妖と甦り
爪井と再び会ったのは、初めて会ってから2週間後だった。もう夏休みも終わり、学校が始まったため学校帰りに以前のファミレスへ向かった。大学はまだ休暇中のため、爪井は時間に余裕があるそうだ。
「君の、まあ大嶽丸の結末について少し調べてみたんだ。僕の知り合いに陰陽師家系の末裔がいてね、この手の話は詳しいんだ」
その知り合いは松蔭家とは関係ないらしく、今では陰陽師の力は全くないようだ。
「大嶽丸は封印に失敗した、というのが結論だ。封印の際に、複数の陰陽師が亡くなったそうだよ。生き残った人で1番有名なのは秋正という男だ」
秋正は、あの日夏凪の隣にいた男だ。関係性としては、夏凪の弟子という立場だと記されていたらしい。
「大嶽丸が封印される予定だったのは鈴鹿山で、何人も戦闘の後に確認に行ったらしいね。だけど、大嶽丸の痕跡は何も残っていなかった。あったのは戦闘の痕跡だけ」
「肉体の消滅か……なら、俺は死んだんだろうな」
「どういうことだい?」
「妖は死ぬとその肉体が消える。たぶん俺は妖気だけの存在になったんだ」
妖の死については初めて聞いたんだろう。爪井はものすごい勢いでメモを取り始める。
「確かに、どの妖も退治したあとについてはわかってないな。燃やしたとか海に消えたとかは聞いたことがあるけど」
「最近倒した妖も甦りも最後は灰になった。火にくべなくてもな。その後その場には妖気が充満し、俺がそれを取り込んだ」
きっとあの妖気は放っておけば山や森、海や川など自然の中に取り込まれていく。そうして妖気の充満した危険な自然が出来上がる。そういった場所には妖が集まりやすくなり、普通の人間には恐ろしい場所になるだろう。
影丸自身、かつての倒していた妖の死に方が自分にも当てはまるとは思っていなかった。自分が死ぬとも思っていなかったからだ。それに、自分の妖気が取り込まれなかったのも疑問だ。
「もしかすると、大嶽丸の妖気というのはいち自然に収まるには多すぎたんじゃないかな?」
「妖気がでかすぎた?」
「うん。だから収まらなかった妖気が人の体に取り憑いて、君が生まれた。僕はそう仮定するよ」
あの日、戦闘により死んだ大嶽丸は、山に妖気を取り込まれた。しかし、その妖気は膨大で山の中に収まりきることは難しかった。妖気は一度霧散したが、大嶽丸の怨みがその妖気を再び集め出す。妖気はいつしか魂のような不可視の存在から、人という形へと変化した。
影丸はそんな仮定を考えながら、ハッと思いついた顔をした。
「俺は、詩乃の妖気も取り込んでいたのか……」
「しの?」
「妹だ。詩乃も甦りだが、記憶は保持していない」
他の事情は一旦伏せて軽い紹介だけで終わる。
詩乃は影丸よりも先に死んだ。あの時、大嶽丸であった影丸の力が増大し最後の大暴れを見せつけた。あの時、詩乃の僅かな妖気も無意識に取り込んだのだ。そして、それは山から溢れ、人になった影丸から母親に宿った新たな命へと注がれた。自覚がないため摩訶不思議な話になるが、妖気を制御していなかった昔の自分を思うと、信じられない話ではない。
「とりあえず、大嶽丸の話はもういい。もうひとつ聞きたいことがあんだよ」
「何かな?」
「妖と甦りが、現代ではどんな立場をとっているのか知りたい」
恐怖の対象、退治すべき敵、ただの怪談話、そして忘却。現代では妖のことなど知らないまま過ごす人間が山ほどいる。その中で実際には、どうやって暮らしているのか。
「意外だ、知らなかったのかい」
「この前まで興味なかったからな」
「なんだか強者のセリフっぽいな。現代で妖や甦りたちは3つの立場に分かれるんだ」
どうして人間に怯えなければいけないのか、そもそもかつて領土を侵したのは人間のはずだ。そういった考えを持つ妖を「侵攻派」、人間の味方でも妖の味方でもない妖は「中立派」、共存を望むものは「穏健派」。ただの妖たちは侵攻派であることが多い。この前の鎌鼬がいい例だ。田貫や美津は中立派とも言えるだろう。穏健派は、妖や甦りであることを明かした上で人間に協力している者がいる。陰陽師の家系に所属する妖もいるぐらいだ。
「中立派は何もせず暮らしてる妖や甦りのことだから穏健派とはまた違うんだよ。穏健派は自ら侵攻派と戦うこともあるしね」
「なるほどな」
知らないところで、妖や甦りが争っていたようだ。
「時々、誰も解決できない事件が起こったりする。僕はそれが妖や甦りたちの仕業であるかもしれない、なんて思うこともあるんだ」
人間離れした力を持つ存在が犯罪を起こせば、人間の常識では説明がつかないことが多い。だからこそそんな考えをしてしまうのだろう。
「なら、俺は穏健派のフリでもしようかね。その方が情報が集まりそうだ」
凪という陰陽師に、俺を倒す理由を与えなくて済みそうだしな。
影丸は深く考えずに、さあ次は僕の番だと興奮する爪井の話を聞き流した。
ここまで読んでくださりありがとうございます




