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三題噺もどき4

記憶

作者: 狐彪

三題噺もどき―ろっぴゃくろくじゅうさん。

 



 足元に広がるアスファルトは所々に水たまりを作っていた。

 今日は朝から雨の予報だったらしいから、それも当然か。

 私が起きたころは、降っていなかったから気づかなかった。

「……」

 いつから降って、いつまで降って、この水たまりができているのかも分からないが。

 まぁ、そこまで大きなものができているわけでもなし。浅くて、小さめのものが多めにできているだけだから、散歩に支障はない。

 出来ているそれをよけながら歩くのも、悪くはない。

「……」

 頭上に見えるはずの月は、分厚い雲に隠れている。

 また雨が降りやしないだろうかと思ったが、そんな気配もないので傘は持ってきていない。

 そうでなくても傘なんて持ってこないが。手がふさがるのはあまり好きではない。

「……」

 とくに行く当てもなく、ふらふらと歩いている。

 知らない人が見れば夢遊病か何かと間違えるかもしれないな……まぁ、見られることはないのだけど。こちらに気づくのはせいぜい野生の勘のある生き物か、夜を生きる化物か、人ならざるモノか。あまりその手のものはこの辺りにはいない。猫や付喪はいるけれど。

「……」

 そうだ。

 付喪で思いだした。

 そろそろあそこの公園に行ってみるとしよう。

 桜はもう既に散って、葉ばかりになっているだろうが、公園に行く目的は何もそれだけではない。話をしに行くと言うのがある。

「……」

 あそこにいるブランコには、なぜか気に入られた上に、家まで憑いてきたことがあったので、そこまで頻繁には行かないつもりではいるのだけど。

 どうにも、居心地が悪くはないのでふらりと足が向くことがある。それと同じで墓場にも行きたいが……あそこは特に、頻繁に行くと何が起こるかわかったものではないので、意識していかないようにしている。行きたいが。

「……」

 進行方向を公園に据えて、道を進んでいく。

 濡れた地面から湧き上がる湿気に、少し息苦しいような気がする。

 先週あたりから、どうにも暑いばかりでいけない。ここ数日は特に寝苦しくて耐えられないのだ。寝ている間に起きることなんてそうそうないのだけど、今日は何度か目が覚めた。

 まぁ、すぐ寝直すので問題はないのだが……。この時期でこんなに蒸し暑くて寝苦しいと、本格的な夏や梅雨が来た時にはどうなる事やら。

 考えるだけで恐ろしい。

「……」

 その時期になれば、服装は半そでになるだろうし。

 髪を更に短く切りそろえたりもするから、耳に光るピアスがよく映えるかもしれない。……うちの従者の話だ。アイツは私以上に外に出ないから、肌が真白だし、まぁ、顔も整っているので見るもの全てを魅了しかねない。

「……」

 うーん。でも、夏祭りには連れて行きたいのだがなぁ。

 認識阻害をするにはするが、果たしてアイツを隠しきれるかどうか……ま、問題はないだろう。その前に人混みを嫌っていきたがらないかもしれないが。

「……」

 まぁ、そんなことをぼんやりと考えながら歩いていると。

 あっという間に公園にたどり着く。

 案の定桜の木は、緑の美しい葉っぱを広げていた。いつまで桜の花が残っていたのだろうか……何日が風が強い日もあったりしたようだし、先日花見に行った日も結構散っていたからな。美しさと儚さの両方を備えているから、桜はこうも魅力的に映るのだろう。

「……、」

 その木の根元辺りが、不自然に掘り返されているのに目がついた。

 自然とできたものではなく、明らかに人の手で掘られているのが見てわかる。きれいに戻そうとはされているが、見る人が見れば明らかに掘った後だと言うことがわかる。

 この巨大な木を根っこから持って行こうとでもする愚か者が居たのだろうか。

「……ん」

 その根の不自然さに私が気づいたことに気づいたブランコが声を掛けてきた。

 相変わらず元気そうで何よりだ。ここにある遊具の中で一番幼いのか、どうにも子供じみたところがある。まぁ、子供が遊ぶ遊具である以上、それなりの影響を受けてはいるのかもしれないが。

「……あぁ、なるほど」

 どうやら、先日、ここに二人程の人間がやってきて、ここを掘り返したらしい。

 彼らの記憶では、昔ここによく遊びに来ていた二人のようだ。

 そこには、二人が埋めたタイムカプセルというモノが眠っていたようだ。

 話に聞いたことはあるが、タイムカプセルか……何ともその二人はロマンチストのようだ。

「……」

 その二人は、その場で箱を開けて、語り合っていたようだ。

 それを見ることしかできない遊具たちだったが、それでも幸せだったと語っている。

 彼らは、人に忘れられると消えてしまう。しかし、その二人はここにあることも忘れず、この場所で遊んだことも忘れず、いつまでも忘れずにいると、遊具たちには伝わったらしい。

「……」

 まぁ、正直なことを言うと。そこまで人間は簡単ではないし、記憶のキャパがあるわけではない。いずれ忘れられるかもしれないし、その二人だって人間である以上寿命というモノがある。……が、そんなものを指摘するのは無粋というモノだ。

「よかったな……」

 彼らが、幸せならばそれでいい。

 いつまでも話せるようにと、ほんの少しだけ思っておこう。





「おかえりなさい」

「ただいま」

「……なんだかご機嫌ですね」

「そうか?……そうかもな」












 お題:タイムカプセル・ピアス・ブランコ

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