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鬼神は妹至上主義  作者: 白い犬
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烏の巣へ

「そうだとしても、子供のお前に何ができた」

 頭にポスッと祖父の手が乗る。そしてゆっくりと左右に動かされた。頭を撫でられるなんて、いつぶりだろうか。もしかしたら、初めてかもしれない。

「昔話強い妖だったのかもしれない。だが、今のお前も家に来る前のお前も、ただの子供だ。大人が見守って、手助けしてやらなきゃならない子供だ」

 見上げた祖父の目は真剣だ。こんなにまっすぐ祖父の目を見たことがあっただろうか。人間は暇つぶしに殺す対象だった前世と、自分で親を見捨てた今世。祖父に限らず、人間の目をまっすぐ見つめたことなんかなかった。

「すまなかった、ずっと1人で戦わせてしまって。そしてありがとう、詩乃をずっと守ってくれて」

「爺さん……?」

「俺ができることなんて、お前たちに飯を作って、朝見送ってやることぐらいだが、それでも影丸の力になれるなら、俺はなんでもやるさ」

 たかが人間なんかに何が出来る。以前の俺ならそう言っていたと思う。だが、詩乃のそばに祖父がいて、俺の帰るこの場所に祖父が待っていてくれることが、何故か心強い。詩乃だけが俺に知らない感情を教えてくれると思っていた。だが、祖父も形容し難い感情を俺に与えてくれるのか。

「……感謝する」

 照れくさくなって、堅苦しい言い方になってしまった。だが、祖父は全部お見通しというように満足だと笑う。例え力は俺の方が上だとしても、敵わないと思う相手ができるなんてな。

「影丸のことだ、まだ俺に言ってないこともたくさんあるんだろう?」

「例えば?」

「お前はなんの妖で、何をしていたんだ?」

「それを聞いたら幻滅するさ」

「どうだろうな」

 教える気は無い。俺が大嶽丸(おおたけまる)で、人間を殺し、村や町を潰し歩いていたこと。大嶽丸の時に詩乃と出会っていたこと。祖父の娘である母親を呪い殺したこと。これから俺は、甦りという人間を殺すかもしれないこと。秘密は沢山ある。気になるとは言いながらも、それ以上聞いてこない祖父に甘えて、俺はそれ以上話は続けなかった。


 夜遅く。夕食を終えてすぐに道場に入った。祖父は何も言わずにおにぎりを2つ差し出し、詩乃を寝かせに行った。道場にしまってある、自分の竹刀を取り出す。

 意識を集中させた。竹刀は黒雲を薄く纏ったと思うと、バチバチと(いかずち)が姿を現す。制御は完璧では無いが、これなら戦える。無傷で終わるとは思わないが、烏退治をやめる気はない。

 道場の扉が開き、1匹の黒猫が入ってくる。近づくうちに姿が徐々に変わり、黒髪の男に変わった。白谷(しろや)と顔が似ているが、髪の色と着物の色は真逆だ。

「俺は黒崎(くろさき)美津(みつ)様の眷属だ。昼間依頼された通り、烏天狗の巣を探してきた。案内する」

「ああ、頼む」

 抜き身の竹刀を携えたまま、再び猫に変化した黒崎の後に続く。

 住宅街を進んだ先に、壊れかけの鳥居を見つけた。もう誰も通っていない神社があるようだ。石段も荒れ果て、踏みならされていない草が生い茂っている。

「さっきは驚くと思って人間に変化(へんげ)したが、このままで失礼する。この先に本殿があるがそれを抜ければ烏の巣だ。悪いが、俺はここまでにする」

「ああ、お前になんかあったら美津も悲しむだろうしな」

「……そ、そうだろうか」

 黒猫が照れたように顔を伏せる。こいつも余程美津に心酔しているようだ。まあ、眷属なんてそんなものか。俺にはいなかったけど。

「案内感謝する。美津にも礼を言っといてくれ」

「承った。負けるとは思ってないが、気をつけてくれ。美津様はあなたのことを思いの外気に入ってるようだ」

「ふっ、また店に顔を出す」

 草木をかき分けて先を急ぐ。昼間と違って雲が避けている。そのおかげか月がよく見えた。虫の音が程よく聞こえてくる。詩乃もこういう音は好きだろうな。新しい音を見つけてはなんの音?どんな姿?って言いながらにいにと呼ぶのだ。

 詩乃ことを考えていたら、いつの間にか本殿にたどり着いた。ここまで来ると烏たちの気配や妖気を気持ち悪いほど感じる。様子を見に来たのだろう。頭上で烏が何羽を飛んでいる。

「俺にやられた烏も混ざってんのか?」

 近くに明かりもないっていうのに、烏たちの目がギラギラと光っている。本殿を過ぎ、木々が生い茂る中へと進んだ。

「来たか、大嶽丸(おおたけまる)

「我らの住処に無断で入るとはね」

「ぶれいなやつ! ぶれいなやつ!!」

 力のある烏天狗は3羽。それは間違ってないみたいだ。あとはその眷属の烏たち。雄が2羽、雌が1羽か。

「お前らは甦り(よみがえ)か? それとも普通の妖か?」

「我らは甦り、貴様に巣を荒らされた記憶は失くしてはおらぬぞ」

「悪いけど、俺は覚えてないね」

「おのれぇ!!」

 竹刀を構えて、戦闘態勢をとる。

「さて、殺ろうぜ烏ども」

ここまで読んでくださりありがとうございます

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