第4話
私の目の前には、きらびやかな朱塗りの豪華な宮廷の門がある。
(ここが数々の妃たちがいるところ)
椎子様、この西松、もうお仕えできません。おひとりでも、立派にやり遂げるのですよ・・・
西松も涙の見送り。もう世話が出来ない、私は何でも一人でやるのが不憫だと、憐れがったけど、そんなに泣かれたら、逆に不安になるよ。
椎子、すまんなあ、あのくそ帝が。
父母もおいおいと泣いて、正門で泣き崩れた。
「ここが常盤御前がいる・・・・場所」
私は常盤御前の物語を知った時から、文を送り続けている。
(さまざまな妃が華やかに生き、知恵と才能がある女房たちが活躍する、ときめきたる者たちが集う秘所)
私の師匠、常盤御前も、ここに・・・
(師匠、来ました。私、来ましたよ。一の弟子が、あなたの一の弟子がここに)
「ふあぁ、相当にでかいのね、内裏って」
中に入ると、朱で塗られた柱の建物が整備された区画に整然とずっと続いている。
塀もずーっと続いて見えないくらいまで伸びている。その向こうにも同じ塀が続いている。別の殿閣がある区画だ。
屋根は空にそびえ立つ立派なものばかり。
建物を囲むのは瓦を載せた白塗りの塀ばかり。
それがいちいちでかい。
(凄いわね、内裏って)
横を見てもそう、前を向いてもそう。
内裏は果てしなく続く楼閣の町だ。
椎子。
ごめんなさいね・・・
推子姉上はしんみりと、私を見送ってくれた。
(姉は悪い人ではないし、帝も好人物なら、二人は結婚したほうがいいかもしれない。けど、帝の人選も見極めないと。それはこれから、帝のそばに行く私が役割を担うのか)
いったん考えたけど、思い切り帝のことは振り払った。
(心配全然なし。大丈夫。ここで、師匠を探そう。絶対)
まあ、姉のあの態度なら、可能性のほとんどない帝のほうは、適当、適当。
会って、弟子にしてくださいって言うの。いえ、新作を読ませてください。いえ、サインを下さい。えーと、えと、それから、愛してます?違うなあ。
(ああ、頭の中は常盤御前と出会う想像ばかり・・・もはや帝の人柄だの、身代わりだの、どうでも良くなったわ)
私は全てが見るも目に眩しい。少々怖い感じもしながら、観光気分でほうううっとなりながら、奥へと歩いた。
内裏の奥が本拠地であり、そこに帝がおわす居城があるのだ。当然、帝の妃たちがいる殿舎も帝の御座所と共にある。
どこにいるかしら?
戸の裏?妃たちの部屋?それとも、帝がいる御座所の中?どこでもいい。調べまくろう。心から尊敬し、敬愛してやまない常盤御前。
私はもう急にテンションが上がっていてもたってもいられなくなった。
気づいたら、私は荷物を胸に抱えたまま、走り出していた。ずっと会いたかった人だ。知りたがりがこれを知りたがらないで、何を知るというの。知りたがりの血が騒ぐ。
「ちょっと、あんたあ、どこへ行くの?」
という声が聞こえたけど、私の耳には入らなかった。