邪魔者
「はっくしょい!!」
花粉が鼻に入ったんだろうか。さっきからむず痒くて仕方がない。休日、祖父が車を出して近くの農園に来ていた。ここは、フラワーガーデンというものを設営しており、季節ごとに変わる花を見られると評判だ。あいにくの曇り空のため、今日は人が少なめだ。
「ほら、鼻をかめ。みっともないぞ」
「うるせえよ」
ズビッと鼻をかんで辺りを見渡す。見た感じ、高齢の人ばっかだな。
「じいじ、このお花いい匂い」
「どれ、本当だな。後でこの花の写真を撮っておくか」
「うん」
花が好きな詩乃は少し歩く度に立ち止まり、そこに咲く花の匂いを嗅いでいる。そして、目が戻った時に見られるよう、祖父が写真を撮っておく。俺は花になんか興味は無いが、いつか詩乃に教えられるように紹介文を読んで時間を潰す。
「影丸、そろそろ昼にしよう」
「ならあっちにキッチンカーが並んでたから適当に買ってくる」
「すまんな、これ使え」
いくらか金を貰い来た道を戻っていく。周りも同じ考えなのか、キッチンカーやさらに奥にある食堂へ向かっているようだ。さっき詩乃たちがいたところの近くにベンチもあったから、そこで食べるとするか。
サンドイッチにポテト、あとフランクフルト。俺には物足りないけど、まあこんなもんでいいだろ。
もう一度、花を見ながら歩いていた時、祖父の怒る声と詩乃の泣き声が耳に届いた。そして空中を飛び回る数羽の黒い鳥。
「やめろ! こっちに来るな!」
「うわーあ!!」
身をかがめている詩乃、迫り来る鳥を追い払おうと必死に手を振る祖父。無意識に手が動き、手の平から雷撃が放たれた。それは1羽にあたり、ギャッという短い声を上げたあと、地面に倒れ伏した。
その場に買い込んだ飯を放り、一気に駆けだす。黒い鳥はどうやら烏のようだ。雷撃を放ったことにより、烏たちの視線は俺に向いている。地面を蹴りあげ、烏の高さまで跳ぶ。1羽は右手で払い、1羽は左手で首を掴んだ。着地をしてから迫り来る残りの烏は、全身から溢れた少量の雷にあたり気絶した。
左手に掴まれた烏はじたばたともがいている。それに顔を寄せると懐かしい気配がした。
「お前、臭いな。天狗臭くてかなわない。烏天狗の眷属だよな?」
ガァー、ギャーとうるさい烏。これは宣戦布告に違いない。
「主人に伝えろ、俺直々にお前の巣に行ってやる。さっさと飛んでけ」
投げるように烏を解き放つと、気絶していた他の烏も一緒に逃げ出した。体の周りにはまだバチバチと音を立てる雷が漂っている。妖気は増えたが、妖力の制御がイマイチだな。
烏が見えなくなった頃、背後にいる2人を確認した。祖父は怯える詩乃を抱きしめ、じっとこちらの様子を伺っている。
「影丸……今のは」
「ちゃんと話す。だからとりあえず帰ろう、詩乃少し怪我してるみてえだし」
爪か嘴があたったのか、詩乃の頬が少し切れている。本当は殺してやりたかったが、こんなところに烏の死体が何体もあれば、騒ぎになってしまうだろう。車内では、詩乃はずっと俺にしがみつき、祖父は黙ったまま車を運転した。
「詩乃は?」
「寝たよ、怪我はそんな酷くないから病院は大丈夫そうだ」
「そうか」
祖父は居間の椅子に座り、俺が話し出すのを待っているようだ。大人しく目の前の椅子に腰掛けると、祖父は用意していたコップを差し出し、お茶を注いだ。
「爺さんはさ、妖とか妖怪っていうの、信じるか?」
虚をつかれたのか、祖父は今まで見たことない表情で固まった。
「それは、本とか昔話によく出るようなやつか?」
「まあそれでいい。そういうのが本当にいるって言ったら、爺さんは信じるか?」
再び祖父はかたまる。そして少し俯きながら考えたあと、下手な笑顔をうかべた。
「信じないと、話が進まないんだろう。わかった、信じる」
「……俺は昔、妖だった。妖で、暴れ回った挙句に死んで、そして人間として生まれ変わった」
「人間に……」
「ああ。だけど、妖だった時の力がまだ残ってる。今日爺さんが見た雷は、紛れもなく俺から出てたし、俺の力だよ。俺は、普通の人間じゃない。言ってしまえば化け物だ。そんでこれから、俺みたいな化け物をぶっ飛ばしに行かなきゃならねえ」
烏天狗は俺のことを見つけたんだ。だから、眷属である烏を使って、様子見しに来たんだ。なら、これ以上詩乃や祖父が襲われないように、さっさと倒してしまった方がいい。昔みたいにとはいかないだろうが、力を使って暴れるのは、正しく化け物だ。普通とはかけはなれた、恐ろしい生き物だ。
「お前は、影丸は化け物じゃないさ」
「え?」
「影丸は、俺の孫さ。化け物なんて言ったら、いくら影丸でも許さん」
祖父は、立ち上がって壁に立てかけていた竹刀を握り、ビシッと俺の目先に突き立てた。
「信じるのかよ」
「信じる信じないじゃない、影丸は俺の孫ってだけだ」
「そうかよ」
「なんだ、照れてるのか」
「照れるわけねえだろ、てか危ねぇな、竹刀避けろよ」
そうやって言い合っていると、祖父は鼻で笑いまた座り直した。
「なぜ襲いにきた、それになんでお前は戦わなきゃならない」
「狙いは俺だ。だから、俺の近くにいる詩乃も狙われる。それと、俺が戦うのは詩乃の目を取り戻すためだ」
「目を、取り戻す?」
「ああ。詩乃は生まれてすぐに、俺と敵対する妖に目を取られた。だからそいつを倒して目を取り返す。俺のせいなんだ、詩乃の目がなくなったのは」
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