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お母様の形見

とある夕方、オレンジペコー公爵が帰ってきたところを夫人は出迎える。


「貴方、最近仕事が忙しいようですが、キャンディに手伝わせてもいいんじゃないかしら?」


「何を馬鹿な事を言っている、キャンディは無理だ」


「‥‥あの子だって、オレンジペコー家の娘よ。いつも可愛がってくれてるのに、こういう事は期待しないのね?やっぱり貴方はまだ亡くなった奥様を愛してるんでしょうねぇ」


そう言い夫人は立ち去り、自分の部屋へ行こうとした時だ。娘のキャンディが母親に話しかける。


「あ!お母様っ!お願いがあるの!この屋敷から追い出して欲しい男がいるの!」


「はあ。キャンディ、大声を出さないでちょうだい」


「セイロンっていう黒髪の男!最近リゼお姉様と仲良くしているの!でもあの男は‥‥私達を破滅させる悪魔のような男なのよ‥‥」


ブルブルと震えて話すキャンディに、母親はキャンディの頭を撫でる。


「あら、リゼにアッサム以外に気にいった男がいたなんて‥‥その男について詳しく聞かせてくれる?」


キャンディは何度も同じように、セイロンは悪魔だと説明をする。


「絶対‥‥あの男を追い出さなきゃ、私達殺されるもの!」




ー数日後ー


「ふうー、やっぱりベットの上でゴロゴロしているのが1番だわ!エリザベス様から貰ったチョコ最高!」


そうゴロゴロとグータラを堪能している姿の私を見ても澄ました顔をしているセイがいた。セイが最近、屋敷の中では私の護衛としているようにと命じられたみたい。


多分、他の護衛役の者が今の変わり様の私に戸惑っている為、お父様が私に物怖じない態度をとって接するセイを見て、屋敷内ではセイをつけるようにと言われた。外へ行く時は、正式な護衛の騎士とセイを連れていかなくちゃならないみたいだけど。


というか、護衛というより私が何かやらかすのでないかという見張り役よね。


私はソファの方へ座り、端っこにいたセイに話しかける。


「もう夏休みだし、当分引き篭もりするから護衛というか見張り役はいらないのに。あ、ねえせっかくだし、屋敷の庭でお菓子食べに行きましょうよ」


「ゴロゴロとしているのではないのですか?」


「私はそれが最高なんだけど、一日中、セイは部屋で立ちっぱなしも体に悪いでしょ。それと剣術大会がそろそろ始まるけど訓練の調子はどうなの?」


「それなりに、ですかね」


いや、どれなりによ?学園へ通って、屋敷内の訓練に参加して、夏休み入れば私の護衛役にさせられて、本来もっと剣術を磨くため訓練したい筈だし‥。


「面倒だけど、たまにはセイにご褒美をあげなきゃいけないものね。私が外でお菓子食べてるから、その間でも剣術の練習してみたらどう?」


そう私は提案して、籠の中に沢山チョコレートとクッキーを入れてもらい外へと出る。


「‥‥お側にいられるだけで、充分ご褒美なんですけどね」


「何?何か言った?あ、チョコは渡さないわよ」


そう私達が庭先へ向かっていると新人らしきメイド達が何かを燃やしていた。夏なのに、暑くて大変ね‥‥ん?


私の足は止まり、燃やしている物を良く見てみると


「‥‥あれは‥‥」


「リゼお嬢様?」


私は急いで燃やしている方へと向かい、メイドを押しのけた。


「貴女達!何を燃やしているのよ!!」


「え?!リゼお嬢様‥‥私達は要らなくなった物だから燃やせと奥様から言われて」


「は!?このドレスはーーとにかく水を!!消して!」


私が焦っていた事がセイも察したのか、セイは近くにあった池の水を汲み取り、炎は燃え消えたけど‥‥ドレス達はほぼ黒焦げでボロボロだった。


メイド達は私に謝っていたけれど‥‥燃やせですって?屋敷のメイドはこのドレスがなんなのかわかるはずなのに、わからない新人にそう命じたの?唯一亡くなったお母様の形見であるドレスなのに‥‥。


