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鬼神は妹至上主義  作者: 白い犬
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化け猫

 朝の練習を終え、身支度を整えてから家を出る。俺が出かけるのが寂しいのか、見送ってくれた詩乃(しの)が泣きそうな顔をしていた。だが、これは詩乃のためでもある。土産を買ってくるからと言って、詩乃と別れた。

提灯屋(ちょうちんや)?」

「うん。雑貨屋さんだけど、僕ら甦り(よみがえ)は違う用途で使うこともあるんだ。例えば、妖関連の情報とかね。1人で行ってみたけど、危険な感じじゃなかったよ」

 家近くのスーパーから20分ほど歩き、木々に囲まれた古民家までやって来た。扉の前に店名が書かれた白い看板が置いてあり、どこか不気味さを感じさせる。

 慣れているのか、田貫(たぬき)は躊躇いもなくその扉を開けた。

美津(みつ)さーん、こんにちはー」

 細々とした装飾品からソファなどの家具まで取り揃えている店内は、外から見るよりも広く感じる。扉を開けたことで、扉近くの風鈴がシャラシャラカラカラと音を立てていた。レジが置いてある場所の置くの暖簾が揺れ、黄土色をした長髪の女性が浴衣姿で現れる。

「なんだい、誰だい?」

「僕です、一成(いっせい)ですよ」

「あー、狸小僧。今日はなんの用?」

「実は、美津さんに聞きたいことがあって」

 レジの机に気だるげに肘を着いた女性は、美津と言うらしい。つり目の黄色い瞳がきらりと光っている。

「見ない顔だね、ずいぶんと力を持っているようだけど……」

「あ、彼は嶽川影丸(たけがわかげまる)大嶽丸(おおたけまる)様の甦りです」

「小物が大物連れてきやがった」

「ひどい!!」

 あんたは強い妖だったみたいだね、そう言って美津は机の上にあった煙草に火をつけた。煙を吐きながら、不敵に笑みを浮かべている。

「強い妖様が、こんな所に用があるとは思えないんだけどねぇ」

「ぬらりひょんの情報が欲しい、よこせ」

「うわぁ、影丸ってばどストレート」

 回りくどい言い方なんぞ知らない。早く目的を果たせるのに越したことはないからな。美津はぬらりひょんという言葉に反応したのか、笑みを消して眉を寄せる。

「あんたに情報を流せば、あたしが狙われちまうかもしれない。狸小僧、あんたここにその男を連れてくるだけでも、大嶽丸の協力者だって睨まれるよ」

「わかってます。覚悟して来てますから」

 田貫は俺の横で強く頷いた。先日感じた覚悟はこれのことだったのか。

「待て、田貫が恨まれる意味もわからん」

 俺がそう聞くと、美津は細い首を仰け反らせながら、高い声で笑う。

「当事者のくせに知らないのかい? ぬらりひょんは、前世の恨みを晴らそうと必死なのさ。あんたみたいな鬼とか狐にまで負けて、一時は笑いものだったからねぇ。大嶽丸さんも、心当たりがあるんだろう?」

「まあ、なくはない……」

 わざと瀕死なところを捨ておいたり、ちまちまと雷撃をあててみたり、恨まれることばかりした気がする。俺にとっては暇潰し程度だったが、プライドの高いぬらりひょんには腹が立って仕方がなかったんだろうな。

「あーやだやだ、ぬらりひょんなんかは弱い奴から仕掛けに来るのにさ、あたしなんか一捻りさ。狸小僧、鍋にされるよ」

「ひぇえええ」

「要するに、お前らに被害が行く前に俺が倒せばいい話だろ? 簡単だ」

 田貫がかっこいいと言いながら俺の袖を掴んだ。鼻水がつきそうになり、頭をおしやる。

「よほど自信があるんだねぇ。なんだってそんなにぬらりひょんを探すのさ」

「ぬらりひょんから妹の目を取り返す」

「妹?」

「あいつは、生まれたばかりの妹から目を奪った。ご丁寧に妖気まで残していってな。だから、ぬらりひょんを倒して目を取り返す」

「ちょ、ちょっと待って! 今、妹って言ったかい!?」

 座っていた体を起こし、美津は身を乗り出した。思わぬ急接近に驚いて身を引いてしまう。先程よりも美津の瞳孔が細くなり、ぎらりと目が光っている気がする。

「妹って、いまいくつさ?」

「え? あー、9歳だけど」

「9歳! み、見た目は? あ、いやそれはまた今度で。その子の目を奪われたんだね?」

「あ、ああ……」

「わかった、協力しようじゃないか! でも条件があるよ、今度その妹さんを連れてきな。協力するのはそれからだ、あたしはこれから忙しいからね、今日はもう帰りな!」

 美津は華奢な体から出るとは思えない力で、俺たちの背を押して店から追い出してしまう。扉は勢いよく閉めると、鍵をかける音がした。

「な、なんだ急に……」

「いやぁ、僕にもよく分からないけど……と、とにかくさ! 協力してくれることは確かだから、安心して任せようよ!」

「そうだな。それに、今度は詩乃も一緒に来れるしな」

 ちゃんと見ることは出来なかったが、装飾品には詩乃も好みそうなものがあった。それに、奥には人形も置いてあるようだったから今度はしっかり見たい。

「田貫、帰りに駄菓子屋寄るぞ。詩乃の好きなお菓子買って帰る」

「ええ!? もう帰るの? もうちょっと遊んでこーよー」

「うるさい引っ付くな、お前より詩乃との時間の方が俺は大事だ」

「ひどい! 僕と友情を育む時間もくれよ〜」

「ない」

 田貫はうだうだ言いながら俺の後ろに続く。視界の端に白と黒の猫が1匹ずつ見えた。

「そういや、美津は何かの甦りか?」

「ん? ああ、化け猫だよ。でも美津さんは甦りじゃなくて、本当の妖」

 だとするとよほど気配を隠すのが上手いんだな。ここまで生き残っているんだから。

ここまで読んでくださりありがとうございます

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