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第二話 久しぶりの力

 私が転生してはや三年が経過し、私も家中を自由に動き回れるようになった。

 気づいた頃には母メオラの姉リーンさんが同居し、両親がいない間に私の世話をしてくれていた。


「そろそろ外に出ちゃダメなの?」

「お母さんからダメって言われてるのよ。それに、外が気になるのは分かるけどね、外は危ない魔物でいっぱいなの」

「じゃあ、魔物が倒せる魔法が使えればいいんでしょ?」


――あ、やばい。


 そこで少し、リーンの表情が呆れを含んだものに変わるのをガナは感じ、焦りを覚えた。今でも、転生したことを極力バレないように気をつけて生活している。


「まだ文字も読めないでしょ?魔法は本を読むことと実践なしにして使うことはできないの。まずは文字を読むことから…」

「確かに、基礎魔力量の上限がまだ少ないから〈死怨(しえん)の渦〉も〈蒼華萬雷〉も使えないけど、〈煌魔〉の権能なら使える!あれは、魔力の消費なしで無限に使えるから…」


 今度こそやってしまった。

 リーンさんは完全に驚きを隠せない様子で、今にも取り乱し始める。


「なんでそんな難しい言葉を知ってるの?そもそも、〈死怨の渦〉も〈蒼華萬雷〉も、【原初の魔女】様が【十二魔女】様たちに与えた特別なスキルだって伝承で…。もしかして、人質にとられた【混沌の魔女】様ですか?ああ、お亡くなりになられていたとは…」

「いや、ハベちゃんじゃないから!そもそも、本当にハベちゃんみたく〈混沌の力〉が使えるんだったら死んでないよ」

「え?では、あなたは一体どなたなのですか?」


 リーンの今の表情は、ガナには驚いているだけでなく、怯えても見えていた。


 安心させてあげる為に、正直に名乗るしかないか。それに、名乗って安心させないと外に行かせてもらえないし。


「私は【煌魔の魔女】、ガナ・キランヴェル。…【十二魔女】最弱だよ」

「ガナ様…。まさか妹の娘に転生してくださるとは…。それにしても、【混沌の魔女】様以外はお眠りになったのでは?」

「いや、敬語とかいらないよ。私をガーネリア・デイルポッドだと思ってた時、さっきまでと同じ接し方でいいよ。それと、十一人の【魔女】が眠ったっていうのは嘘。実際には私、【煌魔の魔女】が魔王に殺されてるの」

「そうなのですか、ガナ様」

「ガナでいい。まあ、お母さんたちにバレるまではリアちゃん呼びでお願いできる?」

「魔女様のご命令とあらば」


 跪くリーンさんに、私はどう対処するのが正解なのか分からなくなりそうだ。正直、うっかり口を滑らせてガナ様呼びしないか心配でたまらない。


「それじゃあ、行く?家の外に」

「ありがとう、リーンさん。急に【魔女】だって分かった姪の言うことを聞いてくれて」

「魔女様なので聞いてるだけよ。」


 外に出て歩き出してふと、ガナは一つの疑問を感じる。


「そういえば魔女様って言ってるけど、あの日から一八七年経った今でも魔女は偉大な存在として崇められているの?」

「そりゃもちろん。ここ数十年で魔女教は二百年前と比べものにならないくらいに拡大したらしいわよ」

「流石に悪の組織になったりはしてないよね?それとも、【十二魔女】に代わって世界を救済してやる、的な集団が現れてたりは…」


 しかし、ガナは悪い予感が当たってしまっていることをリーンの表情から察した。


「魔女教に関しては、【原初の魔女】様の復活が目的で、【原初の魔女】様以外を【魔女】とせず排他しようとする【原初派】を名乗る連中の活動が活発化してるかな。最近だと、ダンジョンの占拠とかやってるし、魔物より警戒されてる」


 想像していた以上の事実を告げられ、ガナは若干狼狽えた。


「それで、『【十二魔女】に代わって~』とか言ってる方は?」

「そっちに関しては詳しくしらないけど、そういう団体は王都に幾つもあるらしいわ。」


 私たちが生きてる間は一切そんな連中はいなかった。二千年近くに渡って世界を守ってきた私たち【十二魔女】が一斉に姿を消すことが世界にどれだけの影響を与えたのかを考えることが恐ろしい。



 そんな話をしているうちに二人は開けた草原に来ていた。


「今更疑うつもりもないけど、本当に〈煌魔の力〉が使えるなら、是非ともやってみせて」

「任せてよ。経験値稼ぎ程度の簡単な作業になるけど」


 〈敵感知〉を使って、私は半径百メートル圏内から最も強い魔物を選び、それを操る。

 久しぶりのその感覚に、私は興奮を覚えずにいられなかった。


 今回得物にしたのは五段階の警戒度数で【上】に認定されているファンガーパンサー、爪や牙が武器の材料として使われるちょっと手強い魔物である。


「さて、その辺の草むらに隠れてる臆病さんたちを殲滅しようじゃないか!」


 私は手を手前に引き寄せる。それに呼応するようにして、草原の向こうの森林からファンガーパンサーが駆けてくる。


 私は〈敵感知〉で草むらに隠れているスライムやスネイクなどの警戒度数【無】の魔物、ゴブリンやニンフなどの警戒度数【下】程度の魔物を隈無く捜し出し、得物の凶悪な爪や牙で血祭りに上げてやった。


「これが魔物を調教する〈テイム〉系統の最上級…。いざ目の前にすると想像以上に恐ろしいわね」

「まあ、今日は一八七年振りに〈煌魔〉の力を使ったからね。ちょっと感覚を取り戻す為にはこれくらいやった方がいいと思ったんだよ」


 本音を言うと、感覚を取り戻したかった以上に、純粋にこの力を楽しみたかっただけだった。


 しかし、リーンの顔が青ざめ、空を指差しているのを見て、ガナは即座に振り返る。


 私は〈敵感知〉に頼りすぎていたと思った。それは〈敵感知〉に引っかからず、この距離まで接近してきたのだから。


 警戒度数【危険】に指定されるスカイドラゴン。小型で、例外やイレギュラーといえるようなものではないが、得物が【上】の魔物ではまともに太刀打ちできる相手ではない。


「え?これどうするの?あの量魔物倒した程度では【魔女】しか使えない魔法は…」

「そうだね。じゃあ、こうするしかない」


 私は両手を下から上へ振り上げる動作をし、スカイドラゴンの口へファンガーパンサーを放り込み、その手を突き出して得物をドラゴンの喉に到達させ、拳を握った。


 途端、ドラゴンの喉あたりが光り、ドラゴンの喉から上が四方八方に爆散した。

 ドラゴンは力なく草原に倒れ込み、再び暴れ出すことも力尽きた。


「え?え?これどういうこと?まさか、ファンガーパンサーを爆弾に変えたの!?」

「いやいや、得物の魔核を握り潰すことでエネルギー暴走を引き起こしただけだよ。私からすれば緊急事態の時の常套手段みたいなものだけど…。流石に今の時代もこれができる人はいないか」

「流石は魔女様…」


 私たちは村役場からこの場に鑑定士を呼び、魔物の死骸を買い取ってもらうことにした。

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