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鬼神は妹至上主義  作者: 白い犬
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力を受け継ぎし者

 その日は朝から嫌な予感がしていた。今日は天気がいいから川辺に遊びに行こうと、夏季休暇の宿題を怠けている影丸(かげまる)詩乃(しの)を誘った。だが、祖父に言われて庭の花壇に水を与えていると、ぞわりと全身の毛が逆立つ感覚があった。辺りを見渡すが、周囲に妖気は感じられない。

 昼食は2人分茹でたそうめん。まとめてガラスの器に盛り付け何個か氷を入れた。詩乃より少し多い自分の分を食べ終えて、影丸は出かける準備を始める。

 誰かが近づいて来ている。鴉天狗を倒してから、自分の感覚が鋭くなっていた。気配が大きくなっていき、この家の前で立ち止まった。

「詩乃、絶対そこ動くなよ」

 ちょうど食事を終えた詩乃を居間に置き、自分は玄関の方に向かう。妖気ではないが、どこか感じたことのある気配。疑いながらベランダから庭に降りる。

「あれ? そっちから来ちゃったのか」

「誰だ、お前」

 空色の髪、ニヒルな笑みを浮かべる黒い瞳。白いTシャツは汗で少し体に密着していた。

 見た目は俺と同い年ぐらいだろうか。

「ずいぶん力が強いんですね。これじゃあ僕は敵わないや」

「なんの話しをしている」

「ああすみません、僕は松蔭凪(しょういん なぎ)。陰陽師だった家系の子孫です」

 その紹介を聞いて、妖気がぶわっと暴れ出すのがわかった。本能や記憶が、目の前の男を殺そうとしている。影丸は意識が怒りに引っ張られていると気がついた。冷静になろうと一度拳を握り、ゆっくりと開いた。呼吸を落ち着かせ、ただ凪の挙動を見守る。

「陰陽師がいるなんて信じられないな」

「何を言うのかと思えば、貴方は大嶽丸(おおたけまる)の甦りでしょ?」

 一度とぼけてみたものの、凪は確信を持って影丸の元を訪れたようだ。様子を見ているが、先頭を始める気配はない。

「僕たちただの人間には繰り返す記憶はないけど、事細かに記載される記録がある。そして才能を持って生まれれば、それに見合う教えを乞うことだってできるんだよ」

「それで俺の事を調べたって言いたいのか」

「そう。そしてできることなら僕はまた君を封印しようと思ったんだ……でも、無理みたいだね。今日の所はお暇するよ」

 封印……? あの日俺は刀を振り下ろした。その刃が届いたかどうかはわからないが、夏凪の隣にいた男は、まだ術が不十分だと言った。だから俺がここにいるのか。様々な考えが影丸の頭を巡っていく。考え悩む間に、凪は再び笑みを浮かべて立ち去って行った。


「詩乃、予定変更だ。美津(みつ)のところに行こう」

「誰か来たの?」

 兄の変化を感じ取ったのか、詩乃からは不安そうな声が漏れる。そんな詩乃を安心させるため、影丸は一度詩乃を優しく撫でた。

「心配すんな、ちょっと美津への用を思い出しただけだ。そうだ、白谷(しろや)が次来た時はお手玉を教えるって言ってたろ? できるようになって爺さんを驚かせようぜ」

「そっか! 行く!!」

 不安を取り去り、遊びモードへと変わった詩乃のテンション。夏休みになったばかりで毎日興奮し気味の詩乃には、一瞬の疑問などは無意味だった。

 昼間に出かけると強い日差しが襲ってくる。詩乃は影丸の影を踏みながら歩き、時々体を避けて踏めなくする影丸に怒る。そんな日差しも提灯屋が近づくと日陰に遮られるようになっていく。

 店の看板が見えてくると白猫が扉から現れた。一瞬で姿を人へと変える。

「いらっしゃいませ、詩乃ちゃんもいらっしゃい」

「白谷さんだ!」

 声を聞いて詩乃が白谷の存在に気がつく。店に行くことは伝えていないが、塀の上にいた猫たちの中に美津の眷属が混ざっていたんだろう。影丸は、道中見かけた数匹の猫を思い出し、もしかしたら全部かもなと内心笑った。

「美津いるか?」

「ええ、もう店におりて来ていますよ。詩乃ちゃん、約束通りお手玉をしようか」

「うん!」

 兄としてはあまり嬉しくは無いが、詩乃は白谷によく懐いていた。影丸とは全く違う接し方をするため、興味が引かれやすいのだろう。

 店の中は風を通しているためか、物が多くても埃っぽさを感じさせることはなかった。美津はちょうど詩乃用の茶菓子を準備していた。

「いらっしゃい、影丸は奥に来な、話を聞こうじゃないか」

ここまで読んでくださりありがとうございます

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