「あら?どうしたのかしら。リゼ」


「こんなところにいたんだね、リゼ!」


そう現れてやってきたのは、お義母様と花束を持っているアッサム様だった。


「‥‥お義母様、何故亡くなったお母様のドレスを燃やすよう命じたのかしら?」


「私の物をどうしようが勝手でしょ?リゼ、貴女はすぐに理解してくれる子だったのに最近本当におかしいわよ」


「‥お義母様こそ頭大丈夫ですか?あぁ、最初からおかしい方でしたものね」


「な、なんですって!?」


昔からこの人は、お父様がいない時、私には地味に嫌がらせをしてきたのよね。最初は小さい頃知らずに本当のお母様だと思っていたけれど‥‥。


「まあまあ、二人共落ちついてください。リゼ、ドレスの事は残念だけど、僕が新しいのを買ってあげるから元気をだして」


「‥‥いや、お前は黙って」


「おまっ‥‥て、え?ちょ、リゼ?」


私はキッとお義母様を睨みこの場から一人立ち去る。


セイロンはまだ燃えていない一部分のドレスの布を拾い、ペコリと頭を下げ立ち去ろうとするとアッサムはセイロンの肩を強く掴む。


「あ!また君か!?リゼにちょっかいをかけてるとキャンディに聞いーー」


「『お前は黙れ』、ですよ」


セイロンの威圧に負けたアッサムは固まってしまい、パッと手を引っ込めた。





夕食時間は、アッサム様もいるみたいなので私は夕食を取るのも面倒だし、今お義母様の顔を見たらぶん殴りそうだもの。


あれから、真夜中になった。


真っ暗な部屋で私は窓の外をボーと眺めていた。唯一のお母様の残り香があるドレスで、いつか大人になった時リメイクして着て見たかった。


私を産んですぐ亡くなったお母様がどんな人かは知らないけど、乳母からよく話を聞いていた。素敵な方だと‥‥。


コンコンと私の部屋のドアを叩く音がした。私は返事もせずに無視していると、セイの声だった。


「‥‥セイロンです。リゼお嬢様の忘れ物があるので届けに参りました。すぐに帰りますのでよろしいですか?」


「‥‥入って」


そう私が話すとセイロンはゆっくりとドアを開け、頭を下げてから部屋へと入る。

私はセイの顔を見ずに、窓の外を見続けていた。そっと私の目の前に、少し焦げ臭さはある小さなウサギの人形が現れた。ウサギの人形の服は‥‥小さな花柄模様の緑色の生地‥‥


「コレ‥‥お母様のドレスのもの?」


バッと私はセイの顔を見て話す。


「生地がほとんど燃えていたので、残った物で作りました」


「ぷはっ‥‥!セイ、貴方、顔に似合わず、裁縫も得意なの?!ウサギの目までボタンだし。やっぱり、セイは良いお嫁さんになれるわね」


私はウサギの人形をぎゅっと抱きしめた。


「‥‥‥セイ」


「はい」


「‥‥‥っありがとう‥‥」


「‥‥はい」


私は普段泣かない。泣くのをいつも我慢していたからだ。アッサム様の前では笑顔を見せるようにといつもそう思っていて、あまり汚い部分を見せたくなかった。だけど、流石に今日の事は頭に来て悔しくて、セイの前で泣いてしまった。鼻水なんて沢山出て、多分顔はぐしゃぐしゃだわ。


セイはウサギの人形を渡したあと、私が泣いてるのを知ったのか泣き顔を見ようとせず、すぐ背中を向けてただ黙って立っていた。


「‥‥ぐすっ‥‥いつか仕返しするんだから。美容液とか無くそうかな‥あれ、高いから」


ぶつぶつ泣きながら文句を言う私にセイの顔はわからないけれど


「ではその時は私も、お手伝いをいたしましょう」


そう心強い事を言ってくれた。その後セイは「夜遅くにお嬢様の部屋へ来て申し訳ございませんでした」と言い部屋から出ていき、私は、セイが作ってくれた、ウサギの人形を枕元に置いて深い眠りについた。


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