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鬼神は妹至上主義  作者: 白い犬
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思わぬ事態

 再び森林へと姿を隠した影丸(かげまる)。緑が辺りを囲んだ瞬間、(なぎ)の使役する式神の犬たちが、影丸に襲いかかった。

 殺す気満々って感じだな。影丸も再び妖気を集め、雷霆刃(らいていじん)を出現させた。2匹の犬のうち、1匹は影丸の攻撃をかわす。1匹は真っ二つに断ち切られ、ひらりと紙が舞った。


「ちょこまかしやがって」


 もう一体に狙いを定めると、影丸は右手を伸ばし、首元を掴んだ。ジタバタと暴れ回るが、影丸から逃れることは出来なかった。ギリッと力を込めたかと思うと、パンっと弾けるようにして式神は消える。


「もろいな。式神もまだまだ経験が足りない。お前のご先祖さんのほうが、よっぽど強かったぜ」


 不敵に笑うと、凪は指を2本立て術を唱える。すると、青白い光を放ちながら2本の刃が現れた。術が込められた陰陽師たちの武器だ。あれで斬られればさすがの影丸も無傷ではいられない。

 なるべく早く仕留めたいが、下手に突っ込んで怪我するといらん説教を受けそうだ。

 鎌鼬が飛ばす風の刃のように、半円状の雷を投げつける。真っ向からこれをくらえば、陰陽師でも痛手のはずだ。

 雷が届きそうな瞬間、凪の体が霞むように揺れ、影丸の放った雷をかわした。そして、目で捉える隙を与えずに、ゆるりと動き出し、いつの間にか影丸の目の前に姿を見せてくる。突然の動きに、凪の向けた刃を避けるので精一杯だった。

 こいつ、この動きは。少し左の袖を掠った。血の匂いがかすかに鼻につく。それと同時に、予想が確信へと変わった。


「お前、ぬらりひょんに誑かされたのか」

「失礼な、私はただ、彼に協力しただけだよ」


 凪の背後から現れたのは影丸がずっと探していたぬらりひょんだ。中学生ほどの若い見た目をしているが、その姿すらも奴の術にすぎない。

 身を隠して凪に力を分けていたのか。昔の実力が俺にないからって、さすがに気がつくのが遅い。勘がかなり鈍ってんな。


「お前の方から姿を見せてくれるなんてな。お得意の逃避行は終了か?」

「最初から逃げてなどいない。貴様が私を見つけるのがあまりにも遅いから、様子を見に来てやったまでのこと」

「そりゃ悪かったな。お前にひとつ聞きたいことがあんだよ。……俺の愛しい童の目をどこにやった」

「答えてなんの得になる」


 煽るようなぬらりひょんの態度。それに合わせて笑みを浮かべる凪。腸が煮えくり返りそうだ。バチバチと静電気のように雷が弾ける。時々線香花火のように、長い閃光が木々に当たり、一筋の黒い焦げを作り上げた。


「腹立たしい、忌々しい、憎たらしい……なぜ俺はお前を呪ってやらなかったのだろうな」

「そう怒るな大嶽丸。貴様が私にしたことをそのまま返しているだけだ。……屈辱だったよ、貴様に背を向けるのは」

「ならばその暇もなく殺してやる」


 そして殺す直前に詩乃の目を聞き出す。もし答えないのなら、その場で殺してしまおう。自力で探す、それだけだ。


「さぁ来るぞ、刀を構えろ」


 凪はぬらりひょんの声を聞き、再び刀を構える。金色のふたつの瞳と目が合った。その瞬間、凪の背筋には恐怖よりも強い感情が滴る。


「ちっ、役立たずめ。たかが鬼の殺気に気圧されたわ」


 怒りを隠さない影丸の姿は、人から鬼へと変わり始めていた。つり上がった目。肌はところどころ黒く変わっていく。さらに額からは2本の黒々とした角が生えていた。


「鬼だ……」

「怖気づいたかクソガキ、奴は鬼だ。人を食い玩具のように捨てる、罪深き鬼だ。先祖が取り逃した哀れな命よ」


 ガタガタと震える凪はもう使い物にならない。ぬらりひょんは諦め、力を分け与えるのをやめた。その瞬間、凪の手から刀は消え、膝から崩れ落ちる。


「仕方ない、こうなれば……」


 トンっとぬらりひょんが地面を足で叩く。その瞬間、小さな揺れが奥深くで起こり、だんだんと近づいてくる。


「貴様の相手は、こいつに頼もうか」


 鬼の顔に牛の体と6本の鋭い足。小さな公園の山ほどの大きさはあるだろう。ぬらりひょんは、地下から牛鬼を呼び出したのだ。


「牛鬼の甦りを見つけておいて正解だ。これも貴様にはたくさんの恨みがあるようだからな」

「逃げる気かぬらりひょん」

「それが私の十八番だ」


 瞬きをする間もなく、ぬらりひょんは消えてしまう。現れた牛鬼は、まっすぐ影丸を見つめていたが、ギョロりとした目を動かし、背後で座り込む凪を見つけた。


「腹ごしらえだ」


 どうやら牛鬼は腹を空かせているらしい。ドシドシと太い6本の足を動かし、牙をむいて凪を喰らおうとしている。


「お前まで助ける義理はないんだけどな」

「大嶽丸っ!」


 凪を背後に庇うようにして、牛鬼の前に立つ影丸。雷霆刃は、牛鬼の牙を強く叩いた。

 芯まで響いて痛いだろうな、だが、詫びるつもりは無い。


「ちょうど運動し足りなかったんだ。遊ぼうぜ」

ここまで読んでくださりありがとうございます

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