終念の戦
百鬼夜行と言われるだけはある。全く歯が立たないわけではないが、決定打を与えることも出来ない。幻術の腕はさすがだ。
「ふむ、女はしぶといな」
「そのセリフ3度目だよ、聞き飽きた。語彙力ないんじゃねえの?」
「口の悪い女だ」
辛い表情は見せないようにしているが、体力は限界だった。妖気に頼った戦闘をする雪女は、力を使い果たしてしまえばそれまでだ。自分の呼吸を整えるのにも苦労する。
影丸はどうなったの? 戦いの状況が知りたいけど、そんな余裕はない。もっと強いと思ってたけど、なかなか難しいな。死んででも足止めをしとかないと、さすがの影丸でも鬼とぬらりひょんを相手にすんのは無理だ。この戦いが終わったら、絶対なんか奢らせてやる。
ぬらりひょんが小太刀を構えた。どうやら白雪を仕留めにかかるようだ。覚悟は決めた。あとは奴の期待を少しでも外れるように、一矢報いてやるだけ。
ぬらりひょんの体が透け始めた時、ズゥンという思い音が辺り一面に響き渡った。ぬらりひょんが白雪のずっと上を見つめている。それにつられて、思わず白雪を視線を逸らした。
黒雲が空を覆っている。時折、閃光が走り雲の怪奇さを際立たせていた。その空を背に、木々の間から影が1つ。黒い体と金の瞳、伸びる2本の角は太く鋭い。口元にキラリと光ったのは、牙だろうか。
3メートルほどあるその怪物が影丸であると、白雪もぬらりひょんもすぐに理解した。
「よお白雪、生きてるな」
「遅い」
「悪いな、それと……助かった。あとは俺がやる」
「手柄持ってく気か?」
「まあいいじゃねえか」
気軽に話しかけてみたものの、白雪の声は少し震えている。仲間とわかっていても、今の影丸の姿は圧倒的力を持つ鬼、大嶽丸だ。強者として妖たちの頂点に立つ怪物。誰もが恐れ戦き、ひれ伏した。
「肩……」
「ああ、気にすんな。あいつにはいいハンデだろ」
酒呑童子が負けたことを理解したのだろう。ぬらりひょんの頬を汗が伝う。本能が逃げを選んだのか、足を1歩後ろへ下げる。しかし、それと同時にぬらりひょんの横を雷が通過した。
「逃げんなよぬらりひょん。待ちくたびれたのか? 悪っかたよ。けど安心しろ、もうお前だけだ」
「死に損ないめ」
「俺はな、執念深いんだよ」
「ボロボロになってまでか、なんも愚かなことよ」
「今更だな、俺は愚かで残酷なバカ鬼だ。そして欲望に忠実なんだよ」
足が固まったように動かない。馬鹿馬鹿しい、この私があの鬼に怯えているというのか。殺される、死にたくないと絶望しているというのか。
どれだけ人間を脅かしても、妖を焚き付けても、なぜ奴を殺せない。なぜ奴ばかり力を手に入れる。あいつさえ、あいつさえいなければ。
暗闇に溶け込むように、ぬらりひょんの体が揺れた。お得意の技だ。耳が痛くなるほどの静けさ。物音も気配も全て消し去って、奴は命を奪いにやってくる。そう、いつだつて……。
「俺の心臓を狙ってる」
パキンと高い音がする。影丸のぬらりひょんの間に、小太刀が破片となって落ちていった。
「ぐっ」
ぬらりひょんの体が宙に浮いた。喉元には黒い手がかかっている。折ってしまわないように力を加減するのが少し難しい。その手を話そうと、折れた小太刀を腕に突き刺すが、影丸は痛みを感じていないのかビクともしない。
「どこだよ。詩乃の目をどこにやった。俺の愛しい童の目を返せ。お前が奪ったせいで、詩乃は祖母の顔も見れずに終わった。花も空も生き物も、まだ詩乃は何も見えてない。お前は目だけではなく、詩乃の時間すらも奪ったんだ」
「ぐっ、ぅぅう」
「ああ、そうか……わかった、お前、食ったんだな」
詩乃の妖気を、ぬらりひょんの中に感じた。純粋で温かく優しい詩乃の妖気。どうやら上手く溶け込んでいないようだった。
「それならやっぱり、お前を倒せば全部終わりだ」
刀を刺しやすいように少し高さをあげる。それと同時にぬらりひょんの苦しみは増した。だが、どれだけ足掻いても影丸の手は緩まない。
「許しなど乞わせない、怨みも唱えさせない。お前はどんな下級の妖よりも惨めに矮小に死んでしまえ。二度とその魂がこの世に現れないよう、徹底的に消し尽くしてやろう」
「ぅうううう!!」
「感謝なんかいらねえよ。むしろ、俺から送らせてくれ」
手元でチャキっと音がする。妖気を纏わせた雷霆刃は、いまかいまかと待っていた。
「じゃあなぬらりひょん、盛大な感謝と呪いを込めて」
ザンッ!
凶暴で凶悪で、血も涙もない怪物。存在を消し去られたぬらりひょんを見て、影丸は高らかにわらった。楽しそうに、嬉しそうに。子供のような輝く瞳をしているのに、どうしてこんなにも恐ろしいのだろうか。
「やっぱり鬼だ」
「ああ、俺は鬼さ」
ここまで読んでくださりありがとうございます




