また逢える日まで
犯してきた罪とは一体どれ程のものであるかは計り知れない。
罪を犯した記憶も無い。
だが、二人の言葉が偽りではない事は分かる。
『青空の下、我行かん。行く先に親とて、既に有らず』
スティーが口にした言葉。
圧迫感に苛まれる。
『紅蓮の砂漠は世界を紅く染め上げ、復讐へと誘う』
それでも未だに状況を飲み込めない。
「これがさぁー、俺の親が死ぬ時に、俺に残した言葉だよ」
クスクスと不快な笑い声をあげる。
「どう言う意味か解るか?」
棗達は沈黙する。
「これはな、“この青い空の下をお前が何処まで歩いても、もう私達は居ない。血で紅に染まる砂漠を歩いて行けば、復讐の元へ導かれる。”って意味なんだよ」
“それで何処に辿り着いたと思う?”と尋ねる。
「リヴィ、お前の元だよ」
激しい動悸。
「まさ・・・か?」
「そう。お前の両親が俺の親父達を殺したんだよ?」
棗の心臓が潰れそうな程に鼓動打つ。
苦シイ。
息ガ出来ナイ。
デモ、コレデ全テガ繋ガッタ。
「だから──俺の父さんと母さんを殺したのか?」
「そうだよ」
「何故町の人達まで傷つけた!何故!!」
「前からお前の事、大嫌いだったんだよ!だからお前に連なる者を、全て排除してやったんだ!それにアイツ等は全員政府機関の奴らだ!親父達を殺した、『Six road police』のな!いくら反政府組織だからって、殺されるような真似、してなかったのに!」
違う───。
本当は違う筈だ!
分からないけれど、何かが違うんだ。
棗の心が激しく叫ぶ。
その時だった。
亨が涙を流したのは。
暫しの静寂が訪れ、世界は静まり返った。
リヴィも一呼吸置いて話し始める。
「なぁ、スティー。本当は・・・違うんじゃないのか?」
「何が・・・?」
「本当は怨みなんて無かったんじゃないのか?」
「いいや。怨みはあったさ。『Six road police』も憎くて堪らなかった!でも・・でも!お前と・・・お前達と一緒にいる事で、消えてしまいそうで恐かった!お前の両親や町の人に優しくされる事で、出来ないって不安だった!失う事が恐くなった!だからやるなら早くって・・・!!俺は憎まなければならない!自分の親を殺した奴らを!!それはお前の親であっても同じだった・・・・!だから・・俺はやった」
「・・・・・俺はさ、理由を知ったからって許せるほど、器のデカい奴じゃないんだよ」
するとスティーは申し訳なさそうな、悲しそうな笑みを浮かべる。
「そうだよな・・・。お前も同じだもんな・・?でも知っておいて欲しかった・・・・」
「スティー・・・ありがとな。それと・・・・ごめん」
スティーが首を横に振る。
「良いんだ・・・・。最後に伝えられて良かった!本当にごめんな・・・。ありがとう!!ずっと一緒に笑っていられたら良かったのにな・・・!」
最後は涙しながらも笑顔だった。
きっとスティーはこれで満足だったんだ、と、棗は思った。
そうか。
だから・・・。
「だから亨も・・・」
「ではリヴィさん。棗さん。スティーラム・ハーツ及びに梶那 亨を拘束します」
え・・・?
「とっ、亨も連れて行くんですか?何で亨まで?」
「ですが棗さん・・・スティーラム・ハーツに連なる者は拘束しなければなりません」
「そんな・・・」
その時、口を閉ざしたままだった亨が、棗に歩み寄ってきた。
「棗・・・多分こうなる事は必然だったんだよ?」
半分諦めたような瞳。
「だからって、お前が行く必要はないだろう!?」
スティーと同じように、亨は首を横に振った。
「これは俺の罪だ。それに例え今逃げたとしても、決して逃れられはしないだろう。だから俺は行くんだよ。俺の罪を償いに」
「ではそろそろ」
榊の言葉に足を進める二人。
その二人の前に、いつか見た時間断層が現れる。
「亨・・・」
もし・・・・もしも俺達がこんな立場ではなかったら、ずっと一緒に友達でいられただろうか?
