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鬼神は妹至上主義  作者: 白い犬
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異変

 バリバリという音が影丸(かげまる)の耳元で鳴り響いた。むしろこの音は、自身の体内で響いている感覚すらある。今日が休日で助かった。だるい体を何とか持ち上げ、影丸はようやく布団から這い出た。

 校外学習から帰ってきてから、詩乃(しの)が寂しがって隣で眠っていたが、先に布団を片付け寝室を出たようだ。いつもなら影丸が先に目覚めて、詩乃を起こす。もう数週間その状態だからか、詩乃がいないことに寂しさを感じた。

 吐き気のような気持ち悪さと、ふつふつと湧き上がる破壊衝動。風邪など引かない自分の丈夫な体が、悲鳴をあげている感覚に、思わず笑みを浮かべた。

 先日、命知らずな首無を葬ったばかりだ。あの日は自分の体に異変など感じなかった。しかし、いまの己の感覚に、影丸はある考えが過ぎった。それを確かめるため、影丸は動きやすい服へと着替え、祖父に声をかけてから家を出た。

 少しふらつきながらも、影丸は鴉天狗と戦った神社へとたどり着く。体の力が抜けて、本殿の階段らしき部分に座り込んだ。肺いっぱいに空気を吸い込み、長く時間をかけてその空気を吐き出した。

 体に張り巡らされる神経ひとつひとつに行き渡るように、妖気を促していく。吐き出せそうなほど燻っていた自身の妖気が、熱を持つ。

 ああ、この感覚だ。

 バッと右腕を広げる。するとそこには、黒々とした大刀が現れた。

「久しぶりだな、雷霆刃(らいていじん)

 鬼であった時よりも、少し縮んだようだが、人間の体にはちょうどいいだろう。雷霆刃は、大嶽丸の妖力が作り出した刀だ。これを手にした大嶽丸を止められる者はいないと、妖たちはよく話していた。雷霆刃を生み出した途端、先程までの吐き気は失せた。しかし、破壊衝動は未だ内側に潜んでいる。

 鬼の本質は変えられない。残酷で残虐行為を好む大嶽丸は、未だ影丸の中に潜んでいた。

「雷霆刃、悪いがまだ暴れられない。俺が下手に動くと、詩乃にも危険が及ぶからな」

 具現化した自身の妖力の塊が、影丸の心に呼応するように黒い光を強めた。

 その光を眺めながら、影丸はスマホを操作し田貫(たぬき)の名前を選択した。

「よお、面白いもん見せてやるから今から言う場所に来いよ。それと、なんか食べるもの買ってきてくれ、腹が減ったんだ」

 自分勝手な要求に、田貫は1度文句を垂れたが、興味の方が勝ったのか、これから向かうと返事をした。この刀を自慢したくてしょうがないのだ。これが現れたということは、着実にかつての力を手に入れているということ。雷霆刃を作り出すには、膨大な妖気と巧みな妖力が必要になる。


 試しに刀を持ってみた田貫は、自分が取り込まれそうな不快感に、すぐにその黒い刀を手放した。その光景が面白かったのか、田貫が持ってきたおにぎりを頬張りながら、影丸は不敵に笑う。

「びっくりしたよ。この神社の敷地に入ってから、影丸の妖気を感じてたからさ。思わず身震いしちゃった」

「安心しろよ、お前を殺すなんて馬鹿な真似しない」

「ああ、そりゃどうも」

 そうは言ってみたものの、影丸は内心不安に思うことがあった。それは自分の中でくすぶる破壊衝動だ。いつかこれを抑えることが出来なくなるのではと、少し心配している。

「この前、爪井(つめい)に聞いたんだ、妖と甦りには穏健派がいるって」

「いるね。僕は中立派だから基本は関わらないけど。もしかして、影丸は穏健派に入りたいの?」

「穏健派は、人間と共存するために侵攻派と一戦交えることもあんだろ? なら俺にもってこいだ」

「なんか、影丸が怖いよ」

「忘れんなよ田貫、俺は大嶽丸だ。血を流しなりふり構わず暴れんのが本分なんだよ」

 そう、無理にこらえる必要はない。自ら戦地に赴けばいいだけの事だ。

「そんで、お前に穏健派の知り合いがいないかと思ってよ」

「うーん……やっぱりこの手の話は美津(みつ)さんの方が詳しいと思う。だけど、中立派は侵攻派に目をつけられないように、穏健派に協力しないようにしてるんだ。だから確実に知ってるとは限らないね」

「なら、爪井だな」

 元陰陽師家系にツテがあるぐらいだ、穏健派の情報もそれなりに保有しているであろう。あまり自分のことを話すのは得意では無いが、妖力でどんなことをしていたかぐらいは、交換条件として教えてやってもいいだろう。

 影丸は雷霆刃を体内に戻すように、妖気を解放し消滅される。1度コントロールをしたためか、朝のような吐き気は感じない。

「田貫、お前に少し妖気を分けてやるよ。上手く妖力に変換できるかはお前次第だが、もっと上手く化けるようにもなるだろ」

「え、なんか怖いな」

「死なない程度にしてやるよ。こっち来い」

 妖気を解放するまで影丸が弱っていたように、多すぎる妖気は時に毒となる。その妖気を操り、妖力として解放できるかは保有者次第になり、上手くいかなければ妖気に呑まれ死んでいく。

 影丸は田貫の額に右人差し指を当て、じわじわと妖気を送り込む。元の妖としての格に、かなりの差があるため、影丸の妖気を無理に取り込めば、田貫は妖気に呑まれてしまう。

 柄になく、影丸は慎重に妖気を捉える。数分して、田貫が水から浮かび上がった時のように、勢いよく息を吐いた。

「どうだ?」

「凄すぎるよ……今なら全身で化けられそうだ」

 化け猫と違い、化け狸は力が弱いと体の一部しか変化させることが出来ない。手、足、顔……得意な箇所は個々によるが、全身を完璧に変化できる者はいない。

 田貫は得意気な顔をして、その場でコロンと前転をするように回った。すると、影丸と同じ姿をした人間がその場に立っている。

「へぇ、上手く化けたじゃねえか」

 元の小太りな田貫の姿はそこにはなく、がっしりとした体型の影丸がそこにいる。

「服装も出来たのは始めてだよ」

「声も完璧だな」

 おそらく才能はもともとあったのだろうと、変化をした田貫を見て思った。どれだけ妖気があっても操る妖力の才能がなければそれまでだ。突然増えた妖気への順応性を見ると、存外、田貫は器用なことが分かる。

「これで囮ができるってことだ」

「フェッ!!?」

ここまで読んでくださりありがとうございます

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