった魔法が、安価な魔道具として民衆の手に渡り始めていた。


「魔王様! 見てください! 昨晩徹夜して、ついに『自動風呂沸かし機』が完成しました! お湯が沸くと喋るんです!」


 目の下に酷いクマを作ったジークが、満面の笑みで報告に来た。

 彼だけではない。研究所の灯りは、深夜になっても消えることがない。


「……リリィ。あいつら、ちゃんと休んでるか?」

「それが……『楽しすぎて眠れない』『開発合宿ハッカソン最高』とか言って、帰りたがらないんです。……これって、ブラックなのでは?」


「……『やりがい搾取』にならないよう、ボーナスだけは弾んでやれ」


 魔王ヴェルムは苦笑した。

 ブラック企業と、熱狂的なベンチャー企業は紙一重だ。

 だが、彼らの目は死んでいない。


 こうして王国は、金と技術の両輪を手に入れた。

 国力はV字回復し、かつてない繁栄を迎えようとしていた。


 だが、光が強くなれば、影もまた濃くなる。

 急激に力をつけた聖王国を、虎視眈々と狙う『隣の軍事大国』の存在に、彼らはまだ気づいていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