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5、優雅なダンスタイムのはずが

     ***


 晩餐会が終われば、次はいよいよ舞踏会である。

 始まる前に出席者らは一堂に会し、国王より、ディノとレクシィの婚約について伝えられた。

 音だけは盛大な拍手が、その場に鳴り響く。



(これで娘を押し付けてこようとする貴族どもが大人しくなればいいが)



 ……などとディノは考えたが、取り繕うのが得意な貴族たちの上品な笑みの裏の思惑までは、まだ十四歳の箱入り王子には読みきれない。

 むしろそういうところを読み取るのは、一見人畜無害そうにニコニコしてみせる婚約者の方が得手だったりするのだ。

 たった三年の年齢(とし)の差、人生経験の差が、もどかしくなるところでもある。



 ――――王家直属の楽団が、祝いの場にふさわしいきらびやかな音楽を奏で始める。

 ディノは深く息を吸って吐き、ぴしりと背筋を正してレクシィに向かう。



「殿下?」

「……どうか一曲、踊ってくださいませんか。麗しの姫君」



 何とか噛まずに言えた。

 レクシィは一瞬目を丸くした後「喜んで」と微笑み、優雅を絵に描いたような所作で手を差し出す。


 白いオペラグローブをつけた手を、優しくとる。

 手の甲に触れるか触れないかの口づけ。

 そうして彼女の手を引きつつ背中に手を回して、ホールの中央までリードする。


 ダンスが始まった。


 ヒールをはいた長身のレクシィと、成長期ではあるが、なかなか背が伸びないディノ。

 組んでみても、身長はまるで合わない。


 が、二人とも運動神経は恐ろしく良いのである。



(やはりレクシィは、ダンスが上手いな)



 こちらに合わせてくれているのだろうか、リードが非常にやりやすい。

 そのくせ時々こっそりアレンジを入れてくる。そんな時いたずらっぽく笑う顔がまた可愛い。


 最初の少しばかりの緊張はどこへやら。

 ディノは音楽に乗って楽しみながらステップを踏み、衆目を気にせず踊り切った。


 そこまでは良かった────だが、そのダンスが終わったとたん、ディノは再び不機嫌で眉根を寄せることになる。



「あ……あの! レクシィ嬢!」


「その魅惑的な眼差し、真珠のような肌……貴女こそがクレタシアスの至宝だ!」


「花より可憐で麗しい女神……次は私と!」


「いえ、ぜひ私と踊ってください!」


「美しい貴女のお手をとる栄誉を、ぜひこの私に……!」



 ……と、紳士たちが殺到してきたのである。



(なんで……こんなにレクシィにダンスを申し込んでくる男が多いんだ!?)



 夜会でダンスに誘われれば、極力断らないのが女性側のマナーとされている。

 ……とはいえ。



「待っ、待ってください。

 ええと……では、先にお声をかけていただいた方から順番にお願いしますねっ」



 ……と、レクシィが言ってしまったのが運の尽き。

 次から次へと引っ張りだこで、他の男と踊り続けになってしまった婚約者を王子はうらめしく見つめるのだった。



(遠慮という言葉は頭にないのか、おまえたち……。

 王子(おれ)の婚約者だぞ!?

 ほんのついさっき、お披露目されたところだぞ!?)



 曲が終わるのを待たず乱入してこちらに連れ戻したい。

 ……が、場が場だけに、国王と王太子の顔に泥を塗ることもできない。

 少年はもどかしく拳を握り、唇をかみしめる。


 何曲目かの曲の切れ目、

「すみません、一度、殿下のもとに戻ります!」

と、レクシィがまとわりつく男たちを振り切って、やっとディノのところに帰ってきた。

 追いすがってきた男たちをディノは睨んで追い返す。


 ぎゅっ。


 自分より背の高いレクシィのくびれた腰をディノは抱き寄せ、顔を見上げる。



「殿下?」

「……全員断れ」

「そういうわけにはいかないのは、殿下もご存じではないですか」



 苦笑いしながら、たしなめる口調のレクシィ。

 まるで姉が弟を諭すようで、チクリと胸が痛い。

 ディノだってわかっている。わかっているのだが。


 クスクスクス……。

 聞えよがしな笑い声が耳に届く。



「まぁ。殿下の目の前で次から次へと節操のないこと」

「下賤なお仕事で平民と交わっていると、貞操観念まで平民並みに堕ちてしまうのかしら?」


「! おま……」



 悪口を言った貴婦人たちを咎めようとしたディノの口を、レクシィの人差し指が制止した。


 なぜだ、という王子の視線を受けて、彼女はゆっくりと首を横に振る。



「仕方ないですよ。

 私、美人なのでいつものことです。

 (ねた)(そね)みにかまってあげていたら、きりがありません」



 それこそ姉のように優しい口調で言うレクシィに、ディノは逆にカアッと顔が熱くなった。


 ────俺は、婚約者として頼りにされていない。


 ディノの中をそんな思いが支配する。

 思わず、唇に触れたレクシィの手を掴んだ。



「……子ども扱いするな」

「殿下?」

「おまえは……俺のことを本当に、未来の夫だと思っているのか?」



 レクシィが答えようと口を開いたその時。

 ────ズ……ズン!!!!

 宮殿全体が揺れたかと思うと、磨き上げられた床にビキビキビキビキ!!と大きな亀裂が走った。

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