陰キャラ鈍感系男子高校生の隣にいるのは少しばかり毒舌なツンデレ系のマドンナ様
『鳴宮くんへと書かれた隣の席のマドンナ様からの手紙が俺の下駄箱にあったけどイケメンの方の鳴宮くんだと思ったので移し替えといたら翌日マドンナ様が超絶不機嫌になってた』の続編となります。
一応、前作を見なくても大丈夫だとは思いますが、よかったら前作もご覧ください。
「智春、よかったら一緒に食べないかしら?」
「ん、いいぞ」
「あっ勘違いしないで、あまりにもぼっちで可哀想だったから仕方なくよ」
「はいはい、どうせ他に一緒に食べる友達がいなかったからなんだろ?」
食堂のテーブルに隣り合って2人で座っている美少女と陰キャ。
男子からしたらよく思われないだろうし、なぜ俺の横に彼女が座ったか疑問であろう。
隣の席に座っているのは『学園のマドンナ』と名高い綾瀬 彩綾
そして俺の『友達』である。
数週間前、俺は屋上で彩綾に告られた。正直意外だった。
俺は陰キャのオタクでパッとしない男子だと自分で思っていたからだ。
クラスのどのグループにも属しておらず、ただポツンと教室の隅にいるような人物に好意を抱くわけないと。
しかし彩綾は俺に好意を寄せて告ってくれた。
まあ俺は彩綾の内面を全く知らない。というわけで友達から始めようと返して連絡先を交換した。
ぼっちの俺にとっての認めたくないが初めての、友達である。
何か変化があったかと言われれば特にない。強いていうなら彼女の棘のある言葉が少し増えた。
あと『学園の王子様』こと鳴宮 三郷と仲良くなった。
友達かと言われると微妙だが話すようにはなった。
前まで色々偏見を持っていたのだが、話してみると好青年。女子にモテている理由がよくわかる。
三郷には色々と恩を感じている。いつか返さなければ。
「(友達に昼食誘われたけど断ったわよ......だって私はあなたと食べたいもの)」
何やらゴニョゴニョと言っているが聞こえない。
「ん、なんか言ったか?」
「別に何も」
罵られたような気がする。流石に気のせいか。
いただきます、と手を合わせて箸を進めていく。
そしてある意味目立っている。理由はもちろん分かりきっている。
......無視でいいか。
「そういえばクリスマスの予定はあるの?」
「クリスマス? ああ、来週か、予定はないが」
「ふーん、そうなの? ......哀れね、クリぼっちパーティーでもするのかしら」
ちょっと棘が鋭すぎやしませんかね、彩綾さん。
「パーティーすらしない、家でゲームかな、そりゃ俺だって遊びたいけど......そういう彩綾は?」
「えーっと、もちろん予定あるわよ? 当たり前じゃない」
「ですよねー」
これで予定ないとか言ってたら彩綾とクリスマス一緒に遊びたかったなー、なんて。
俺には彩綾以外に友達はいない。三郷はまあ相変わらず人気なのでクリスマスも予定があることでしょう。
つまり例年通りクリぼっち確定。
うっ......現実逃避したくなってきた.....に、二次元に逃げなきゃッ!
***
1番眠たくなる時間というのはなんだろうか。
全国の中高生にアンケートを取ってみてほしい。それはもう大多数が声を揃えてこう言うだろう。
『昼食後の授業』と。
なので用心しなくてはならない。
睡魔に任せて寝てもいいのだが、成績に関わってくる。
と思っていたわけなのだが、その前に注意すべきだった問題があった。
「それでは教科書150ページを開いてください、そこに全部載ってます」
......やべっ、教科書持ってくるの忘れた。
仕方ない。非常に申し訳ないが、彩綾さんに見せてもらおう。
俺は授業を聞いてメモをとっている彩綾の肩をツンツンと押す。
「あのー、教科書持ってくるの忘れたから見せてくれません?」
「しょうがないわね、いいわよ」
「あざっす!」
俺は席をくっつけて、教科書を見せてもらう。
ありがたやー。
そうして10分ぐらい経った。......眠たい。
睡魔の波が襲ってきたのである。
睡眠欲は人間の3大欲求のうちの1つ。抗い難い力なのだ......!
うとーっとなりながらも頑張って瞼を再度上げる。
しかし、睡魔の前では意味のない抗い。
その時、俺の横腹がシャーペンで突かれた。
微妙にくすぐったい。俺は少し目が覚めた。
横を見ると彩綾は、ニコッと笑っていた。
何故だろう。私の横で寝るな、という圧を感じる。
「昨日何時に寝たの?」
「......2時っす」
「前より遅くなってるじゃない......」
これには訳が......いや、ない。普通にゲームをやっていた。
よし、6時間目に寝よう。
***
......なんですか、その天使のような微笑みは。
うっすらと瞳を開けてみれば、頬杖をついて天使のような微笑みでこちらを見ていた。
不覚にもドキドキとしてしまう。いや、可愛すぎやしませんかね。
......ってそうじゃない、なんで俺をそんなに見るんだ、普通に恥ずかしいんだが!?
