お宅訪問
妹ちゃんの名前を変更しています。
前話投稿後にこっそり直しました。びっくりさせてしまったらごめんなさい。
本日も楽しんでいただければ幸いです。
とはいえピリついた秋月くんにそんなことは言えない。すぐにお父さんも車に乗って出掛けてしまったし、あれこれ話すタイミングがなかったのは不幸中の幸いかもしれない。まだ無言の秋月くんの腕を軽く叩いていると、山村さんが玄関先に車を停車させた。
「ありがとうございました」
「いえいえ、お帰りの際にもお声がけください。お送りさせていただきますので」
それはちょっと申し訳ないので、ここの最寄り駅までで良いです……なんてやり取りをしながらも、山村さんは車のドアを開けてくれる。私の後ろからは秋月くんも降りて、そこで山村さんとは一旦おわかれ。
「こっちだ」
「あ、うん」
ドアの先は大理石が敷き詰められた広い玄関。すぐのところに小さなドアがあるのはシューズクローゼットかしら。靴を脱いで二階まで吹き抜けの玄関ホールへ上がると、右手奥の階段へと通された。特に案内の人は見当たらないけど、上がり框にスリッパは用意されていたからお手伝いさんとかはいるのよね……?
踊り場で九十度曲がって二階にあがると広々とした廊下に辿り着いた。建築様式としては洋館になるのかしら? まぁ一般的なご家庭って感じじゃないわね。廊下に繋がっているドアだけでも五つ、そのうちの一つのドアを秋月くんがノックする。
「はぁい」
応答の声が幼い。たぶん、妹の瑛舞ちゃんのものだろう。
開かれたドアの先も広いこと広いこと……女の子らしい壁紙や調度品で飾られているけど、雑多な感じがしないのはさすが。ただその本人はベッドの中から手を振っていた。
「……熱か」
「また出てしまったの。柳木さんが、きっと興奮したからでしょうって――大瀧さん、こんな姿でごめんなさい。朝までは元気だったのよ?」
頬を赤くさせていないから、熱といっても微熱程度なのかもしれない。高熱を出していたら山村さんが言ってくれただろうし、それなら取りやめになったはずだもの。瑛舞ちゃんも秋月くんも普段通りに会話をしているから、きっといつものことなんでしょうね。
「色々とお話したかったし、お茶も一緒に楽しみたかったのに……」
「無理はしないで欲しいわ。瑛舞ちゃんが良ければ、またお邪魔させてもらうから……あ、でも秋月くんが良いって言ったらね?」
潤んだ瞳で「お兄ちゃん……」とお願いする瑛舞ちゃんは、間違いなく美少女だわ。秋月くんとはあんまり似ていないから、お母さん似なのかもしれない。
「朝から熱を出していなかったら止めはしない」
「ですって。……今日はこれで失礼するけど、お誕生日プレゼントだけ渡させてもらうね。使ってもらえると嬉しいわ」
ラッピングしたシュシュを渡すと、瑛舞ちゃんの顔がパッと華やいだ。
「ありがとう! 大瀧さん!」
ただその頬がブワッと赤くなってしまって、私は慌てることになった。興奮させすぎちゃった!? でも秋月くんはもう少し慌てて欲しいわ!! いつものことって、本当にそうなの!?