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エピローグ、には時期尚早。

 何故なんだ?


 そう。何が如何して現状に至ったのか全く以って理解に苦しむのだが、俺は今、馬上の人となり、知らない国の知らない町へと向かうため、エリスの街を旅立とうとしていた。


 心機一転、新たな気持ちで、ここ、活気あるラッセル王国の王都であるエリスの街へと俺が辿り着いたのは、今日の、朝と言うには少し遅いが昼と言うには微妙にまだ早い時刻である午前中ど真ん中の時間帯。

 それから、まだ、ほんの六時間ほどが経過しただけなのに、俺は、もう、この街を後にしようとしているのだった。


 何のフラグか、異世界での前世らしきものの記憶をさっくりと思い出し、気を取り直して賑やかな街の様子を堪能しながら偶然にも選んだ道程の途中にあった冒険者ギルドへと立ち寄ると、ちょっとした騒動に巻き込まれはしたが生まれて初めてのエルフ族少女との遭遇を得て、何やかんやで結果的にその少女とそれなりのお知り合いとなれた上に運にも恵まれ住み込みでの好条件な仕事も速攻でゲットし、晴れて新たな仕事場へと赴いて新生活をスタートさせる、その一歩手前の正に目前という状況まで迫っていたのだ。

 それなのに。何故だか今現在の俺は、衣装に着せられている感が半端なく満載で違和感ありありな素人初心者によるコスプレ状態となって着慣れない上質な服をその身に纏い、立派な鞍が取り付けられた毛並みの良い高級そうな騎馬にちょこんと乗せられ、前後を訓練の行き届いた熟練度が高い屈強な護衛の騎士さん達に囲まれて、さあ旅立とうという状態になっていた。


 うん。意味が分からない、よね。


 この事態の、直接の原因は、やはり、クラリッサお嬢様。

 いや~、まあ、もう見事なまでに、お姫様というよりは高貴なご令嬢という形容がピッタリな、美少女様だった。

 この国でも由緒ある家柄で格式高い高位貴族のご令嬢でありながら、細やかな気配りも出来る頭脳明晰なお嬢様だったので、多少なりともお近付きになれて本当に幸運だった、とは思う。


 けど。お貴族様と関わり合いになると碌な事がない、というのもまた真実。


 庶民の生活とは別次元で存在する国家規模での大人な事情とやらに、逃れる術など欠片もない状況に問答無用で追い込まれ、どばドバどば~と怒涛の勢いで押し流されてしまう、のは必定。

 と。現在進行形にて、我が身をもって体験中、なのだった。




「クリストファー殿。出発しても、宜しいでしょうか?」


 俺の前後を固めていた屈強な護衛の騎士さん達の中から一人、(いぶ)し銀な壮年の貫禄ある人物が、俺の傍へとゆっくり近付いて来たかと思うと、物腰も柔らかく声を掛けてくる。


 うん。あまりのキラキラしさに、目が痛い。

 これまでマジマジと見詰めた事がなかったので気付かなかったが...イケメン、なんだよな。

 知性が滲み出る甘いマスクに、引き締まった体躯と落ち着いた大人の雰囲気。で、しかも、バリバリのお貴族様。


 そう。従来であれば、俺の方から遠慮しつつ敬語で一歩引いて恐る恐る話し掛けるような相手なんだが...気さくな態度で接してくれる、よくよく出来た御仁だ。


「あ、はい。ハロルド殿」

「お乗り頂いた馬に、不都合など御座いませんか?」

「はい、大丈夫です。この子、大人しくて良い馬ですよね」

「それは良かった。ちょっとばかし強行軍になりますので、乗馬との相性が悪いと大変ですからな」

「ははははは...」


 いや~、乗馬の経験があって、良かった、よかった。

 まあ、あまり得意とは言えないのだが、冒険者ギルドからの集団クエストで魔物討伐に参加した際など、何度か馬にも乗っておいたのが功を奏した格好だ。

 うん。何事も、経験って奴は無駄にならないよね。


 俺の周囲で慌ただしく行き来しては人数が増えたり減ったりしている騎士さん達は、クラリッサお嬢様の父親であるロンズデール伯爵様お抱えの騎士団のメンバー、らしい。

 その集団の中でも頭一つ飛び抜けて貫禄と落ち着きのあるハロルド氏は、ハーフエルフで美幼女なフレデリカちゃんと一緒に迷子となっていた際に出会(でくわ)した時には、クラリッサお嬢様の護衛で殿(しんがり)を務めていた人物だ。

