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鬼神は妹至上主義  作者: 白い犬
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陰陽師

 影丸(かげまる)は早速先ほど会った松蔭凪(しょういんなぎ)の話をした。その名前を聞いて、美津(みつ)は切れ長の目をさらに鋭くする。

「あんた、陰陽師にまで目をつけられてんのかい」

「陰陽師は今も存在するのか?」

「いいや、陰陽師の末裔がいるってだけさ」

 害ある妖を祓ったあと、陰陽師たちは貴族の位を得た。そして都に蔓延する病の鎮静化、天災の調査、政など様々な場面に駆り出されることになる。

「役割が多くなったから、陰陽師たちの中で分担を行った。それらを統括していたのが松蔭家さ」

 松蔭家はもともと都の近くを拠点としており、陰陽師を志す人々がこぞって手習いを求めて訪れた。当主となる人間は、大嶽丸(おおたけまる)のような鬼や大天狗などの力ある妖と互角に戦う力を持つ。

「ただ、そんな陰陽師も人と人との争いには何の役にも立たない。だから、戦の時代にはほとんど姿を見せなくなった」

「残ったのが、松蔭家だったってことか?」

「まあ全員が松蔭ってわけじゃないさ、生き残った陰陽師を集めて、松蔭の名を残したって感じだね。その末裔が、その松蔭凪ってことになる」

 今でも陰陽師の仕事をしている、というわけではないが、松蔭家は不動産に関わり裕福な暮らしをしていた。そんな松蔭家の跡取りが松蔭凪だ。

「あいつは、明らかに俺を狙ってた。今は勝てないって消えたけどな」

「逆に言えば、相手の力量を測れるほど力をつけてるってことさ。人間はあたしら妖と違って本能が妖気を感じてくれるわけじゃない」

 人間が妖気を感知できるようになるには、それなりに修行が必要らしい。それが備わっているか否かが、妖と人間の大きな違いでもあるんだろう。

 影丸は奥で白谷と遊ぶ妹を眺めた。凪という男は詩乃のことを知っているのか。家まで調べがついているということは、影丸の家族構成まで把握しているはず。

「お前たちも気をつけた方がいいんじゃないのか」

「危険が迫ったら、守ってくれるんだろう?」

「優先順位は下がるけどな」

 全てを守り抜くにはまだ力が足りない。それを1番理解しているのは影丸であった。

「前に俺の情報を得た(よみがえ)りについて話してたな」

「ああ、また増えてるだろうさ」

「鴉を倒した後、確かに自分の妖気が増した。やつらの妖気を吸収したんだろうな」

 たぶん自分が蓄えられる妖気は、前世の力と比例している。なら、まだ自分の妖気を増幅させることも可能だ。影丸はそう考え、美津に対して黒い笑みを見せた。

「まさかあんた」

「敵が多いなら好都合だ。片っ端から喧嘩買って妖気を奪ってやろうじゃねえか」

 人間のような鍛錬は自分には向かない。鬼であった過去を忘れる気もない。だからこそ影丸は、争うことを決めた。

「美津、悪いが(いたち)を探してくれ。俺も探すがお前の眷属の方が動きがいいだろ」

「協力するとは言ったけど、自ら危険に乗り込むなんてさ……」

 美津は1度頭を掻きむしると、深くため息をついて影丸を睨むように見つめた。

 以前よりも好戦的な印象になった。それが鬼の本質なのかはわからないが、前よりずっと戦うことに高揚感を覚えているように見える。

 美津の感じたことは間違っていない。だが、影丸の変化は天狗退治をしたことよりも三重の地に来たことが原因となる。

「それともうひとつ調べたいことがあるんだ」

「なんだい?」

「俺が封じられたかどうかだ。俺の住処にやって来たのは、夏凪(なつなぎ)って名前の男だ。俺を山に封じるために、配下の人間を周囲に置いていたようだが、術が完成する前に発動した」

 どちらかと言えばあの術は失敗したのだろう。成功していれば、影丸は今も大嶽丸として山に眠っていたはずだ。しかし、魂を残して時を巡り甦りとなった。

「夏凪1人が死んでも松蔭は潰れないだろう? 陰陽師は昔から虫よりしぶとい」

「あんたの最期はあたしでもわからない。ああ、でもそうだな……人間の中にも面白いのがいてね」

 美津は奥の棚から1冊の冊子を取り出した。

「あんたもそのうちお世話になるかもしれないね」

鈴鹿山前(すずかさんぜん)大学?」

「ここに気持ち悪いぐらい妖に関心を持った男がいてね。1度会ったけど頭のおかしな男だったよ」

「そいつなら俺のことも知ってるってことか?」

「確実とは言えない、人間はそんな長く生きられないからさ。だけど、陰陽師たちも人間には手出し出来ないだろ? 甦りや妖を使うよりも人間を頼った方が安全さ」

「なるほどな」

 美津は男の名前とメールアドレスを書いた紙を影丸に渡した。文化史学科という科に所属する男は、爪井 九十九(つめい つくも)という。教員紹介の画像では分厚そうな眼鏡をかけたパッとしない男だ。

「まあ会うなら、気をつけていきな」

「そんなにヤバい奴なのか?」

「普通の人間じゃないことは確かだね」

 呆れたように笑う美津は、少し遠い目をしていた。

ここまで読んでくださりありがとうございます

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