友達の作り方
一週間後、引っ越しや入学でバタバタしてたが一通り身の回りのことが落ち着いたので、依頼されていた悩み相談室の準備をしようと、放課後に俺は割り当てられた部屋に向かっていた。
え?放課後友達と遊んだり?はは、特管出ということで素で距離とられてる上に、中高一貫ですでに出来上がっているグループに割り込めるほど俺のメンタルとコミュ力は高くないですよ。
ていうかせっかく入学式にクラス会があったのに理事長に呼び出されたせいで行けなかったのもあると思う。あの人ならホントにタイミング図って嫌がらせしてきてそうだからな…
と、考えているうちに部屋の近くまで来たら部屋の前に女子生徒が立っていた。上履きの色が赤なので一年生のようだ。ちなみに青が二年生、緑が三年生だ。
見覚えがあるようなないような、少なくとも同じクラスではないはずだ。
その女子生徒は今まさに部屋をノックしようとしているところだった。
「あのー、この部屋になにか用ですか?」
完全に不意打ちだったのか、女子生徒はビクッと体を反応させた。いや、そんなにビックリされるとこっちもビビるわ。
「あ、そ、空橋くん!?あ、えと、その、ここでな、悩み相談しくれるって聞いて……」
おや、俺を知ってるのか。こっちはちょっと思い出せないので申し訳ないな。とはいえ知ってるふりをするのも後に傷つけてしまうだけなので正直に聞くか。
「ええと、どっかで会ったことある?」
「その、空橋くんは特管出だって聞いて、校内の電子掲示板には顔写真も貼られてるから、それで…」
段々小声になってくから聞き取りづらかったがなるほど、電子掲示板に顔写真付で掲載されてるのか。校内電子掲示板は携帯端末から簡単にアクセスできるし、重要な連絡事項もここに掲載されるので生徒達はほぼ見ているはずだろう。
携帯端末を取り出し確認してみる。なんか書いた覚えのない趣味とか好きな食べ物とか書かれてるんだけど、なんで知ってるんだよあの理事長!
しかもこの顔写真、国内のグレイス犯罪組織を追い詰めるために一週間くらいほぼ徹夜で捜査してたときのやつだからめっちゃ目付き悪いやつじゃん!こんなの見たらそら皆距離置きたがるわ!
いつの間に撮ってたんだよクソが!絶対許さねえあの野郎!
「教えてくれてありがとう。悩み相談はちょうど今日から開始しようと思ってたんだ。立ち話もなんだし、とりあえず部屋の中に入ろう。」
理事長をぶっ飛ばすことを固く決意しながら、職員室で借りた部屋の鍵を取り出しドアを開ける。
中に入ると、左手前側にローテーブルがあり、それを挟んで対面にソファーが2つある。おそらく相談はここで聞く用に設置されたのだろう。
奥には事務机とその上には俺が使っていたノートパソコンが置いてある。隣に本棚もあり、隙間が結構あるが埋まっている部分は特管時代に俺が読んでた実用書とかがちらほらある。さらに奥にはポットや茶器の入った棚がある。ずいぶんと用意されてるな。もともと何かで使ってた部屋なんだろうか?
「とりあえずそこのソファーに座ってて。ちょっとお茶でも入れてくるから」
「は、はい」
うーん、やっぱり俺の印象が悪いのか緊張してるなぁ。まあ相談受けて話してればなんとかなるだろう。
お茶の入った紙コップを渡し、対面のソファーに座る。
「お待たせ。俺のことは知ってるみたいだけど、一応自己紹介しとくよ。1年C組の空橋優人です、よろしく。」
「は、はい!えと、棚星茜です。クラスは1年D組です。」
「棚星さんは隣のクラスだったんだ。なんか見かけた顔だなぁと思ってたんだよ。」
「あ、そ、そうですね……」
ん?なんかちょっとガッカリしてるような……なんか変なこと言ったかな?
