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一章三話 発覚

「本当にこの()がやったのかい?何回調べても、たった三歳の子どもじゃないか」

「確かにそうですけど…」



 リーンさんが手続きに悪戦苦闘していることには正直、申し訳ないと思う。だが鑑定士よ、これは事実なのだ…。受け止めてくれたまえ。


「じゃあ、私が実際にやったってことが証明出来ればいいですよね?そしたら問題なく買い取ってもらえますね?」

「それはそうだが…、もしこれらが全て嘘だった時、君が怪我をしたら自分が責任を取らなくてはならないし」

「おや、自分の身の保身が優先なんだ。自分可愛さに他人を信用しないとは、鑑定士も二百年近い間に落ちたなぁ」

「そこまで言うならどうぞ。自分は一切の責任を負いません」


 鑑定士がそう言い終えてすぐ、私は警戒度数【中】のホークを低空飛行させ、周囲のゴブリンを貫通させてみせた。




「疑ってしまい、申し訳ございませんでした。まさか転生者だとは思わず…。しかも〈煌魔〉の力を使う魔女様ですか」

「あんまり他人に本性を明かしたりはしたくなかったし、寝てるはずなのに私だけ魔王に殺されてましたなんて恥ずかしい話だけど」


 鑑定士から謝罪を受けていた私は、ぶっちゃけ話を信じられていなかったことは怒ってないし、ドスカイラゴンの死骸やファンガーパンサーのドロップ品のおかげでたんまりお金が入り、上機嫌である。


「それで魔女様、冒険者登録はされますか?月々の登録料はかかりますが、様々な福利厚生を受けることができます」

「いいけど、三歳児に経験度数は付くの?」

「経験度数に年齢は関係ないですから」


 鑑定士に促されるがままに私は冒険者登録の手続きを行うことにした。

 まだ手のひらが大きくなくてペンを正しく使うほどの筋力もない私はリーンさんに書類を書いてもらい、一八七年前とは違う血流を使った経験度数の計測機器に腕を通した。


「転生されてから魔物を討伐されたのは今日が初めてですか?」

「そうだけど」

「スカイドラゴンを討伐したわけですし、経験度数二〇くらいは簡単に到達しているでしょう」


 少しして計測機器は怪しく緑色に光り始め、空中には警戒度数二七が示されていた。


「お、恐ろしいですね…。わずか三歳で経験度数二七とは。しかもたった数分でこれだけの経験値を稼ぐことは不可能に近いです」

「まあ、私は【魔女】だから普通の人間とは何か違うんでしょ」



 私とリーンさんは、私の稼いだお金で買い食いやショッピングをし、夕方の三時頃には家に帰ったのだが…。


「リーン姉さん?リアちゃん?ちょっと話があります」


 自分を取り戻せたようで上機嫌になって油断していた私が馬鹿だった。

 母メオラは私たちが家を抜け出していたこと、或いはまた別のことに相当お怒りのようだった。


 私とリーンさんはお母さんに向き合う形で食卓に座った。

 リーンさんは、絶望していた。お母さんが怒ると怖いのか、それとも私を連れ出すと相当のペナルティが課せられる約束だったのか…。


「昼間、役場でリーン姉さんとリアちゃんがいるのを見かけました。冒険者関係の課に用事があったようで、何をしに来たのかな~、と思って耳を澄まして聞いていたら、リアちゃんが魔女様だとか、そういう話をしていたみたいだけど…」


 流石に、もう隠し通すことはできない。隠す必要がなくなれば、今まで以上に気楽な生活が送れると思うと、その方がいいとも考えてしまうが。


「職員さんに迷惑かけちゃダメでしょう。あそこの職員さんはみんなノリがいいから話を合わせてくれたけど…」


 想像していたことと違う発言に、私は安堵した。がその一方、職員さんに迷惑をかけた、とレッテルを貼られ、締め付けがきつくなってしまうのではないか、と不安がよぎった。だから、口を滑らせることにした。


「まあ、私が魔女様なのは本当で、今日だけで経験度数二七になったんだけとね」


 当然といえば当然だけど、お母さんも、その後ろに立っているお父さんも、一瞬だけ顔から表情が抜け落ち、すぐに困惑した顔になった。


「えっと、流石に冗談だよね?」

「私は【煌魔の魔女】ガナ・キランヴェル。一八七年前の魔王との決闘で唯一殺された【十二魔女】最弱。敗因は魔物が魔王城にいなかったこと!」


 数秒間の沈黙は、それはそれは、とても気まずいものだった。両親に今まで見たことのない顔をされて焦るのは数百年振りだ。


「…通りで色々都合がいいし、聞き分けがいいし、第一次反抗期が来ないと思った。魔女様、これからも私たちに支えさせてください」


 メオラが土下座するのにつられ、マルクサンドロスも土下座するのを見て、ガナは慌てた。


「いやいや、そんなことしなくていいよ。今まで通り、親子って感じの関係のままでお願いできない?」

「分かったわ、ガナ」


 こうして、私の戸籍上の名前がガナ・デイルポッドに変更されたのであった。

 が…。


「三歳で度数二七なんてすぐに噂が広まって、妬んだ連中に殺されかねない。何かあってからでは取り返しがつかないから、しばらくガナは家に居るべきだと思う」


 お父さんの余計な提案の所為で、私は翌日から再び外に出られなくなった。

 ただ、本などは読んでいいと言われていて、遙か昔から様々なジャンルの本を読むオタクだった私は、丸一日書庫にいても暇をすることがなかった。


 時には、二階の窓から外を眺め、ホークがいれば操って〈敵感知〉に引っかかった魔物を狩って過ごした。


 本当に暇な時は、古い記憶から好きだったアニメや漫画のストーリーを思い出して紙に書くこともした。

 その所為で、嫌な記憶を思い出してしまうこともあるけれど、懐かしさに浸る時間もまたいいものだった。


「ガナ。【魔女】は剣術を鍛え、習得する必要がないのか?」

「少なくとも、私は権能が権能だから剣術なんて習得しなくても困らないよ。他のみんなに使い道はあるんだろうけど、魔物を操ることに剣は要らないから。それに、普通の剣は数十年扱ってないし」

「最近、暇だろ?書庫の本もあんなにあるのに読み尽くしたんだろ?なら、俺が稽古つけるから、剣術を習得しないか?案外役に立つかもしれないぞ」


 お父さんはどうしても剣術を習得させたいらしく、私は断るに断れず、明日から剣の稽古が始まるのだった。


 それが大昔のトラウマを刺激することを、私はまだ忘れていた。

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