烏退治
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申し訳ありませんでした。
鴉天狗は人の姿に烏の羽が生えた姿をしていることが多いが、本来の力、妖力を使う時は烏の顔になる。顔面烏野郎ばっかってことは、最初からこいつらは本気だってことだな。
「ふっ!」
「はぁ!!」
「ころす! ころす!!」
鋼のように鋭い羽や岩をも切り裂く風。天狗の技としちゃ定番だ。この姿で受けるのは初めてだが、体が覚えている。こいつらと戦ったのは記憶違いじゃない。まだ本調子じゃないが、こんな鴉3羽倒すぐらいなんてことないな。1番知能の低そうな鴉は、接近戦で槍を巧みに用いて攻撃を仕掛ける。薄く妖力を纏わせた竹刀は簡単に折れやしない。それに合わせて残りの2羽が空から攻撃。慣れてない奴は、苦労するだろうな。
「鳥頭、そんな姿じゃモテないぜ」
「何を戯けたことを」
「馬鹿らしいわ」
「うるさい! うるさい!!」
「今世じゃ、俺みたいな容姿がウケがいいんだとよ」
余裕を見せながら戦う俺にイラついたのか、少し距離をとっていた2羽も近づいてくる。そこが俺の狙い目。3羽まとめて焼き鳥にしてやる。体内から妖気が溢れるのがわかる。妖力となって雷を放て。
バリバリと地を裂くような音が聞こえると、烏天狗たちの翼や体を射抜くように細く伸びた雷が轟いた。
「ぐっ!」
「ぁあああああ!」
「ぎゃああ! いたい! いたい!」
雷撃を耐えたのは雄の1羽。刀を地面に突き刺し、何とか立ち上がる。
「奴の情報と違う……鬼神は弱っていると、力を取り戻していないと言っていたのに」
「奴?」
「う……はあ、はぁ……貴様もよく知っているだろう、ぬらりひょんさ」
血を吐きながら鴉天狗はニタリと笑う。この様子だと、俺の周りでぬらりひょんが悪事を働いたと知っているはずだ。
「確かに、力は衰えた。だが舐めるなよ、鳥風情に負けるほど鬼は甘くないんだよ」
「おのれ……どこまでも我ら鴉天狗を馬鹿にして。我らは高貴な烏天狗の甦りだ! 鳥風情などと戯けたことを言うな!」
怒りに任せ刀を振るう。確かに妖の中じゃ烏天狗は強い方だ。だが、天狗の中にも格付けはある。鴉天狗は数こそ多いものの、大天狗に比べると能力が劣る。翼を持つ分鴉天狗の方が有利と思われるが、大天狗は自身の能力で補えてしまうだろう。天狗界隈に、どれだけ俺のことが広まってんだかな。
震える剣筋は考えなくても読み取れた。半歩左にずれ、竹刀の柄で手首を叩く。刀を落としたところで鴉の顔面を掴み、地面にたたきつけた。
「ご自慢の翼も地面に叩きつけられれば役立たずの荷物だな」
「離せ!」
「今までも俺を襲う甦りがいたな」
どれも下級の妖ばかりで苦労はしなかった。大体の奴が返り討ちだ。放っておいてももう危害は加えないだろうと思うが。
「お前たちはどうだろうな。いま見逃せば次は他の群れも集めるだろう。そういうの得意だろ?」
力で勝てないならば数で、群れで。それが鴉天狗のやり方だった。だからここでこいつらをこのままにしておくのは得策ではない。
「まだ今世で他人を殺めたことはないんだ。甦りは死んだらどうなるんだろうな」
「ひっ!!」
月の光を吸収したようにぎらりと目が輝く。それは、目の前の鴉にとってただの恐怖でしかないのだろう。
「やめろ! 殺さないでくれ! 頼む、もうここを離れるから、手出しはしないから!」
「おいおい情けねえよ」
じたばたと俺の手から逃れようと必死な姿。前世ではこの姿が見たいがために何度も見逃しては、また巣を荒らした。我ながら残虐性が強いな。
「忘れたのか鳥頭。俺は大嶽丸だ、生かすも殺すも気分次第。今日は殺したい気分だ」
「ま、ま、待ってくれ! ぬらりひょんを探してるんだろう? 情報を集める、烏たちに探させる!!」
「そんなの、お前である必要はない。お前たちのせいで詩乃の頬に傷がついた。怖がって涙を流した。それが俺は許せない。そしてお前の提案は謝罪に値しない」
「やめてくれ!」
落ちていたこいつの刀を拾い、切っ先を心臓へと突き立てた。絶叫する間もなく鴉が1羽その生を終える。息絶えた瞬間、羽が抜け落ち人の顔が現れる。翼も消えてしまった。僅かに息があった残り2羽もトドメを刺せば同じようになってしまった。この死体をどうすべきか考えていると、突然肉が腐り始め骨は灰になった。一瞬ものすごい臭いが充満したが、あまりの変化の速さにあっという間に臭いが消えた。
そういえば、天狗は群れで死ぬって聞いたことがあったな。1体でも群れの生き残りがいれば妖力を使って死んだ仲間を蘇らせる。下位の天狗ほどその術に長けている。そんな噂を思い出した。
頭上で鳴いていた烏たちもいつの間にか姿を消して、静かな夜が戻ってくる。胸を張って空気を吸い込むと周りに漂っていた鴉たちの妖気を感じた。ちょうどいい、これも俺のものとしてしまおう。
手足が麻痺したように力んだ。端から熱を帯びて血液や細胞がうずうずとみなぎっている。妖気が体を駆け巡った気がした。鴉天狗の妖気だからといって俺自身が鴉になるわけじゃない。毛が逆立つような感覚の後、心臓で雷が轟いた気がした。奴らの妖気は俺の妖気に変わる。
どこからともなく支配欲がじわじわと脳に侵食する。ここでひと暴れすれば、どれだけの人間を殺められるだろう。かつて浴びていた血飛沫と悲鳴を思い出した時、瞳の奥に詩乃の姿が浮かんだ。
「……帰るか」
俺のすべきことは殺戮じゃない。今の俺は鬼ではない。そう言い聞かせ、古びた神社をあとにした。
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