6時間目、俺は決心した通り寝るつもりだったのだが、寝れずにいた。
そしてとりあえず少し目を開けようと思い開けてみれば、横に1人の微笑んでいる聖女様がいた訳だ。
彩綾は俺が寝ていると思っているのだろう。
そんな見ないでほしいなー、彩綾さん。
もう一度うっすらと開けてみれば、やはりそこには聖女様が1人。
ここはニ次元かどこかかな。
「おーい、智春起きろー」
「......あっ、は、はい!」
先生の注意とともに俺は体を起こした。
横を見てみれば彼女は前を見ていた。しかし少し笑みを浮かべている。
......相変わらず可愛い。
その時間の授業の内容は全く頭に入ってこなかった。
***
今日はクリスマスイブ。......そして去年のようにぼっちはつかない。
数日前、俺は彩綾から遊びに誘われた。
予定があると聞いていたのだが、どうやらキャンセルになったらしい。
それで俺と遊んでくれるそうだ。
2番手というなんともいえない感じではあるが、非常にありがたいし、めちゃめちゃ嬉しい。
というわけで俺は彩綾と一緒に近くの少し有名な展望台に行くことにした。
俺は行ったことがないが、夜景が綺麗だそうだ。ちょっとだがイルミネーションもあるらしい。
これってデートでは......!? と自意識過剰な思考に陥りそうになったことは置いておこう。
デートではなく、あくまでも遊び。
そんなことを考えながら待ち合わせ場所でスマホをいじっていると彩綾がやってきた。
「あっ......え、えっとお待たせ」
遊びとはいえ異性と2人きり、それにクリスマスということもあって彩綾は超絶オシャレな冬服を着ていた。
ミニ丈のスカートにハイゲージニット、仕上げにフェイクファージャケットを羽織っている。
そしてそこにマフラー......彩綾を意識してしまうには十分すぎた。
胸が早鐘を打っている。
「どうしたの? えっと、ちょ、ちょっと恥ずかしいから、そんなに見ないんでほしいんだけど......」
「す、すまん、可愛いなと思ってつい」
「か、可愛い......!?」
あっ、やべっ、本音出ちゃった。
寒さの影響もあるだろうが、彩綾は耳を赤くした。
「......ありがと、智春も、なかなか似合ってる」
「お、おう、そうか、よかった」
流石に俺も普段の服装とは違い、オシャレをしてきた方がいいなと思ったわけだ。
髪型もセットしてみた。少し不安だったが、どうやらよかったらしい。
しかし、こうもまじまじと似合ってると言われると少し気恥ずかしいものがある。
なんだが変な空気になってしまった。
「それじゃあ、行く?」
「そうだな、楽しみだ」
***
クリスマスということもあり、展望台は少し賑わっていた。
そこそこ有名なところらしいので、売店もある。
俺たちは空いているベンチに腰掛けて夜景を見た。
「想像以上に綺麗......」
「だな、正直もうちょっと見えないと思ってた」
暗い夜空は星で輝いており、街の景色もよく見える。
これが俗にいうエモいというやつなのだろうか。
よく目を凝らしてみれば俺たちの通っている学校も見える。
「ねえ、ちょっとこうしてもいい?」
そう言って彩綾は俺の肩に頭を置いた。
いきなりのことだったので、鼓動が速くなる。
「友達なんだから、これぐらいのスキンシップいいでしょ?」
「あ、ああ......」
はー、と彼女は白い息を吐いた。
......非常に近い。
そして俺の手に彩綾の手を重ねた。
本格的に心臓がもたない。寒い中、非常に顔が熱くなっているのが自分でもわかる。
ドキドキと段々と早くなっていく心臓。
でも、なんというか少し幸せというか、こういうのも良いかもしれない。
「あっそうだ、ちょっといいか?」
彼女は俺の肩から頭を離した。
しばらくして、流石に胸の落ち着きが止まらなさすぎたので、とりあえず離れてもらうことにした。
もちろん他にも理由はあるが。
そして俺はバッグからあるものを取り出した。
そして彩綾に渡す。
「クリスマスプレゼントだ」
「......私に? いいの?」
「ああ、そりゃ友達なんだから」
そう言うと、彼女は頬を赤くして笑みを浮かべた。
「ありがと、嬉しい」
ニコッと笑う彼女。
俺は先ほどの件もあり、まだ速くなった鼓動が収まらずにいたので直視できずに目を逸らした。
「私からも、はいこれ」
彼女も俺にリボンで包装がされた箱を取り出して渡した。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
***
そうしてクリスマスも終わり、冬休みも終わった。
冬休み明け、周りは特に変化がなかった。
彩綾もいつも通り普通。相変わらず俺も彩綾以外に友達がいない。
しかし俺の内心はめちゃくちゃ変化していた。
彩綾を直視できなくなっていたのだ。
彼女と話すたび、彼女と肌が少し触れるたび、鼓動がおかしい。
クリスマスの時の感覚が続いている。
......俺は紛れもなく彩綾に恋してる。
彼女の笑顔を見るたびに、心が満たされる。
そして次第にこんな想いが広がっていった。彩綾が俺の彼女だったらなって。
でも俺が告白していいものか。一度彩綾から告られて俺はフッたも同然のことをした。
でもやっぱり好きになったからもう一回なんてありなのだろうか。
それに彩綾を彼女にできたとしてもどう接していいかがわからない。
......やっぱりこのままの方がいいのだろうか。このまま友達の方がいいのでは?
それでも膨らんでいく彼女への恋心。
「話って何? 智春」
俺は気付けば彼女を屋上に呼び出していた。
言うのが怖い。でも想いを伝えたかった。
緊張と恋心が合わさって、これ以上ないくらい胸のドキドキが加速していた。
俺は1呼吸置いて、話し出した。
「......俺は一回彩綾をフッた、実際あの時は好きじゃなかった、でも今は違う、俺は彩綾が好きだ、だから......俺と付き合ってください!」
......言えた。
「嘘告、とかじゃなくて本心?」
「もちろん、俺は彩綾が好きだ」
そう言うと少し頬を赤くして彩綾は返した。
「私もあなたが好き、だから......これからよろしくお願いします」
結果はオッケーだった。正直フラれるとも思っていた。
でも彩綾は俺を選んでくれた。
これ以上ないくらい胸が満たされている。
そして彩綾は俺に近づき、頬に手を伸ばして俺に口付けをした。
「彼氏として、これからはよろしくね」