表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼神は妹至上主義  作者: 白い犬
31/42

穏健派

 穏健派について、影丸が爪井に尋ねたところ、とある寺を紹介された。能登寺(のとでら)と書かれた木で出来た表札は、最近変えたのか新しく見える。大きい寺や神社と違い、総門をくぐればすぐに仏殿があった。

 総門のすぐ横、事務所の前で竹箒を持った坊主の男が、影丸(かげまる)の存在に気がついた。おそらく住職であろう男は、親しみやすい笑みを浮かべて、影丸に話しかける。

「こんにちは、何かご用でしょうか?」

「爪井に聞いて来た。ここが穏健派の集う寺で間違いないか?」

「ええ。なるほど、あなたが嶽川(たけがわ)影丸さんですね。どうぞ、お話を伺いましょう」

 事務所に通されると、住職は手早くお茶と茶菓子を用意した。自分の座布団を用意すると、影丸の前にゆっくりと座り込んだ。

「私は能登寺で住職をしています、戸川(とがわ)と言います。爪井さんとは長い付き合いでしてね、お話を聞いて驚きましたよ、貴方は甦りらしいですね」

「ああ、改めて嶽川影丸だ。大嶽丸(おおたけまる)の甦りとして、再び生を受けた」

 戸川の反応を見るため、影丸はあえて横柄な態度をとっていたが、戸川は特段気にした様子は見せない。やはり妖は乱暴者だと騒ぎ立てれば、さっさと去ることが出来たが、話をする価値がありそうだと影丸は確信する。

「それで、実際ここには穏健派の妖たちがいるのか?」

「ええ、いますよ。そうだ、今ちょうど1人来ているんです。呼んできますね」

 祖父とは違い、かなり物腰の柔らかい男というのが第一印象だ。1人妖か甦りかがいると言ったが、気配を感じられない。よほど妖気の扱いが上手いんだろう。少しすると、戸川が1人女性を連れて戻ってきた。

「お待たせしました、こちらは白雪(しらゆき)、雪女の甦りです」

「誰が来たのかと思ったら、あの有名な大嶽丸様ですか。何用ですか?」

 真っ白い髪は腰あたりまで伸び、目元まで隠している。肌も洋服も白いからか、唇の紅がやけに目立つ。

「白雪、彼は穏健派の力になりたいそうでね、甦りのことは甦りのほうが詳しいだろう?」

「左様ですか、では戸川様こちらは私におまかせを」

「ありがとう。嶽川さん、どうぞごゆっくり」

 戸川は軽く頭を伏せると、住職の仕事に戻った。その代わり、白雪が影丸の前に座る。すると綺麗な口元をきっと吊り上げ、不機嫌さをはっきりと示す。

「てめえ、戸川様にあの態度はなんだ。大嶽丸だかなんだか知らないけど、人に物を頼む立場なら、それなりの礼儀ってものがあんだろうが」

「ずいぶんと口の悪い女だな」

 かなり怒っているのだろう。戸川が退出してから室内に冷気が漂っている。

「穏健派に入るだ? お前は人を殺す鬼じゃないか、笑えない冗談だね」

「前世と今を重ねないでくれ、今の俺は敵意を向ける奴らしか殺す気は無い」

「へえ、どんな心変わりがあったのさ」

「それは今関係ないだろ?」

 影丸は他人を助けたいから穏健派に入るわけではない。目的はただ、詩乃(しの)の安全と瞳の奪還だ。穏健派という組織を、その目的のために利用するだけだった。

「とにかく、穏健派は普段何をしているのか知りたい」

 白雪が放った冷気により、用意されていたお茶が冷たくなってしまった。少しがっかりしながら影丸はそのお茶をすする。

「はあ……まあ簡単に言えば侵攻派を食い止めてる。穏健派には、調査員と戦闘員、それから戸川様のような管理者がいる」

 調査員は、侵攻派たちの動きを注視し、逐一管理者へ報告する。そして管理者は受けた報告をまとめ、適切な戦闘員に捕縛、もしくは討伐を依頼する。話し合いに応じるようならば管理者へ、それ以外は戦闘員の手によって処分される。悲しいがこの世は人間のためにあり、穏健派の妖も甦りも人間との共存のため、過激な侵攻派を生かしておくことは出来ない。そしてさらに管理者は、また別の組織へ依頼し、被害者や損壊物の処理を行っている。

「なるほどな、それなら俺は戦闘員ってわけだ」

「当たり前だ。お前に調査員が務まるわけがない」

「そういう白雪、お前だろ?」

 影丸が見たところ、この白雪という甦りはかなりの実力を有しているはずだ。相対すれば、ある程度力のある妖や甦りの強さぐらいは測ることができる。

「戸川様は爪井さんから話を聞いた段階で、お前を穏健派に招くつもりだったみたい。感謝しろよ」

「はいはい」

 実を言うと、このところある妖の動きによって、侵攻派は過激さを増していた。今まで静かにしていた中立派の妖たちが、侵攻派にくら替えする様子も伺える。一波乱来る前に、少しでも戦力を確保しておきたいのが本音だ。

 裏の事情は隠しながら、白雪は目の前でせんべいを頬張る影丸を見つめる。あの有名な鬼が、いま自分の前で呑気に菓子を食っていることが未だに信じられない。いつ侵攻派に寝返るかもわからない凶暴な男を、この場所に引き入れることが、白雪には少し恐ろしい。

「説明は終わったかな?」

「戸川様! は、はい。簡単ではありますが、必要なことは伝えられたかと」

「ありがとう白雪。どうだろう、嶽川くん。私たちの仲間になっていただけますか?」

 未だに丁寧な姿勢を崩さない戸川。影丸はそこらの妖よりも、腹の探れない戸川の方が、警戒すべきかもしれないと小さく笑った。

「ああ。せっかく強く生まれたんだ、戦闘員として役に立ってみせる」

「それは助かる。他に質問はないですか?」

「じゃあ、1つだけ。俺はぬらりひょんを探している、その情報も集めて欲しい」

ここまで読んでくださりありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