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鬼神は妹至上主義  作者: 白い犬
28/42

学生

影丸(かげまる)もちゃんとやってよ」

 田貫(たぬき)からそう声をかけられるのは何度目だろうか。歴史的建造物を学ぼうとか言って犬山城を見に来たが、いまいち気乗りしない。正直城なんて、自分が死んだ後の話だ。

 影丸は講堂で本日の学習をまとめる作業が手につかない。あとで田貫のものを写そうなんて考えているのだろう。

詩乃(しの)何してっかな」

「この時間ならもう家に帰ってるんじゃないかな」

「やはりシスコンか」

「シスコンだな」

 周りの野次も影丸にはどうだって良かった。何度目かのため息をついて、ようやく筆記用具を手にした。自分が生きていた時代に比べると、この城が存在した頃はずいぶん発展したようだ。そして、いつの間にかその時代も終わり、こうして自分が再び日本という土地に命を吹き返した。着ている服も食べるものも、今手に持つ筆記用具だって、人は発展を繰り返している。そんな発展を繰り返すうちに、妖の存在など伝説に変わってしまったのか。

 歴史を学ぶと、人も妖もそう変わらないと思うことがあった。大嶽丸(おおたけまる)のように力を持った妖は、自分の欲のために闘いを好んでいたが、下級の妖は常に居場所を作ることに必死だ。他の妖に抗うために、一族の数を増やしたが今度は居場所が狭くなる。居場所を求めれば妖同士争いが起きる。だからこそ、下級妖は名のある妖の下に集った。そうすることで無理に数を増やすことをせず、静かに暮らすことが出来たのだから。

 だが、その妖が死んだ時が問題だ。後ろ盾にしていた妖がいなくなれば、彼らは途端に危険にさらされる弱者となる。妖は基本、妖を食べる。妖気を取り込むと言った方がいいだろうか。平穏に暮らしていた妖は、強者から漏れ出た妖気を浴びて、さぞ潤沢な妖気を保有していただろう。

「なあ田貫、お前も苦労したんだろうな」

「え? 急に何の話?」

 最初から人間と共存すれば良かったのだろうか。いや、あの頃の自分には難しいだろう。人間など、ただの玩具だったのだから。そう思うと、今の自分はかなり人間らしいと言える。力のないただの人間を前に、1人学生らしく勉学に心を傾けていた。

「お前らは、生まれた時代に救われたんだろうな」

「なんか影丸が深いこと言ってんぞ」

「まあ確かに戦国時代も戦争時代も嫌だなあ。俺、すぐ死にそう」

 たぶんその事を言っているわけじゃないなと、田貫は密かに思っていた。


 今日は名古屋市にある団体合宿所のような場所で泊まりだ。影丸と田貫を含めた10に部屋に布団を敷き詰めて、雑魚寝をするらしい。消灯時間までの自由時間、影丸は自身のスマホで祖父に電話をかけていた。

「よお、詩乃まだ起きてる?」

『思っていた通り電話してきたな。詩乃なら、俺のそばで電話に出たくてうずうずしている』

「変わってくれよ」

『詩乃、こっちにおいで』

 ガサゴソと音がする。詩乃が上手く持てるようにしているのだろう。こんなことなら祖父にビデオ通話のやり方を教えておくんだった。影丸も爪井(つめい)からやり方を聞いてようやく覚えたのだが。

「詩乃?」

『あ、聞こえる! にいに、お疲れ様!』

 電話がよほど嬉しいのか、興奮している様子が伺えた。

「明日、土産を買って帰るからな。詩乃はなにか食べたいものとかあるか?」

『大丈夫だよ。でも、にいにが美味しそうって思ったものがいいな』

 可愛いことを言うな。そういえば、最近の詩乃はやたらと影丸の真似をしたがる。昔も大嶽丸のあとに続くのが好きだった。もしかするとその頃の感覚が戻ってきているのか、それともただ兄を慕う妹の行動なのか。

「影丸ー誰に電話してんだよ」

 影丸の背後から同部屋の生徒が身を乗り出した。スマホから聞こえる声を拾おうとしているようだ。

「妹だよ、邪魔すんな。ぶっ飛ばすぞ」

「まじでやりそうだな、怖えよ」

『にいにの、お友達?』

「まあ、友達かもしれない奴だ」

「ひど!!」

 正直、友人とそれ以外の違いは曖昧だ。よく一緒に遊びに行ったり、飯を食べたり、そんなことをする仲だとは思うが、自分はどれも大してやっていない。田貫は恐らく友人だと言えるのだろうが、それは甦りという類似点があるからこその親しさだと思う。

 田貫と話すおかげか、影丸は小中のころよりもずっと他人と関わるようになっていた。中学までは友人と言える人物もおらず、ただ通い、時間を過ごしていた。誰かに話しかける必要性も感じず、その逆もまた同じだった。

 学生らしい時間を過ごすのは、思えば初めてのことかもしれない。

「妹ちゃーん、影丸は元気ですよー!」

「うるさい、詩乃に話しかけんなっ!」

 だが、詩乃に関わっていいかどうかは別だ。とにかく今は、無事に詩乃のもとに帰り、詩乃の無事な姿をこの目におさめることだけを考えよう。

 影丸は悪ノリをしてくるクラスメイトを押しやりながら、詩乃のことを思っていた。

 合宿後、詩乃が祖父と共に学校に迎えに来た時には、クラスメイトから詩乃を隠しながら、1日ぶりの再会を喜んだ。そして、1年生の間で影丸の様子に戸惑う人間がたくさん出たのだった。

ここまで読んでくださりありがとうございます

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