音と突風
軽快な音楽とリズミカルな太鼓の音。子供たちのはしゃぐ声が響いていた。グラウンドの中心に建てられたやぐらの上で、田貫は内心ビビりながら、保護者に混ざって太鼓を叩いていた。詩乃を送り届けた影丸は、バレないよう小学校の屋上に上がり、鎌鼬の気配を探っている。
「浴衣似合ってたな……」
手を引きながら学校までやって来た詩乃は、音が近づくに連れて鼻歌を歌いだしていた。浴衣姿の詩乃にデレデレとしてカメラを向ける祖父は笑いものだと、思い出しながら笑みを浮かべた。
「来たな」
遠くから風がこちらへ向かっていた。ヒュンヒュンと変わった音を立てていてわかりやすい。影丸は、音のする方に手を向け細く鋭い雷を放った。当てるつもりはなく、自分の存在を知らせるものだ。突風は動きを止めて影丸を睨みつける。
「ついてこい鼬、俺とお遊びといこう」
屋上を駆け、山の方へと向かう。柵を超えて木々を伝っていけばすぐだ。ヒューっと音を立てながら鎌鼬もついてきている。鎌鼬の通った箇所が切り刻まれ、枝や葉がそこら中に散らばっていった。
山の中腹辺りまで来ると、影丸は動きを止めて竹刀を取り出す。妖力を竹刀へと纏わせれば、そう簡単には折れない。
「キシャーー!!」
風の中に鎌鼬の声が残っている。
「来いよ、俺を倒してみろ」
高速で飛んできた突風の塊をすんでのところで避ける。突風はすぐ近くの木に当たり、大きな穴を開けてなぎ倒した。
「シャー!」
姿を見せたのはかつてと同じ姿の鎌鼬。手足が鎌になっているが、体や顔は鼬そのもの。
「実際に戦ってみるとわかるもんだな。お前は甦りじゃねえな」
行き場を失い、人間を殺すために力を得ようと必死なのだろう。そういう意味では、甦りの方が幸せなことが多いのかもしれない。美津のように妖でも人に紛れられたならどれだけ楽だろうか。
「コロス、オマエコロシテ、チカラエル」
興奮しているのか、鎌鼬は口からヨダレを垂らしながら鎌を振り上げた。
今度は避けることなく竹刀で受け止めた。殺気立った鎌鼬からは、憎しみを強く感じとることが出来る。
「そんなに人間が嫌いか」
「ワレラノトチ、カエセ」
「知ったこっちゃないね」
力を込めて竹刀を押し付け、鎌鼬を吹き飛ばす。どうやらこの鎌鼬は、以前影丸と戦闘を繰り広げた鴉天狗とは、違う理由で戦いを挑んでいるらしい。
「でもま、妖にも甦りにもいろいろあるってわけか」
これも美津や爪井に聞いた方が良さそうだと考えながら、影丸は竹刀を構え直した。さっさと終わらせて詩乃の元に帰るつもりだ。
「死んじまえば、その憎しみも消えるだろ」
「キシャーーー!!」
右回りに回転しながら突風を伴って鎌鼬がやって来る。バチバチと音を立てた竹刀は黒い雷に染まっていく。影丸は竹刀を下から振り上げ、鎌鼬の腹に叩き込んだ。鳴き声を上げることも出来ずに、鎌鼬は影丸の攻撃を受け一瞬意識を飛ばした。動けないように頭を鷲掴み、ぶらりと体を宙に浮かせる。
「化け狸を襲ってたのはお前か? 他に仲間は?」
「……ミ、ナシンダ。ニンゲン、ドウホウコロシタ。ニクィ、ニクイニクイ」
「仲間はいないってか。残念だが、妖は実力主義だ。強く賢い者が生き残り、他は死んでいく。お前はそのどちらでもなかったってことだな」
手から直接雷を放つ。短い悲鳴の後、鎌鼬は息絶えた。そして鴉天狗たちと同じように肉が腐り骨は灰になる。鴉天狗と比べると少ない妖気が体内に巡っていった。
「死に様は同じなのか」
静かになった山に学校側から音楽と太鼓が聞こえてくる。盛り上がり的にもうすぐ終わるようだ。
「最後くらい詩乃といられっかな」
ボロボロになった近くの木々を見つめる。人がこれを見つけたら驚かれるだろうが、人というのは理解不能な出来事を超常現象だ、心霊現象だと勝手に騒いでいつしか忘れていく。それなら何も気にする必要はないだろう。
影丸が校門にたどり着くと、詩乃は体を横に揺らしながら手拍子をしていた。輪に混ざって踊るのはどうやら難しいようだ。
「詩乃」
「……! にいに?」
詩乃の肩に手を置いて、ゆっくり押していく。踊れなくても踊りの輪の中に入って行くぐらいはいいだろう。やぐらで、ほっとした顔を浮かべる田貫が見えた。詩乃の同級生と思われる少女の前に入れてもらい、影丸は詩乃の肩を掴みながら周りに合わせて歩いていく。詩乃も兄の速度に合わせながら歩き、先ほどと同じように手拍子をしていた。
髪を結っているため、詩乃の表情が後ろにいる影丸からもよく見えた。ずっと上がりっぱなしの口角と、興奮に染まる頬が愛らしさを強調させている。
「詩乃、ちゃんと楽しんでるか?」
「うん!」
曲が終わり参加者たちの拍手が聞こえてきた。配られたお菓子の中には詩乃の好きなせんべいも入っている。
「お兄さんもどうぞ」
「俺も?」
「ええ、ぜひ貰ってください」
運営の教師は影丸の分もお菓子を渡し、嬉しそうに笑っている。普段からお菓子を食べる訳では無いが、たまにはいいのかもしれない。
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