平和って・・・ナニ?
リヴィが言った“この時間を大切にする”という言葉。
その意味が棗はやっと理解出来た。
夢か現実かは分からない。
また夢なのだろうか?
朝起きたら世界が血色に染まっている。
こんな光景を一体誰が見ただろう?
町の者は皆死に絶え、自らも傷を負っている。
すぐ傍には男女の骸。
誰だか分からない2人の姿に父と母が重なる。
『父さんっ!!母さんっ!!』
棗自身が悲しい訳ではなく、ましてや本当の父親でも母親でもない。
だが、感情の昂りを抑えられない。
誰か助けてくれ!
気が狂ってしまうっ!
心から助けを求めた。
自分の後ろに気配を感じた。
あの嫌な気配。
“あいつが・・・スティーラム・ハーツが居る!”
動けぬまま風きり音がした。
“ヤバイっっ!”
そのまま棗は気を失った。
気を失ったまま、とても長い時間が経ったのが分かった。
『・・・め・・!・・・・つめ!棗!!』
リヴィ達が棗の周りに立ち、心配そうに覗き込んでいた。
「良かったわぁ~・・・私たちがいくら呼んでも起きないんだもの。心配したのよ?」
「何か・・・あったのか?棗」
リヴィが問いかける。
「また・・恐ろしい夢・・・・・」
「どんな夢だった・・・?」
「言い表せないんだっ・・・・。なんて言って良いのか」
するとリヴィが棗の額に手を当てた。
「ちょっと頭ン中見るぞ」
「そんな事出来んの?」
「ああ。この前榊に教えてもらったんだ。あっ!でも二種類やり方があるケドどうする?」
「二種類?」
「一つは俺が頭ン中見んので、もう一つは俺が棗と一体化すんの。どっち?」
棗は少しも躊躇う事無く即答した。
「頭ン中見る方!だってさぁ!リヴィと俺が一体化するなんて気持ち悪すぎじゃんかぁ!」
「・・・・そうかい」
苛立ちを含んだ表情で言った。
「でも・・・多分お前は気持ち悪いだろうが、俺と一体化する方が恐怖は少ないぞ」
「どういう事だ?」
リヴィがフゥと溜め息をつく。
「俺とお前が一体化する場合は、まぁ、お前は気持ち悪いだろうが、俺だけが記憶を探るから、恐ろしい夢を再び見なくて済む。だが、頭の中を見る場合は記憶を呼び起こして、俺とお前の両方が恐ろしい夢を見ることになる。俺は恐らく自分の過去だろうから、今更何とも思わないが、お前はもう二度と怖い思いはしたくはないだろう?少しの不快感と大幅な恐怖。お前ならどちらが良い?」
棗は酷く戸惑った。
あの恐ろしい夢をもう一度───
体中を寒気が奔る。
恐怖が込み上げてくる。
「嫌だ・・・・。あの・・恐ろしい夢はもう見たくない・・・!リヴィ・・・頼む」
「分かった。少し眠ってろ」
そうリヴィが言うと、意識が遠退いた。
『これで良し』
棗とリヴィが一致した。
『・・・・でさ、ミレイナ達はいつまで見てるつもりだ?』
『『だって棗が心配じゃんか』』
とクラウス兄弟が言った。
『集中できん!外出てろ!!』
そう言われ、ミレイナ達は外に追い出された。
『じゃあ、静かになったことだし・・・・』
と言って、意識を集中し始めた。
リヴィの中に記憶が流れ込む。
あの忌々しい記憶が───
“自分の過去だろうから、今更何とも思わない”
そう言いはしたが、やはり辛いものがある。
『はぁ・・・とりあえず終了』
額から汗が滲み出てくる。
「リヴィ・・・・もう入っても良い?」
ミレイナがドアの外から呼びかけてきた。
「もう良い。終わったから」
「棗君、いつ目を覚ます?」
「もう一、二分したら起きんだろ」
それから一、二分して棗は体を起こした。
「終わったよ、棗。あれは多分・・・スティーに町を襲われた時の記憶だろう」
「そうか、、、」
棗の表情が少し、曇っている。
「どうした?棗」
「・・・リヴィは・・今まであんな重い過去を背負って来たのか?あんなに恐ろしい記憶を・・・・」
「・・・・・そうだ・・」
「俺、何も分かっちゃいなかったんだな・・・」
「良いんだよ。棗はほんとなら知らないままで良いことだったんだから」
優しい言葉に安堵を覚える。
「でも・・・平和な時間はやっぱり長くは続かないんだな・・・」
リヴィが呟いた。
『チリン、チリーン』
遠くで鈴の音が響く。
「ほら、お前にも何故か・・・分かるだろ?」
言っている事の理解は出来る。
「この鈴の音は、亨がいつも持っている鈴の音だ」
「でも、この鈴の音、二重に響いてるぜ?しかもこの鈴はスティーも持ってる」
胸騒ぎがして、急いで外に飛び出した。
その瞳に映る真実を受け止めきれないまま───