憎しみの記憶
呆気に取られている棗を見上げながら子供の姿のリヴィが嗤い、『どうしたの?オニイチャン』と尋ねる。
リヴィは俺が誰だか分からないのか?
「俺の事が分からないのか?」
『分かるヨ、棗』
そう答えた瞬間──リヴィは消えた。
そして背後から声が聞こえた。
金縛りにあったように体が動かない。
『ただ、棗は分からない事が沢山あるでショ?』
「──ああ」
『何で分からないのかナ?』
「そんな事俺に聞かれても・・・!」
『じゃあ教えてあげるヨ。棗はね、分からないんじゃなくて思い出せない・・ううん、思い出したくないんだ』
思い出したくない?
何故思い出したくないのか、棗には分からない。
「どうしたら思い出せる?」
するといつの間にかリヴィが目の前に立っていた。
『良イノ?思イ出シテシマッテ』
優しい口調の様で冷たい声。
気を抜いたら何かに呑まれる様な不安を煽る。
『其レガドンナニ辛イ現実デ有ッテモ、後悔シナイ?血塗ラレタ過去ヲ知ッテシマッテ苦シクナラナイ?』
「───ああ。俺は知らなければいけないんだ」
リヴィがニヤリと不気味な笑みを零す。
『じゃあ付いておいでヨ。見せてアゲル』
そこまで言うと辺りの雰囲気が一気に変わった。
『最高の夢をネ』
本当の底知れぬ闇。
───怖イ───
「うあぁぁぁぁぁっ!!!」
ベットから飛び起きるとリヴィが心配そうな表情で棗の隣にいた。
「リヴィ───」
「大丈夫か?酷く魘されていたけど・・?」
「──とても怖いモノを見た・・・。おぞましい記憶を・・・」
恐怖に震える棗を見て、リヴィが「そうか・・悪いな」と呟いた。
「何でリヴィが謝るんだよ?」
するとリヴィは申し訳なさそうな顔をして言う。
「それは・・俺のせいみたいなもんなんだ・・・・。一時、俺は憎しみに染まった記憶が強かった・・。そして多かれ少なかれお前の中には俺の記憶の欠片がある。勿論、憎しみの記憶もな・・。それがお前に同調したんだろう・・・」
「・・・そっか」
すぅっと心の中の疑問が消えていった。
だからここに来たとき、懐かしいと感じ、榊に事実を知らされ、憎しみに駆られたのか。
窓から陽が差し込む。
「もう、朝だな。立てるか?」
リヴィが手を差し出す。
「ああ。もう大丈夫だ──」
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それから昼下がりになった──
「ところで、さぁ。リヴィ」
「ん?何だ?」
リヴィが棗の言葉に振り返る。
「何でリヴィは最初、俺の中にいたんだ?」
暫しの沈黙。
「う~ん・・・。じゃあめんどくさいけど説明すっかなぁ」
そう言って面倒臭そうにリヴィは話し始めた。
「ますば輪廻の関係性からだ。輪廻の意味は分かるよな?」
「・・・う~ん?」
真面目に分からなかった。
「分かるよ・・・ナ?」
リヴィの顔が怖い。
「リヴィさ~ん。顔が怖いよぉ~。てか、真面目に分からないし!」
「はあぁぁぁぁ~」
「・・・そんな明白に溜息吐かなくても・・」
「りんね【輪廻】
〔名・自サ変〕回転する車輪がきわまりないように、衆生が死後、迷妄の世界である三界・六道の間で生死をくり返すこと。仏教の基本概念。流転。・・・デスケド解リマシタ?」
怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!
「解りました!!笑顔が怖いです!リヴィさん!!!」
『・・・・・』
「ハハッ!おまっ、顔引き攣りすぎっ!!ブハッ!」
リヴィが突然大笑いしだした。
「何でそんな笑うんだよ!」
「悪ィ、悪ィ。でも」
リヴィはほんの少し真面目な顔をした。
「こっからが本番だ」
ゴクッ──棗は息を呑んだ。
「だけど・・・疲れたから今日はお終い♪」
「そんな終わり方ありかよーーー!!!!」
そんなワケでリヴィの気まぐれによって話はお預けになったのである───