 つまりは。ハロルド氏は、高位貴族家の御当主からも信頼の厚い腕利きさん、という奴なのである。


 実際。ここぞという時にはフットワークも軽く暗躍し、緊急事態に際してもドッシリと構えて的確な指示を出す、超絶に出来る御仁なのだった。

 うん。俺とクラリッサお嬢様との挨拶レベルの短い和やかな会話から、核心に迫る情報を導き出して証拠の物品にまで辿り着き、あれよあれよという間に論証まで終えた上に既定路線として取り纏めて外堀と内堀を即座にガッツリと埋めてしまった、のだ。只者ではない。


 恐るべし、ハロルド氏。


 よくよく話を聴いてみると、俺が正に飛んで火にいる夏の虫な状態であったのは分かった。のだが、それにしても、お見事な采配だったと思う。

 このラッセル王国とは隣接しておらず少し距離がある上にキナ臭い状況へと陥っている友好国の重鎮であり、ロンズデール伯爵家とは古くから縁がある由緒は正しいが当主の高齢化と跡継ぎ不在の長期化で崩壊寸前の危機にある某貴族家から、長らく行方不明となっている血縁者を大至急で探して欲しいという協力要請があり、判別に必要な詳細情報がちょうど届いて精査も完了したタイミングだった、というお膳立ても十分な状況の影響も多分にあったのだろう。

 が、お嬢様の護衛として随行していた際に、偶然にも路地で出会って同行し孤児院で行動を共にしていた短時間で必要な情報を的確に取得して確信に至り、即座にフットワークも軽くご当主様へと御注進した上で承認も得てその後の段取りまで組み立て手配し、その日のうちに俺を依頼元へと連れて行こうとしているのだから、呆れるばかりだ。


 確かに、黒目黒髪という近隣ではある意味で目立つ特徴的な容姿、という好条件もあった。

 けども、俺自身も大した価値があるとは思っていなかった両親の形見である古ぼけたアクセサリーの一部が血筋を証明する物証になる、とかまでは、通常であれば気付かないと思うのだが...。


 兎にも角にも、まあ、何と言うか、そんな訳で。

 俺は今、燻し銀な壮年の騎士さんであるハロルド氏を隊長とする屈強な護衛さん達に囲まれて馬に乗り、今日やっと到着したばかりのエリスの街から旅立とうとしている。


 先程から眺めていると、この部隊には先行する別動隊との連絡員も含むようで人の出入りが激しく人数は頻繁に増減しているようなのだが、三人から五人程度の騎士さん達へと断続的に指示を飛ばしながら最終調整をしていたであろうハロルド氏が、一人の騎士から何やら報告を受けて満足そうな表情になるのが見えた。

 そして。姿勢を正し、俺の方へと視線を向けてくるハロルド氏。


「それでは、クリストファー殿。出発致しましょうか」

「承知しました。ご面倒をお掛けしますが、よろしくお願いします」

「いえ、こちらこそ、申し訳ない。強引に、当家の事情に巻き込んでしまった」

「ははは。まあ、これも何かのご縁でしょう」

「そうですな」

「ええ。それに、ラッセル王国やロンズデール伯爵家はまだ分かりませんが、クラリッサお嬢様については信じても良い、と思ってしまったので仕方がないです」

「左様で御座いますか。では、お嬢様の顔に泥を塗ることの無きよう、誠心誠意、務めさせて頂きます」

「ははは...どうか、お手柔らかに」

「クリストファー殿の身の安全は、ロンズデール伯爵家が責任を持って保障させて頂きます」

「そうですか。心強いですね」

「これから向かう先は、かなりキナ臭い情勢の場所であり、クリストファー殿には、その渦中に飛び込んで頂く事となりますが」

「...」

「危険な状況になった際には必ず、私が、責任を持ってお助けするとお約束を致しましょう」


 キリリと、真剣な表情を浮かべるハロルド氏。

 それを見た今の俺は、たぶん、悲壮な表情になっている、と思う。


「...やっぱり、危ないんだ」

「はい」

「運が物凄く良ければ平穏無事に過ごせる、といった可能性は?」

「残念ながら」

「そこまで?」

「はい」

「そうなんだ...」


 キリリと、真剣な表情を崩さないハロルド氏。

 俺には、もう、諦めの境地で開き直る、という選択肢しか残されていないようだった。


 とほほほほ。


「では。馬をかなり急かせますので、辛くなったら直ぐにお知らせください」

「分かりました」


 ハロルド氏が、すうっと指揮官の顔になる。

 そして。腹筋に力を入れ、周囲を睥睨しながら口を開く。


「出発!」


 その号令と共に、俺の乗馬も含めた騎馬の一群が、勢いよく走り出したのだった。




 またもや、今世での、これからの人生における目指すべき方向性についての再検討が必要となってしまった、俺。

 はてさて。俺の明日は、どっちだ?


 ここまで読んで下さり、ありがとうございました。


 面白かった、続きを読んでみたい、と少しでも感じて頂けましたら、

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 など、アクションして頂けると、作者が超元気になります。たぶん。


 引き続き、よろしくお願い致します。

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