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13.

 楽しい時間は、アッという間に過ぎていく。


 突然の先祖返だと言われているオフィーリアさんは、エルフの外見が色濃くでている尖った長い耳と華奢な体型(シルエット)が特徴的な、普段は控えめで物静かな性格の美少女だ。

 そんなオフィーリアさんとの、太陽光が乱反射してキラキラな水色がかった薄緑色の光沢ある癖のない銀髪を秘かに()でながらの楽しいお話し合いの時間は、気が付けば終わっていて、遺憾ながら現在の俺の視界には彼女の可憐な姿が映っていない。


 鬱蒼とした不気味な雰囲気を醸し出す魔の森の樹々が、何故だか(まば)らで、辛うじて道と言えなくもない景観が続く場所を、俺たち三人は、一団となって移動しながら探索中だった。


 先頭は、護衛役である壮年の凄腕イケおじ剣士。真ん中が俺で、殿(しんがり)がオフィーリアさん。


 万全の態勢、だった。

 うん。若干、というよりは、相当に、俺のお荷物感が濃厚に漂う。

 そうな気がしない訳でもないのだが、適材適所であり、現状が十二分に考慮されたベストな対応であることは、間違いない。


 個人的には、可憐なオフィーリアさんの後ろ姿を視界に捉えられていない現状は甚だ不本意ではあったが、盾役にもなる先頭に彼女を立たせるのは鬼畜の所業だし、建前上は指揮官である俺が殿を務める訳にもいかないので、致し方なかった。

 そう。この場には三人しか居ないのだから、仕方がない、のだ。


 など、と。お馬鹿なことを頭の片隅で考えながらも、慎重に、周囲の気配や様子を探りながら、魔の森の探索を続けていた訳だが...。


「クリストファーさま」

「ああ」

「これ以上は、止めておいた方が良ろしいかと」

「そうだな。この先は、かなり暗くなっている、よな」

「はい。私だけ単騎で少し先まで見に行ってきても良いのですが...」

「いや、止めておこう。オフィーリアさんも、それで良いよね?」

「はい」

「三名での探索自体が、少し無理をしているんだ。これ以上は、無謀だな」

「「...」」

「で、では。ここで引き返そうか」

「「はっ」」


 その場で騎馬を方向転換させ、元来た道へと引き返し、少し戻ってから、何故だか一定の間隔で遭遇する少し開けた場所で隊列を組み直し、帰路に就く。

 先頭に護衛役の剣士、真ん中に俺、殿(しんがり)を万能なオフィーリアさん。


 うん。最適化され、適材適所な配置が為された、探索の隊列が維持されている。

 完璧、だ。


 オフィーリアさんの姿を見れないのは、重ね重ね遺憾ではあるが...。

 って、もう良いか。ははははは。


 あのまま進んでいれば、何となく、大河の畔にも辿り着きそうな気はしたのだが、如何せん、魔の森の闇が深い箇所を短時間であっても通ることを容易に許容できる用途ではないので、何方(どちら)にせよ、このルートは採用不可なのだ。

 残念だ、本当に。


 とはいえ。知っていれば何かの役に立つこともあるだろうから、たぶん現在はこちらに向かって移動中であろう追加の人員が到着して、時間が許すようであれば、改めての探索を検討しよう。

 まあ、十中八九、そんな時間的な余裕はない、とは思うけど...。


 俺は、この後の日程の遣り繰りについて、漠然と考え込みながら、無意識に馬を並足で歩かせていて...気付くのが遅れた!


 えっ?

 えええ、え~っ?!


 護衛のおじさん剣士とオフィーリアさんに、緊張が走る。

 音もなく馬から飛び降り、素早く馬を宥め、気配を完全に消す。


 一瞬だけ、俺の挙動に遅延があった。が、取り敢えずは、セーフ。な、筈だ。


「...」


 昨晩の、城壁の外で魔物から馬や不慣れな同行者を上手く隠せた隠密系の魔法を、オフェーリアさんが音声を漏らさず発動。

 うん、良い判断だと思う。流石だ。

 俺たちは息を潜め、その集団が通り過ぎるまでこの場に隠れてやり過ごそう、と試みる。


 しかし。この集団は...軍隊、だな。

 しかも。何処からどう見ても、帝国の正規兵。

 その上、更に言えば。行軍の練度をサクッと見た感じ、相当に訓練された精鋭部隊だ。


 う~ん。


 何故にこんな場所で作戦行動をしてるのか、といった疑問も大いにあるが、この状況で遭遇して見つかってしまった場合の俺たちの待遇って、ヤバい奴、だよなぁ。

 いや、まあ。王国と帝国は、公式には交戦などしている訳では無いから、穏便に、という線が全くないとは言えないか。

 けど、まあ。面倒な事態に陥ることだけは、間違いない。


 とほほほほ。困った、な。

 どうか、見つかりませんように。


 俺たちは、息を潜め、帝国の遊撃部隊らしき一団が過ぎ去るのを待つ。

 唯ひたすらに、息を殺して気配を消し、魔の森の樹々と一体化した心情で無の境地になり、時間が過ぎ去るのを待ち続ける。


 唯々、息を潜めて、只管に待つ。

 のだが...長い!


