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鬼神は妹至上主義  作者: 白い犬
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説教と心配

 目を覚ますと体が布団へ横たえられていた。


「起きたか、狛天(はくてん)さんが薬を用意した。傷はどうだ 」

「確かに痛みが少ないな」


 影丸(かげまる)は自分の隣に座っていた白雪を見つけると、自分の腹部を確認した。傷にあて布をされ、包帯が巻かれているが、痛みは少ない、血も滲んでいないようだ。


「木葉天狗は、森の薬師だ。彼らに頼めば人間の薬よりも効果が期待できる」

「へぇ、そりゃ知らなかった」


 狛天は木葉天狗の長で間違いないだろう。気を失う前に、その姿を確認した。

 影丸が気を失ったあと、狛天が応急処置をした後、仲間に命じて白雪と影丸を戸川(とがわ)の管理する能登寺まで運んだ。戸川は、負傷した影丸の姿に驚いたが、すぐに事務所内に部屋を用意し、これまで寝かせていたのだ。


「たく、あそこまで膨大な妖気を使うなんてお前はバカなのか」

「牛鬼が出たんだ仕方ねぇだろ。陰陽師の凪はどうなった」

「森林の奥で青い顔をしてた、もう争う意思はなさそうだったから放っておいたよ」


 まああいつなら放っておいても勝手に帰るだろう。


「というか、牛鬼ってどういうことだ」

「凪はぬらりひょんと協力にあった。あの強気な様子はそのせいだろうな。だが、急に怖気づいてぬらりひょんに見捨てられた。そこでぬらりひょんが次に用意してたのが、牛鬼ってわけだ」

「そんな馬鹿げた話」

「信じられなくても事実だ」


 ぬらりひょんがいたことは、白雪も確認済みだろう。だが、牛鬼は影丸が倒してしまったため、見ることが出来ていない。牛鬼は強かった。穏健派に入る前の実力であれば、影丸は敗北を期したであろう。


「っ! いま何時だ!」

「え? ああ、18時だな」

「やべぇ帰らねぇと!!」

「その傷で帰るのか? 一晩ここで安静にしていろ」

「妹に夕飯には帰るって言ってんだよ!」


 身なりを整え、痛む腹を押さえながら影丸は事務所を飛び出した。外では庭の手入れを終えた戸川が歩いていたが、影丸は走ってその横を通り過ぎた。戸川が大声で引き止めたが、どうやらその声は届かなかったようだ。


「戸川殿、元気な若人が入りましたな」

「いやぁ、元気すぎて逆に心配ですよ狛天さん」




「ただいま!!」


 勢いよく開いた扉は、少しネジの軋む音を響かせた。慌てて靴を脱いでいると、家の奥からバタバタと足音が聞こえ、途中でドタンと鈍い音に変わった。

 まずい、転んだか!?

 靴を脱ぎ捨て、音の方に向かうと、案の定詩乃が額を押さえていた。


「詩乃、大丈夫か? ぶつけたのか? 血は出てないな、大丈夫だすぐ冷やせば腫れない」

「にいに……」

「よしよし、痛かったな」

「にいにも、どこか痛い?」

「え?」

「血の匂いがするよ。にいに、怪我したの?」


 傷口は塞がり、血も拭われている。しかし、そんなことは視覚以外の感覚が鋭くなった詩乃には関係のないことだった。


「ごめんな。遅くなったし、詩乃にも心配かけちまった」

「ううん。帰ってきてくれて嬉しいよ。おかえりなさい」


 どこに怪我があるのかわかっているのか、詩乃は腹の傷を避けて影丸の体に抱きついた。詩乃の体温を感じながらぼーっとしていると、頭部に強い衝撃を受けた。


「いっった!!」

「何やってるんだ馬鹿者。帰りが遅いうえに怪我? どれだけ詩乃を不安にさせれば気が済む」

「爺さんのせいでさらに重傷だ」

「ふん、あたりまえだ」


 祖父はしかめっ面をしたまま、台所の方へと歩いていく。いい匂いがしてきたから、夕飯でも温め直してくれているのだろう。


「詩乃ね、デザートはまだ食べてないんだよ。にいにと一緒に食べたかったから」

「そっか、ありがとな。すぐ飯食うから一緒に食べるか」

 

 不思議だ。いくら木葉天狗の薬を塗ったとはいえ、鈍い痛みが腹部にあったはずなのに、詩乃に触れた瞬間、嘘のように痛みが引いた。これが愛の力だ! なんて映画みたいなことを言いたいわけじゃないが、これが座敷童子の力なのだろう。頭をポンっと撫でてやると、詩乃は本当に幸せそうに笑った。



「俺は、戦うなと言うつもりはない。だが、俺はお前の祖父だ、怪我をするな、死ぬなという言葉は、何度だって言うぞ」

「今回は本当に油断したんだ、これからはヘマしない」


 詩乃が眠ったあと、腹部の包帯を巻き直していた。自室の窓に薬瓶と包帯、布が置かれており、天狗が密かに届けたのだとわかった。まずかったのは、その傷を祖父に見られたことだ。

 明らかに怒っている顔に、影丸は目を合わせることが出来なかった。視線を泳がせ、薬を塗り、ゆっくり包帯を巻いていく。だが、怪我などほとんどしたことがないため、上手く巻けていない。

 影丸の手から、奪うようにして包帯を手にした祖父は、慣れた手つきで布をあて、包帯を巻き始めていた。


「昔、俺は周りよりも腕っ節が強くて、年齢関係なく勝負を挑んでいた。その度に傷を作ってお袋に叱られて、いつしかその説教をする人間が婆さんに代わっていた」


 普段からは想像できないほど、優しく丁寧な手つきだ。影丸の傷に触れないよう、上手く動かしている。


「誰も喧嘩をするなとは言わなかった。代わりに、どうか無事でいてと、泣きそうな顔をされる。喧嘩をした俺よりも、お袋と婆さんの方が傷ついていたのさ。……その事に気がついてからは、もうやんちゃはやめた」


 包帯を巻き終わったのか、せっかくここまで丁寧にやったくせに、強めに背中を叩く。振動で傷口が少し痛んだ。


「お前は目的があって戦うんだ。俺に止める権利はない。だが必ず帰ってこい、死んでも帰ってこい。詩乃を傷つけるな」

「ああ」


 力で俺は祖父に勝てる。だが、人としての経験が、祖父を強くし詩乃を守る。俺にはできない、祖父だけの力だ。

ここまで読んでくださりありがとうございます

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