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2.

 目の前に、丁寧に繕われてはいるが生地の傷んだ箇所が彼方此方と目に付く着古された感が多々ある質素な服を纏った、可憐な美少女。

 いや。美幼女、かな?

 たぶん、十二~三歳くらいの、五年後には確実に絶世の美女となっていること間違いなしな、綺麗な女の子。


 相対するは、冒険者ギルドの出入口の扉を背に怒りの形相で仁王立ちする、筋肉ムキムキな厳つい如何にも冒険者といった感じのオッサン。


 うん、意味が分からない。


 けど。取り敢えず、俺は、目の前で目尻に涙を湛えて茫然とする少女を、助け起こす事にした。

 よっこらしょ、と。


「大丈夫かい?」

「は、はい...」


 うん、可愛いよね。


 何故にあのオッサンは、こんなに可愛い女の子を邪険に扱うのだろう。

 などと、不思議に思いつつ、衣服に付いた砂埃など払いながら少女を見ると...少し、耳が長めで尖っている、のかなぁ。


「おい、お前。何者だ?」

「あ、はい。今日からこの街でお世話になる事となった新参者です、先輩!」

「そ、そうか」

「はい、そうなんです。どうぞ、よろしくお願いします」

「お、おう。よろしく頼むぞ」


 威圧感が半端なかったガチムチな冒険者であろうオッサンの雰囲気が、少し和む。


 見た目は怖いけど意外と面倒見の良い御仁、のようだと一安心。

 そう。どの町の冒険者ギルドにも、この手のタイプのおじさんキャラは割と居るものなのだ。

 心もちホッコリとしながらも、勢いで、出会い頭に遭遇した目前のトラブルの収拾を図ることにする。


「しかし。流石、美男美女が集うと言われている王国の首都、ですよね~」

「...」

「この子、物凄く可愛い、ですね」

「お、おいおい、お前。幼女趣味か?」


 思わず、といった感じで、軽く身を引くオッサン。

 うん。ノリも良いね。


「ははははは。そんな訳、無いじゃないですか」

「そ、そうか。そうだよな」

「はい。まあ、年の差が二~三歳なら、異常性癖とまではならないとは思いますが」

「お、おい」

「大丈夫ですよ~。俺は、もう少し大人っぽい女性の方が好みなので」

「そ、それなら、問題ない、な?」

「はい」

「なら、良しとしよう」

「ありがとうございます。けど、この子なんかは、五年も経てば絶世の美女でしょうね~」


 厳つい顔を顰めながらも、ホッと胸を撫で下ろしているオッサン。

 俺は、そんな能天気な台詞を口にしながら、そっと、オッサンの傍まで近付いて。


「あの。この街では、人種差別って重罪、ですよね?」


 と。オッサンの耳元で、ボソリ、と呟いてみた。


 ギョッとして、心なしか急速に顔色が悪くなるオッサン。

 俺は、そんなオッサンへと、畳み掛けるようにして更に小声で続ける。


「俺、さっき、移住の申請をする際に、衛兵さんから色々と説明されたんですが」

「お、おう」

「この街で生活するにあたって署名を求められた規約の中に、確か、そんな条項があったと思うんですよ」

「そ、そうか」

「はい。この街、規約を破ると厳しく取り締まられる、って聞いたんですけど、そうなんですか?」

「...あ、ああ、そうだ」


 スッと、真面目な表情になるオッサン。


「お前も、十分に気を付けろよ」


 ポツリと、そう呟いたかと思うと。

 筋肉ムキムキで厳ついオッサンは、俺の背中をバシッとフレンドリーに力強く叩いてから、大股でノッシノシと貫禄満点の姿勢と足取りで歩き、大通りの雑踏の中へと消えて行ったのだった。


 俺は、そんなオッサンを見送ってから、さてとばかりに、先刻(さっき)まで俺が立っていた場所に心細げに佇む可愛い女の子の方を、振り返る。

 そして。

 ニッコリと笑って、たぶんハーフエルフであろう少女に、声を掛けた。


「お待たせして、ごめんね」

「...いえ」

「冒険者ギルドへは、依頼を出しに来たのかな?」

「...はい」

「そうなんだ。じゃあ、中に入ろうか」

「...」

「えっと...ああ、そうだ。喉が渇いたよね?」

「...」

「同じ冒険者として、迷惑を掛けたお詫びに、何か、飲み物をご馳走させて貰えないかな?」

「いえ、そんな...」

「ああ、別に気にしなくても良いよ。俺も、丁度、喉が渇いた処だったんだ」

「...はあ」

「だから、申し訳ないけど、少し付き合ってくれないかな?」

「...」

「勿論、君の依頼がギルドにきちんと受け付けられるよう、お手伝いをさせて貰うよ」

「...はい。分かりました」

「ありがとう。じゃあ、中へどうぞ」


 俺は、冒険者ギルドの年季が入った風格ある建物の出入口に備え付けられた武骨な扉を押し開け、その状態を維持したまま、少女が中へと入るのを静かに待つのだった。


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