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5.

 順調に周辺地域へと勢力圏を広げているラッセル王国の王都だけあって、ここエレンの街は、少しずつだが着実に周囲の平原を飲み込みながら広がっていっている、らしい。

 だから、新参者や人口増が続く庶民の暮らすエリアは、一般的に街の郊外と言える位置にあるケースが多くなるものなのだが、俺とハーフエルフの美幼女であるフレデリカちゃんは今、この街の中でもどちらかと言えば中心部に近い地区にある、年季は入っているが落ち着いた佇まいを見せる集合住宅の密集地域の中を、歩いていた。


 そう。最終的に、俺がフレデリカちゃんの発注した依頼を受ける、という結論で落ち着いたのだ。


 この街の冒険者ギルドの内部でもちょっとした議論が沸き起こったらしいのだが、超優秀な受付嬢であるシンシアさんに次々と論破された結果、フレデリカちゃんの孤児院が発注した求人票は受理され、その受注者として俺がギルドに承認されたのだった。

 そして、今。さっそく俺は、フレデリカちゃんの案内の元で、当面の間はこの街での俺の住居兼仕事場となる予定の孤児院へと、向かっている訳なのだが...。


「えっと、フレデリカちゃん?」

「...はい」


 そう。お約束、という奴だろうか。

 こちらを振り返って俺の顔を見るフレデリカちゃんは、大変申し訳なさそうな表情をしていた。


 うん。迷った、ね。


「迷子になった?」

「...はい。すいません」

「まあ、確かに。同じような造りの建物が、延々と続いているからね」

「...」

「俺も、訳が分からなくなってきた処だから、仕方がないと思う」

「...ごめんなさい」

「いやいや。建物と建物の間の路地も何故か、くねくねと曲がってばっかりだったしね」

「...」

「うん。これはもう、ここの住人でないと迷子にならずに歩くのは無理、だよね」


 という訳で、一旦、先導役を交代する事になった。


 俺は、シュンとするフレデリカちゃんと入れ替わるように、率先して歩きだす。

 とは言え。俺は、この街に詳しくない。

 というか、今日この街に着いたばかりで、何も知らない。


 ゆっくりと歩きながら、改めて周囲を見回す。


 さて、どっち、なんだろうか?

 ちょうど四辻に差し掛かったので、前後左右をキョロキョロと見る。と、グッドなタイミングで、ほんの少し離れただけの一筋向こうにある四つ角から、人が出て来るのが見えた。

 おお~、らっきい。


「すいませ~ん」


 と、反射的に、それなりに大きな声で、呼び掛けた。

 のだが...大失敗、だった。


 俺が声を掛けてしまったのは、どうやら小規模な団体さんの一員だったようなのだが...。


 先頭を歩いていたお姉さん、よくよく見ると騎士っぽい格好をした女性だった。

 続いて現れたのは、見るからに高貴な感じのご令嬢。

 その横、一歩下がった位置に、侍女さんっぽい感じの凛とした女性。

 更にその後ろには、明かに騎士だと分かる鋭利な雰囲気と物々しい装備の男性が二人。

 見るからに全員が身なりの良い豪華絢爛な美男美女の小集団だった。


 俺が声を掛けた瞬間、すっと流れるようにスラリとした女性騎士がご令嬢と俺との間に位置取って身構え、腰の剣に右手をかけて鋭い視線をこちらへと向ける。

 侍女さんらしき女性がピッタリとご令嬢に寄り添い、体格の良い男性騎士二人が一瞬で後方左右の守りをガッチリと隙なく固める。


 アッという間に、見事なまでに完璧な護衛としての仕事を全うしていた。


 あちゃ~。

 完璧に、ミスった。

 これは、声を掛けてはイケナイ団体さん、だった。


 お貴族様と関わったら、碌な事がないんだよなぁ。拙い。


 俺は、天を仰ぎたい気持ちをグッと堪えて、無理矢理に愛想笑いを浮かべる。


「何者だ!」

「申し訳ありません。少し道に迷いまして、何処か大通りにでられる方向でも聞こうかと...」

「動くな!」

「はい!」

「こちらが、気安く声を掛けて良いようなお方でないと、見て分からないのか!」

「本当に申し訳ありません。つい、条件反射で声を掛けてしまいました。ご容赦ください」

「意図しての行動ではない、と?」

「はい、滅相もないです」

「間違いないか?」

「道に迷って少し焦っていたので、よく見ずに出会った方にお声掛けしてしまいました。申し訳ありませんでした」

「ふんッ。口では何とでも...」

「エリカ。いい加減になさい」

「ハッ、お嬢様」


 釣り目気味で気が強そうにも見える華奢なご令嬢が、呆れた表情で、クールな外見に反して熱血な態度を見せている女性騎士を嗜める。


 うん。周囲の状況を注意深く見て的確な判断が下せる頭脳明晰で良く出来たお嬢様、だな。

 しかも。将来は絶世の美女間違いなしの、美人系の美少女。

 光沢があり加減によっては銀髪にも見える薄桃色の長い髪が、陽光でキラキラと輝いて、本当に綺麗で思わず見惚れてしまう。


 高位貴族の中には時折り、こんなお子様向けの御伽噺にでも出て来そうな人物が居るから、侮れないのだ。


 専属護衛であろう女性騎士が、警戒は解かず、立ち位置を微妙に変えて、お嬢様と俺たちが顔を合わせて会話できるようお嬢様の視界を確保する。

 間違いなく高貴な生まれであろうお嬢様が、ニッコリと微笑み、俺とフレデリカちゃんに話し掛ける。


「エリカが、喧嘩腰で、ごめんなさいね」

「いえ。こちらこそ、申し訳ありません」

「お嬢さんにも、恐い思い話させてごめんなさい」

「...あ。クラリッサ様」


 フレデリカちゃんとお嬢様が、一瞬、見詰め合う。


「あら。第三教区孤児院の...」


 花も綻ぶような優しい微笑みを浮かべたクラリッサお嬢様と、はにかみ頬を染める美形なハープエルフの美幼女であるフレデリカちゃんとの間に、柔らかてほっこりした空気が漂う。

 俺は、そんな一幅の絵画のような光景を、思わず息を潜めたままで傍から静かに傍観者として鑑賞するのだった。


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