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第2話

そんな時だ。どたどたとして、誰かが近づいて来た。

「後宮の特別史だとか何とかになった、椎子殿よ。挨拶がないと、弘徽殿女御殿がっしゃっておるぞ」

 これは偉い位が高い女房だ。高級な唐衣を着て、立ち居振る舞いにも品がある。背後に二三人部下を引き連れている。

(来たか、次は、弘徽殿か)

 ち、まったく。

 妃たちに、ライバルと見られて、煙たがれ、こっちこそ何かと面倒よ。

(それがとうとう、面と向かっての、お呼びか)

 梅壺女御には、厳しく当たり散らされ、吊るされそうになったのは、つい先日のこと。

 げんなりする。私は静かに常盤師匠を探したいだけなのに、いったいどこまでこの騒動は続くのやら。

「今日はせっかく来るのじゃ、筆比べもしようとおっしゃられておる」

「筆比べ?」

「ナニ、遊びじゃ。うちに来れば筆ぐらいいくらでもあるが、己の筆が良いなら、筆を持って来られても良いとの仰せじゃ」

「弘徽殿女御様が?」

「分かったか?分かったなら、返事をして、早く来い」

「は」

 どたばたと使者の女房が行ってから、久理子が私の部屋に入って来た。

「何かいやな予感がします。そのように笑って、笑いごとではありませんよ?後宮でも、権力のある女性があなたを呼びつけたのです。下手すりゃ、殺されるかもしれませんわ」

「ちょ、ちょっと、殺すって・・」

「まあ、弘徽殿女御様は、梅壺女御様よりは大人しい方ですから、まだマシかもしれませんが」

「弘徽殿女御様も危険、よ?」

 まさかこっそり忍び込んで、山姥状態を見たなんて、言えないけど・・・

「何にせよ、部屋に私を呼びつけるとは、これぞ、渡りに船」

「で、どうやって常盤御前を探すの?どこもまだ、見つかってないんでしょ」

 私の魂胆を見抜いている久理子は、笑って言う。

「もし、隠れているとしても、知り合いがいる後宮で、違う人のふりをするってのも難しいわね。または、何か理由があって隠れているとか」

「もしくは、もうここにはいない」

「久理子殿、あなた、妙に冷めたものの見方をするのね・・・想像するによ、昔に愛する人がいて、そのために姿を隠さねばならなくなったとか、純愛相手を守るために、ずっと陰謀の真実を追って、内裏に隠れているとか」

「はっはっはーはっはーっはっはっへっ」

 思いっきり笑ってくれるじゃない。あんた、後宮に来て、達観した婆さんみたいな目を持つ羽目になったのね。普段はイジメられて震え上がってるのに、そこだけ、婆さんなんだわ。

「それはそれは、楽しみなことですね。椎子殿には楽しい宝物の宝庫でしょう。いずれ、何が出て来るか、私も楽しみではありますわ。でも、陰謀ってことはあるかもしれないです」

「うん?」

 私は、久理子殿に教えてもらった。弘徽殿女御の秘密を。

「今の弘徽殿女御様も、過去に陰謀に遭った一族なのです。先の先の先の・・・つまり、今の京の都に遷都した帝、つまり清流帝の祖父にあたる柑武帝かんむていの御時、弘徽殿女御の祖父が謀反の疑いをかけられました。嘘であったか真実であったかはさておき、一族や関係者は誅伐されたのです。類が及ばなかった弘徽殿女御は末端の係留だったから。一族ほとんど官職から退けられましたが、その美しさを見込んだ末裔から、親戚の養女に入れ、妃候補になられました。そして、再び後宮へと入り、無位から女御ま上り詰めたのです。そうして、一族の汚名挽回をしました。今は、弘徽殿女御として華々しい地位を築いていますが、反逆者の一族というのは知られた事実です。後宮では公然の秘密です。ですので、かつての謀反事件のことは口に出すのもNGです」

