戸惑いの再会
瞳に映った“セカイ”はさっきまでの賑やかな明るい“世界”とは全く違う、棗の夢が実際に現れたような光景だった。
皆が悲鳴を漏らす、まるで地獄絵図の様なセカイ───
そこに棗とリヴィは呆然と立っていた。
空までもが真紅に染まったセカイ。
「何なんだ・・・これは!」
思わずリヴィの口から悲鳴にも似た叫びが迸る。
「何ってそりゃあ・・・」
チリン、と言う鈴の音と共に声が聞こえてくる。憎悪で胸の奥が掻き毟られるような感覚。
この感覚は───
『スティー・・・!』
「久しぶりだなぁ・・・・リヴィ。何年振りかぁ?ほら、お前も挨拶しろよ」
そう言うとスティーは自分の後ろに目を遣った。
「亨!?」
そこに在ったのは紛れもない亨の姿。
「初めましてリヴィさん。逢いたかったよ・・・棗・・」
「亨・・・!」
その時、大きな爆発音と共に真紅の空に亀裂が走った。
「リヴィさん!棗さん!」
亀裂の間から顔を覗かせたのは榊だった。
「榊さん!」
「榊、どうなってるんだ!?これは!!」
「すみません。こちら側のミスで侵入を許してしまいました」
榊が深々と頭を下げる。
「今すぐ取り押さえますので、少し下がっていて下さい」
そう言うが早いか、スティーと亨が取り押さえられた。
「ったく、折角の再会を台無しにしやがって」
ぼそぼそと呟いているスティーを尻目に榊がもう一度頭を下げた。
「本当に申し訳ありませんでした・・・・。なんとお詫びをして良いのか・・・」
「・・・いえ・・それより榊さん、亨と話すことは出来ないんですか?」
棗が問いかける。
「難しいでしょうし、危険です。棗さんを危険な目に遭わせるわけにはいきませんから・・・」
「大丈夫です。亨は危害を加える存在じゃあないですから」
「でも・・・・」
一瞬戸惑ったようにリヴィと顔を見合わせた榊は、リヴィが首を縦に振るのを確認してから棗に言った。
「良いでしょう。しかし、危険だと感じたら、直ぐに戻って来て下さい。これが梶那 亨との面会の絶対条件です」
「はい」
返事をしてから走り出した。
「亨・・・少し話し出来ないかな?」
「・・・良いよ。でも別の場所で」
「うん。・・榊さん、別の場所に移ります」
榊にすれ違いざまに知らせた。
「はい・・・」
未だ真紅の残るセカイの中を進み、二人はリヴィの家へと入って行った。
「改めて棗。逢いたかったよ」
「うん・・・」
「今までずっとここにいたのか?」
「ああ・・」
「そっか」
───亨、何だか雰囲気が違う。
気のせいか?
別人みたいだ───
棗が違和感を感じるのも無理はなかった。
亨ならこんな状況に立たされていればすぐに助けを求めるはずだ。
「・・・なぁ、亨。お前は・・誰だ?」
「はっ?」
困惑の表情を浮かべる亨。
だが明らかに動揺している。
「何言ってんだよ、なつ・・・───」
「だからお前は誰だって聞いてるんだよ」
「俺は俺だよ?」
「いや、違う・・・」
二人の間に沈黙が続いた。
「勘の鋭い奴だよなぁー、佐倉 棗。俺が居ることはあいつらだって気付かなかったのに」
「・・・やっぱり貴方だったんですね。スティーラム・ハーツさん」
「ああ。あっちのは人形。偽物だ。今頃あいつらもそれに気付いてるだろうよ」
───その頃、サラサラと崩れ散っていくダミー人形を目の前にして、リヴィ達は驚愕の表情を浮かべていた。
「リヴィさん、これは・・・?」
「棗が危ない!!急ぐぞ榊!」
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「リヴィ達、こちらに向かってるみたいだよ」
「そんな事はどうでも良い。亨は何処だ!」
「・・・だから目の前にいるじゃないか」
「何言ってる!お前は───」
その時棗はふと気が付いた。
実体化の方法は一つではない事に──
「と言うことは、お前が本当に亨・・・?」