 おいおい、いったい、どれだけの規模で魔の森の中を行軍しているんだ?

 長い、ながい、永すぎるよ。


 確かに。騎馬が二列縦隊で進んでいるのだから、一個中隊であっても移動に結構な時間が掛かるであろう事など想像に(かた)くない。のだが、これ、いつまで続くんだ?


 延々と、同じような短い映像の繰り返しが続く、眠気を誘うための羊による行進を見ているような状況が、一向に終わらない。

 唯でさえ規律の厳しい体育会系のノリが標準である帝国の選ばれた練度の高い精鋭部隊だけあって、姿勢も正しく、速度も一定、装備もきっちりと正しく身に付けている。

 ので。次々と過ぎ去っていく兵と兵の差異が、難易度の高い間違え探しと化していた。


 いかん、拙い、ヤバイぞ。猛烈な、眠気が襲ってきた。


 バシッと勢いよく両手で両頬を挟んで眠気を飛ばしたい処だが、今は、状況がそれを許さない。

 というか、今この瞬間に俺が大きな物音などたてると、これまで頑張って隠れていた甲斐が全くなくなってしまう。

 だから。我慢、ガマン。兎に角、耐えるのだ。


 羊が一匹、羊が二匹...ではなくて、淡々と一定のリズムで繰り返される騎馬の行軍。

 警戒のため視界にその様子を収めない訳にもいかない俺は、思考に霞がかかり夢の国へと引き込まれそうに為りながらも、必死になって己が意識を引き留めていた。


 と。

 必死で気力を振り絞って色々なモノと戦っている俺の目の前が、唐突に、鮮やかな色彩へと染まる。


 華やかな女性が、二人。

 周囲と同じくキッチリと軍服に身を包み、姿勢も正しく、規則正しく一定の速度で整然と騎馬を進める、対称的な二人の女性の姿を、俺の瞳が捉えている。


 一人は、スラリと背の高い、大人な女性。

 超絶美形で、高貴な雰囲気を纏う、これぞエルフ、といった外見を持つガチの強者(つわもの)


 もう一人は、おデコの綺麗な美人さん。


 キラキラでサラサラな茶髪のストレートヘアを肩までの長さでスッパリと切り、前髪を左右に流して奇麗な額を見せる、知的な雰囲気の小柄な美少女。

 ただし、まだ、幼い。

 たぶん、俺よりも二~三歳は若い、知的な面差しのお子様なお嬢様。

 だけど、既に、侮り難い気品を、そこはかとなく醸し出している。

 そう。将来が物凄く楽しみな、小さな才女の卵さん。


 そんな、どちらも近寄り難いオーラを放つ二人が、顔を寄せ合い、朗らかに微笑んで視線を合わせる光景が、俺の視界に飛び込んで来た。

 と、同時に。

 俺の頭の中で雷鳴が轟き、一枚の絵画が、圧倒的な存在感で俺の脳裡へと焼き付く。


 鮮明かつ強烈に、どアップで俺の脳裡に現れた、二人の女性が微笑み合う絵画。


 いや。アートと言うよりは、イラスト。

 そう。ラノベの本には付きものの、アニメ調の絵柄で描かれた美麗な挿絵、だ。

 前世でお気に入りだった某ファンタジー小説の一コマの、美麗なタッチで描かれた一枚のイラスト。

 そんなビジュアルが、今世になってから一度も思い出すことが無かったその小説のストーリーと共に、怒涛の勢いで、俺の記憶の表層へと急速に浮上して来る。


 ゲゲゲ、ぐえ。


 その衝撃(インパクト)に、思わず、頭を抱えて(うずくま)る俺。

 と、驚愕の表情でそんな俺を振り返り見る、おじさん剣士とオフィーリアさん。

 と、鋭い視線で俺たちの潜んでいた場所を凝視する、強者エルフ美女と美麗おデコ美少女。


 ヤバイ、シマツタ、見つかった。


 こうして。俺たち三人は、魔の森で秘かに作戦行動中であった帝国軍の精鋭部隊に、アッという間に退路を塞がれ、完全に包囲されてしまったのであった。


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