超能力お悩み相談室
「あの、なんで俺呼び出されたんですか?」
4月、今年から新入生としてグレイス第三高等学校に入学した俺は、入学オリエンテーションも終わり、クラス会を企画している同級生に混じっていざ友達作り!と意気込んでいたらいきなり名指しで理事長室に呼び出された。
「空橋優人君。君に頼みごとがあってね。」
「お断りします。失礼します。それでは」
即答し、そのまま部屋を出ようとしたが身体が動かない。嘘だろ!グレイス使いやがった!
「理事長のくせにそんな軽くグレイス使っていいんですか!」
「軽くではないよ、重要な話をしてる最中に勝手に帰ろうとする不良を矯正しているんだよ、つまり指導だね。グレイス高校管理規則第7条、グレイス発現済生徒へのグレイスに関する指導を行う際、教員はグレイス倫理委員会の基準に基づく範囲内でのグレイスの行使を許可する。」
グレイスとは、約半世紀ほど前に初めて人類に発現した力、いわば超能力である。空中に火を起こしたり、遠距離から触れずに物体を持ち上げたりといった空想上ではよくある能力がとうとう人類に発現した。
初めてグレイスが発現した人間から下の世代に徐々にグレイスが発現し、近年では日本の総人口の約10%がグレイス発現者だ。基本的にグレイスの発現は14~17歳の間に発現し、二十歳を越えてグレイスが発現した人は今のところ確認されていない。
グレイス発現可能性の高い者は、このグレイス第三高等学校のように、全国にあるグレイスの制御カリキュラムが組まれた学校に入学させられる。教員側もグレイス発現者のみであり、危険な能力も多々あるので生徒はもちろんのこと、教員も簡単にグレイスを使用しない様、規則が設けられているのだが、理事長は規則側の人間なのでやりたい放題だ。権力者ってズリぃ!
「いや、確かに話も聞かずに去ろうとしたのは悪かったとは思いますけど、俺もう特管でたんだから孝さんの言う事聞かなくても言いはずでしょ!ていうかこの体勢普通に辛いんで離してください!」
特管とはグレイス特別管理施設のことで、グレイスが発現したばかりの子どもが故意、事故に関わらずグレイスによって被害を起こしたり、特に危険なグレイスが発現した者が周囲に被害を出さないよう制御させられる矯正施設である。だいたいは中高一貫制のグレイス用学校に入学する。
つーか振り返ろうとしたところで身体を固定されたから首が真後ろ向きかけてて超いてぇ!!
「特管を出たといっても高校卒業までは保護観察期間にあると言っただろう。」
「じゃあせめて担当変えてください。」
「はっはっは、そんなつれないこと言うなよ。私と君の仲じゃないか。」
「あんたの無茶振りに付き合って死にかけたの両手じゃ数えきれねぇんだよ!」
能力を解いてもらい、痛めた首を気にしながら叫ぶ。
特管生は基本的に監督官がついて能力制御の補助をしてもらうのだが、監督官のお手伝いやボランティア活動のようなことも行う。
物体を動かす能力で工事の手伝いをしたり、水の流れを操作する能力で川の清掃活動をするなど、だいたいは能力を活かした仕事をさせられるのだが、理事長兼グレイス犯罪対策室室長である斎藤孝は俺をグレイス犯罪捜査につれ回しまくっていた。
おかしくない?中学生にこんな非倫理的なことさせてる人がなんで学校の理事長できてんの?金か?金積めばなんでもできるのか?
「安心したまえ。今回は命の危険もなければグレイスを使うことすらないかもしれないぞ?」
「グレイス使わなくていいなら俺じゃなくても良くないですか?」
「いや、これは君が適任なんだよ。君には生徒達の悩み相談室を開いてもらいたい。」
「悩み相談室ぅ?学校側でやってるやつがあるじゃないですか。」
「それがあんまり機能していないらしい。恥ずかしい話だが、教員の中にも偏ったものの見方をする者もいるから信用できないのかもしれないな。」
「はあ、なるほど。で、それでなんで俺が相談を聞く側なんですか?俺が開いたところで相談なんて誰も来ないんじゃないんですか?」
特管出でこの学校に入学したのは俺だけだから友達どころか生徒の知り合いすらゼロだし、そもそも特管って外では少年院的な扱い受けてるんじゃなかったっけ?
実際は自衛隊ほどではないけど規則正しい生活の中、厳しい訓練や勉強をさせられるが。
「そうでもない。年が近いほうがいろいろ相談しやすいものだよ。それに、グレイスの扱いに関しては特管生は並みの教員よりも秀でているから頼りにもなると思われてるさ。」
教員ほどとまでは自惚れるつもりもないが、思春期真っ盛りに軍隊みたいに厳しい生活と訓練にさせられ続けてるんだから少なくとも並みの生徒よりは上の自信はある。
ん?あれちょっとまて。
「それって俺が特管出ってことは全校生徒にバレてるってことですか?」
「そうだね。特管生が入学することは入学式の前にメールで送信されてる。」
この学校では入学手続きの際、学校側から連絡用に携帯端末を支給されている。校内に入る際はゲートがあり、この携帯端末がなければ入れないので身分証的な側面が強いが、ネットもみれるし、容量のすくないゲームアプリくらいなら普通に遊べる。
「えぇ……あんまり目立ちたくなかったんですけど…」
「中高一貫な上に転校生もほとんどいないからどのみちすぐバレたよ。」
「まあいいや。で、悩み相談って言っても具体的に何すればいいんですか?」
「第二校舎の東側二階奥に一つ部屋を確保しているから、放課後はそこで悩み相談を受けてくれればいい。特管時代に君が使ってたパソコンも置いてあるから、それで報告書とかはまとめてくれればいい。」
なんで俺が引き受けるかどうかもわからないのに俺のパソコンとか置いてんの?
ていうかそれ寮に運ぶ用に手配してたはずなんですけど?
「それと、相談用のチャットも開設するからそちらの回答も頼んだよ。」
もはやこの人の中では確定事項となっている。これ断る方がめんどくさいパターンだなぁ。まあ、今までに比べれば幾分楽そうな仕事だからそんな意地はって断らなくても良いかと自分を納得させておこう。
「はあ。わかりましたよ。でも一週間くらいはカリキュラムの選択とか身の回りの整理で忙しいんで、活動開始するのは早くても来週とかですからね。」
この学校では大学のように卒業までに必要な単位の約半分を自分で選択して受講することができる。
学力が足りていれば試験を受けることで特定の単位は受講せずとも免除されることもある。
「それでいい。ああ、もちろん報酬もあるよ。月末には相談件数と実績から査定して、校内通貨が君の携帯端末に支払われるから。」
校内通貨は校内の食堂や自販機だけでなく、寮と隣接しているショッピングモールにある雑貨や食料品店でも使えるのでこれは普通にありがたい。映画館とかあるし休日は困らないな。
「了解です。とりあえず今日はもう帰っていいですか?」
「ああ、詳細については書類で携帯端末に送信しておこう。」
礼をして理事長室を出た俺は教室に置きっぱなしの鞄を取りに行くと、ちょうど教室から出ていく生徒が見えた。遠目からだったからよくわからないが、女子生徒のようだった。
一瞬こっちを見たような…?