まあ、このまま雑談してもいいんだけど棚星さんは用があって来たわけだし、真面目にやるか。
「自己紹介も終わったし、早速だけど相談内容について聞かせてもらってもいいかな?」
「あ、はい。ええと、その、笑わないでもらえますか?」
「もちろん。どんな悩みでも相談にのるよ。」
悩み相談に来てる人の悩みを笑うなんてそんなことするわけないし、なんていうか棚星さんはちっちゃくて可愛いから、こう庇護欲的なものが沸いてくる。なんでも相談にのってあげようという気になってくるな。
緊張を解すためにも笑顔でいると、意を決して棚星さんが話し出した。
「そ、その、友達の作り方を教えてください!」
笑うどころかまったく他人事じゃないんですけど……
現状クラスでは友達どころかまともに話してくれる人すらいない俺にこの相談内容はハードルが高すぎる……
とはいえ棚星さんは真剣に悩んでいるし、なんでも相談にのると言った手前無下に返すことなど出来るわけがない。
とりあえずは状況の確認をしよう。棚星さんは内気な感じこそあるが、俺ともまともに受け答えできているし容姿も整っているので、というか学年でもトップクラスに可愛いんじゃないかってくらいだから待っているだけで話しかけられそうな気がする。
「あの、私その、転校っていったらちょっとおかしいけど、去年まで第一学校の方にいて、親の転勤に合わせてこっちに来たばっかりだから、あんまり仲良い子とかいなくて…」
なるほど。グレイス関係の学校はすべて中高一貫なのでほとんどの生徒はエスカレータ式に高校に上がるはずだが、稀に棚星さんの様に親の転勤とかそれぞれの事情で転校する人もいる。ちなみにグレイス関係の学校はすべて寮があり、自宅から通うこともできるが寮に入ることもできるため、転校は本当に稀だ。
「それに私、こんな性格だから自分から話し掛けられないし、話し掛けられても上手く話せなくて……」
「そうなんだ。あれ?でも俺とは最初から普通に話せてるけど?」
「それはその……………空橋くんは話しやすいタイプだから………かな?」
え、普通に嬉しい。内気そうな棚星さんに話しやすいと言われるならクラスの人に話し掛けても普通に話せるのでは?
あんなヤバい目付きしてる写真で先入観植え付けられたけど、実際会ってみるとそんなことない的な感じなんじゃないか?
よし!明日はクラスで積極的に話し掛けて友達作ろう!
いかん、俺の悩みが解決してしまった。相談を受けに来た人に悩みを解決してもらっては良心が痛む。
なんとか俺も棚星さんの悩みを解決しなければ。
「ありがとう。そう言ってもらえると俺も自信が出るよ。棚星さんも話しやすいし、きっかけさえあればすぐ誰とでも仲良くなれそうな気がするよ。」
「あ、ありがとう……」
とはいえそのきっかけが大事だ。既に出来上がっているグループに入るとなると、自分がわからない話をされたりすると疎外感がでたりするから無理に入ってもそのうち居づらくなってしまう。
「ちなみD組ってクラス会はあったの?」
「入学式の日にあったんだけど、その日はいろいろと用事があって行けなくて……」
「なるほど。となると、今週末のグレイス交流会が一番とっつきやすいかもしれないな。」
グレイス交流会とは、月一で定期的に行われる予定のグレイスが発現している人はそのグレイスを実際に見せたり紹介して、発現していない人は興味のあるグレイス能力について聞いたりできる生徒同士の交流の場だ。
グレイスが発現していない人は発現する良い刺激になるし、発現している人は別の能力を見て勉強にもなる。
「ちなみに、棚星さんはグレイス能力発現してる?」
「えと、私は治癒系の能力が発現してます。まだ傷を癒せるほどじゃないんだけど、リラックスしたりできる、はず、です。」
自信がないのか言葉が段々尻すぼんでいっている。
治癒系は珍しいんだけど、人によって効果がまったく違う上にグレイス能力はもともと感覚で扱うものだからお互いに参考にはならないことが多い。
「グレイス能力が発現していれば、少なくとも向こうから話し掛けてくるはずだから、あとは普通に話せれば徐々に仲良くなれると思うけど、その普通が……ってことだよね。」
「う、はい。すいません。」
「いやいや、謝ることじゃないよ。というか今普通に話せてるからクラスメイトと話す時にどうなってるかあんまりイメージわかないけど。」
誰か別の人と話す練習とかできればいいんだが、あいにく俺にもこの学校でまともに話せる友達とかいない。
などと考えていたら急に相談室のドアが勢いよく開いた。
ドアを開けた人物は俺と目が合うと叫んだ。
「空橋優人!俺と勝負しろ!」
なんか変なのきたあ。