幕間
ぬらりひょん様! どうか私にそのお力の一端でも授けてください!
どうかぬらりひょん様の配下としてください!
ぬらりひょんは産まれてからずっと誰かの支配下に入ったことなどなかった。誰もが己の力を羨み欲しがる。だが力のある妖は皆口を揃えてこう言う。
ぬらりひょんなど大したことはない。
屈辱だった。なぜ私の力を認めないのか。百鬼夜行を率いても、自分の眷属たちは奴らの小指で殺されてしまうような弱者たち。どんなに策をめぐらせても、奴らの持って生まれた力には敵わない。
ぬらりひょんの朔には宿敵がいる。大嶽丸という鬼だ。何度挑んでもかすり傷1つ付けられなかった。本気で自分を殺そうとすれば、朔はとっくにこの世から姿を消していただろう。いくら十八番の寂滅をして見せても、奴は目を凝らせば必死に逃げる自分の姿が見えていただろう。
そんな相手が死んだ。何人もの陰陽師を巻き添えに、奴の妖気は消え失せた。かのように思えた。
霧散した妖気が反応し合い、いつしかひとつの大きな力となるのを感じた。人間の目にも弱った妖たちにも感じられないそれは、人間という脆弱な存在に取り憑き、再び甦った。チャンスだと思った。妖の総討伐を生き延びた朔は、昔よりも遥かに強くなった。だからさっさと大嶽丸を倒してやろう、そう思っていた。しかし、朔は閃いてしまう。あの頃の自身の屈辱を奴にも味あわせてやろうと。
「悔しがる奴の姿が見たい、見たくてたまらない」
奴に妹が生まれたのは幸運だった。さっそくまだ痛みも感じ取れない赤子の目を奪った。力を取り戻した奴が、私の妖気に気がつけるようわざとらしく。
眷属の1匹が悔しがっていたと笑いながら話す。いい気味だ。私が味わった以上の苦しみと屈辱をもっと感じればいい。
大嶽丸はかつて暮らしていた土地へと移るようだ。北の土地には強い妖はいなかったが、こちらには多くの妖と甦りが住み着いている。大嶽丸に恨みを持った者、力試しをしたい者、様々な妖たちに大嶽丸のことを伝え、自ら戦いを挑むようにけしかけた。
誤算だったのは、大嶽丸が私が思うよりもずっと早く力を蓄え出したということだ。鴉天狗までもが簡単にやられるとは思っていなかった。このままでは、自分が直接しかけても無駄だろう。まだ駒が足りない。そう思っていた時、面白い人間を見つけた。
陰陽師の末裔だという男。松蔭凪、あれは興味深い。異様なまでに大嶽丸に執着している。てっきり妖全てを恨んでいると思ったが、凪の目的はあくまでも大嶽丸だけのようだ。
これは使える。
のらりくらり、ゆらりふらり。朔はステップを踏むような調子で笑みを浮かべながら歩き出した。
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