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鬼神は妹至上主義  作者: 白い犬
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田貫一成

 田貫一成です。弱っちい化け狸の生まれ変わりです。高校に入るまでは、平穏に暮らせていたごく普通の男の子です。時々、得意の変化(へんげ)で人を脅かすのが好きなだけなんです。その罰が巡ってきたのでしょうか?

「いやあぁああああああ」

「逃がさねえぞ田貫!」

 僕はいま、鬼に追いかけられています。

 鬼ごっこじゃありません。本当の鬼です。

「捕まえた」

「ぎゃああああああ!」

 僕を捕まえた鬼の名前は、嶽川影丸(たけがわかげまる)くん。入学式の時からガタイの良さと、日本人らしくない色の鋭い目で一見怖そうに思える端正な顔立ちはちょっと悪っぽい感じに惹かれる年頃の女子に人気で、やたら目立っていた。僕は、そんな嶽川くんと同じクラスになる。最初から嶽川くんは普通の人間ではないと気がついていた。強すぎる妖気、化け狸であった前世で実際に会ったことはないが、その妖気が鬼のものであるとわかる。

 自分から関わるようなことはしないようにしよう。そう思っていたのに……。


 なんで、なんで嶽川くんが前の席なんだっ!!いや、入学式前の席でも竹田という学生を挟んで前後だったけど!こんなに近くにいるともろに彼の妖気を感じてしまう。嶽川くんの大きな背中のおかげで、僕の視界はほぼ嶽川くんとなった。妖気云々の前に、黒板が何も見えない。でも怖くて何も言えない、助けてお母さん。

 授業の出席確認で何度か、先生から見えないから欠席扱いされかけて、ようやく嶽川くんと席を交換した。

 いやもっと怖いんですけど!!? 嶽川くんの視線が突き刺さってる気がする。違いますよ〜、敵対しようとか思ってませんよ〜。僕は無力な化け狸です〜。うぇええん。

 そして、今に至る。

「なんで逃げんだよ、田貫」

「に、ににに逃げてませんよ!」

「どもりすぎだろ」

 嶽川くんは大きな手で僕の肉厚な肩を……肉厚?あ、まさか彼は僕を食べようとしているんじゃ?

「僕、美味しくないです」

「狸を食う趣味はねえよ」

 なんか、今のたぬきは、名前じゃない気がする。嶽川くんは僕から手を離し、改めて、と言うように僕に向き直った。

「さっき、俺の事鬼って言ってただろ」

「ひぇええ、別にバカにした訳では!」

「怒ってねえよ。ただ、聞きたいことがあったからな」

「聞きたいこと?」

 立ち話もなんだし、ということで近くにあった公園に向かう。いっぱい走ったから自販機で炭酸を買う。嶽川くんは買わないみたいだ。ベンチに並んで座ると、身長差が実際の身長よりも感じられない。なるほど、嶽川くんは脚長か。まだちょっとびくびくしているけど、嶽川くんが僕に危害を加えるわけではないとわかったから大人しく座っておく。

 ベンチの反対側にある遊具では、小学生ぐらいの子たちが遊んでいた。嶽川くんは、それを少し眺めてから話し出した。

「お前、化け狸の妖だよな」

「元ですけど、確かに化け狸だった記憶はありますよ」

「敬語やめろよ、同級生だろ」

「そんなおこがましい」

 生意気な口をきいたら一瞬で食われそうな気がする。調子に乗ってはいけないんだ、頑張れ一成。

「まあいいや。聞きたいたいってのが、お前や俺みたいな前世持ちの他に、普通の妖はいないのかってことなんだよ」

「普通の妖ですか……。僕は今まで会ったことないです、聞いた話では一定の妖気を持っていた妖はみんな陰陽師たちが祓ったらしくて。僕の一族もその対象でした」

 各地の大妖怪と呼ばれる妖たちを退治し、その眷属や地域に住む妖を退治した陰陽師たち。自然と共存する妖など、人間に害をもたらすことのない妖たちは辛うじて生き残った。

「退治された妖で僕みたいに、生まれ変わった人間を甦り(よみがえり)って呼んで区別してます」

「なるほどな、俺が北海道で会ったのは生かされてた妖だったわけか。田貫、お前の一族はこの土地に暮らしてたのか?」

「そうですね、伊勢や近江では、大嶽丸様の力が強く働いてましたから、その恩恵を受ける形で」

 大嶽丸様は、この地域では有名な妖。巨大な鬼、神通力に長けたとも言われている。実際に見たことはないけれど、かなりの大物のはずだ。他の名のある妖たちと戦っても勝ってたんだからな。きっと僕みたいな弱い妖には興味が無いから、生き残れたんだろう。でも、そんな大嶽丸様が陰陽師に敗れてからは、一気に祓われちゃったな。

 前世を思い出し、少し寂しい気持ちに浸っていると、嶽川くんが意外だ、とでも言いたげな表情を浮かべた。

「眷属をとった覚えはなかったが、そんなことになってたのか」

「へ?」

「ああ、気がついてなかったのか。俺、前世は大嶽丸だ」

「……なんて?」

「だから、俺が大嶽丸」

 驚きすぎると、声が出なくなるんだな。脳の処理が追いついてないや。嶽川くんを見ていたはずの視線が、いつの間にか空を見上げ、僕はベンチから転がり落ちた。確かに鬼だ。鬼だったよ、大正解。でもそれが大嶽丸様だなんて、誰がわかる?

「信じられないか? ほらよ」

 何を勘違いしたのか、嶽川くんは僕の頭に触れて、少しだけ妖気を流した。体がビクッと反応する。それは確かに、前世で感じていた大嶽丸様の妖気だった。

 そして、その流れた妖気を上手く吸収したのか、自身の妖気も力を増したことに気がつく。今ならいつもより長く変化の術が使えそうだ。

「すごい、本物だ……。大嶽丸様だ」

「その様ってのやめろ。むず痒い。あと、俺はただの嶽川影丸だ、前世のように威張るつもりはない」

 あ、威張ってた自覚あるんだ。

「まあいいや。田貫、お前からはこれからも色々聞くと思う、よろしく頼むな」

 差し出された手を掴むと、ぐっと引き上げられてあっという間に立ち上がってしまう。僕より体の大きくて強い嶽川くん。僕なんか一捻りなはずなのに、歯を見せて軽く笑ってみせる。殺されるかも、食われるかも、なんて怯えてた自分が馬鹿らしく思えた。

「うん、よろしく」

 強い妖が対等な関係を求めている、その現状に驚いて、思わずそう返してしまった。

ここまで読んでくださりありがとうございます

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