「亨!もう逢えないのか!?」
軽く微笑む亨。
「大丈夫。現世でも逢えたんだ。来世でも逢えるさ。だからさ、時を越えてまたいつか」
「亨っ!!」
遠くから水城も駆け寄って来た。
「亨行っちゃうって・・・」
「なぁ?水城。棗を宜しくな・・・。コイツは水城がいないと駄目だからさ」
「うん・・・!また逢える事、願ってる・・・」
最後に亨は満面の笑みを浮かべた。
「じゃあな!棗!」
涙か止め処なく溢れて来る。
「っ・・・」
「棗・・・終わりだよ。もう・・終わった」
「リヴィ・・・ありがとう。でも・・さ、お別れ言わなきゃ」
「そうだな・・・・。行こう!」
今にも時間断層に消えて行きそうな二人の背中を追った。
「亨!」
「スティー!!」
『またな!!』
二人も応えた。
『来世でまた逢おう!!!』
大丈夫だよ。
もう大丈夫。
歩いて行ける。
その後俺達は普通の生活に戻って行った。
長い期間彼方の世界にいたにも関わらずこっちの世界では入学式の次の日。
それからの月日が経つのは早く、いつの間にか卒業式を迎えた。
あの日から三年間。
亨の事を覚えている者は俺と水城以外には居なかった。
卒業式が終わってふと思い出す亨の姿。
「あーヤバい。俺泣きそー」
「どうしたの棗?卒業が悲しい?」
「いや、違くて。ただ・・・────」
その時、声が聞こえた。
『また・・・な。棗』
アイツの姿が一瞬、見えた気がした。
「棗?」
ずっと・・・空を見つめていた。
「亨!またな!!!」
大声で青空に向かって叫ぶ。
思いっきり笑い声が響いた。
───それからいつか、何処かの中学校。
「いーおーり!」
そこに伊織と呼ばれた少年がいた。
「何だよ愛」
「えへへー。今日から中学生だね!」
「そうだな。・・・ん?」
「どしたの?」
「いや、アイツは?」
「転校生だってー。って伊織!?」
何かに引き寄せられるかのように、伊織は一人の少年の元へ向かった。
「なぁ、君転校生なんだって?良かったらさ、俺と友達になんねぇ?」
振り向いた少年の顔を見て、一瞬懐かしいと言うう感情が走った。
「亨・・・?」
「棗・・・・!?」
二人で言葉にして、慌てて口を塞いだ。
「え!?あっ悪い!」
「いや!僕も・・!」
「・・・あのさ、変だって思わないで聞いてくんねぇ?俺さ、君を見た時頭ん中で、“やっぱり俺と亨が出会ったのは、運命だったんだ”って声が聞こえたんだよな。・・・・って思いっ切り変な奴みたいじゃんか!ごめん。今の忘れ────」
「ううん。良いよ。僕もね、頭の中で声が聞こえたんだ。“久しぶりだね、棗”って。二人とも何処か可笑しいのかも知れないけど、でも聞こえたよ?」
「そっか。俺の名前は松永 伊織。宜しく」
「僕は斉藤 雨龍。雨龍って呼んで」
微笑んで握手をした。
ほうら、やっぱり。
『俺と亨が出会ったのは、運命だったんだ』
『久しぶりだね、棗』
『もうずっと友達で居られるな』
『ああ!ずっと一緒だ!』
聞こえた。
優しい声。
穏やかな会話。
「俺達、棗さんや亨さんみたいな親友になれると良いな!」
「そうだね!」
今度はずっと一緒だ!
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『────貴方の周りにも、数々の輪廻があります。そして輪廻の輪とは永遠に続くもの。ですから今日も、何処かで廻り続けている運命があるかも知れません。ほら、貴方のすぐ隣でも、貴方に無関係な者など居ないのです。いつか私も、貴方にお会い出来る日が来るかも知れません。廻る運命の輪の中で。その時まで、暫しのお別れです。また逢える日まで』