「師匠の件は、陰謀に絡むと思うの。陰謀好きではあるし、陰謀でなくっちゃ、隠れてない。それかまあ、とんでもない勘違いとかもあるかもしれないけど、けど、あの師匠が単に勘違いして、身を隠しているとは思えない。夕闇の君からもそれとなく、陰謀に関わっていることを言われたし、だから、後宮の関係や背景を探るわ」

「どうするんです?」

「まずは現場に行ってから考えるわ」

「椎子殿は、先に行ってから考えるタイプ?」

「違うと思う。いろいろ考える人間よ。でも、探し人を探すには、やっぱり計画を練っているだけでは駄目。直接行かないと分からないことがあると思うの。己で見ないと、何が正しいか、何が関わっているかも分からないわ。人に伝え聞いたりするだけでは、それが分からない。それに、もしも私、師匠に会ったら、分かると思うの」

 尊敬する師匠のことだもの。

 見たら、分かる。私、きっと。


 それでいざ、弘徽殿女御様の御殿へ参らんと、筆くらべをしに行ったのだけれど・・・

「椎子殿、そなたの筆をお持ちしましたぞ。弘徽殿女御様のところで、筆をお借りするのは失礼に当たるのでな」

「わざわざ、どうも」

 入ってそうそう、長池殿が私の筆というのを持って来て、何かおかしいと思ったが、普段から世話になっている長池殿のことなので、私は何も問わずに受け取った。

「さて、よう来たの、何のお題にしようかの」

 弘徽殿女御様は、美しい方で、豊かな髪が肩にかかり、ゆったりと腰まで流れて艶やかで華やかさがある。優し気な方で、美しい人というのは、最初見た時から、印象は変わってない。

 この方はとても帝を愛しているらしく、帝からの贈り物や言いつけを大事にしていることで有名だ。

(だから、姉のことがますます気の毒になる。自分のことも・・・)

「ご機嫌麗しゅう、恐悦至極にございます。弘徽殿女御様」

 私は弘徽殿女御の前で、敷物を用意されて座り、挨拶をした。

「そなたは大納言の娘であるとか。由緒ある家柄の出と言えよう。高貴な姫君であるなら、お琴、和歌、書をたしなまれると思うが、そなたも何か出来るのよのう?そこらへんのサルと同じ教養が身についておらぬことはあるまい?」

 弘徽殿女御様も、もう坊主憎けりゃ袈裟まで憎しというとこか。

「は、多少、お琴や和歌、書を幼き頃から習っておりまする」

「椎子殿の姉君は都でも有名な美女じゃそうじゃ。帝もそれで気を引いたとか。今を時めく公達たちも大勢とりこにしておるそうじゃな。その姉と椎子殿は似ておられるぬようじゃな」

「私は姉とは違う母の娘でして、父にも似ておりません。先祖返りでもしたのでないかと言われております」

「どうやら、そちは知りたがりだとか。格式ある大納言の御家柄と言えど、騒がしくものを探したりしていてはいけぬのう。見たところ、礼儀作法がまだ身についておらぬゆえ、上司の長池殿にもっと指導してもらうようにしないとな」

(うっ)

「堅苦しい挨拶は不要じゃ。同じ後宮に暮らす妃なればな」

(弘徽殿様もまた、誤解されている)

 いくら訂正しても誰も信じないし、今ここで説明する雰囲気でもない。

 それからも続く、嫌味の羅列。

「そなたの声は何かと、頭にキンキンと響くなあ」

 だの。

「そちの博識は姉譲りなのか。偏りがないどすか?」

 だの。

「ああ、暑い。今日も暑いおすなあ。誰かがそばにいるからじゃな」

 だの。

「慣れない後宮勤めはきつかろう。はよ家に帰って、お体をいたわり。梅壺女御様もそうお言いだそうよ」

 だの。

 これが、宮中のやんごとなき方々なの。

 うるさい、ばーか、暑苦しい?さっさと出ていけ?

(きゅ、宮中はほんとのことは言わない。隠すだけで、本音は言わないで伝えろだの言われてるけど、隠されている分、よけいにこたえるわ)

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