11.
雑然とした、かなり無理して詰め込んだ感のある建物が続く、街並み。
そんな風景を興味深く眺めながら、俺は、見た目は瓜二つなんだが見分けるのは割りと簡単な双子の姉妹の案内で、この街の孤児院へと向かっていた。
ちなみに。
この姉妹と一緒に魔物の襲撃から救出した後でこの街の城壁の外で一晩を過ごす事となった母娘たちの方は、前の街からエレンの街へと護衛を付けて送り込んだ二世帯の家族と同様に、我が商会の新たな従業員候補およびその家族として移住することを決断してくれたので、その準備の真っ只中な筈、だ。
まあ、聞くともなしに事情を聞いてみれば、同情するかどうかは別としても、かなり悲惨な状況ではあったので、そのまま放り出すことなど俺には出来なかったのだ。
非常識で強引な再婚詐欺にあって亡夫の財産を全て巻き上げられ、気が付いたら何もない荒野のド真ん中で置き去りにされていて、頼れる身寄りも全くいない孤立無援な境遇だ、といった話を耳にしてしまったが為に、ついつい条件反射の如くお節介を焼いてしまった、と言えなくもない。
けども。
俺の心の平穏のため、人手不足の解消に向けて、我が商会は母娘だけの家庭や孤児の女子も沢山いるから相談も出来るし安心だよ、と親身になって丁寧に利点などアピールし勧誘した成果だ、と思い込んでおきたいと思う。
と、まあ、それはさておき。
俺は、今、現在進行形で、もう一組の新たなお知り合いである二人組の少女たちのお困りごとを解決すべく移動中、であったりする。
そう。この街の孤児院から巣立ち、駆け出しの冒険者として生計を立てる双子の少女、アリスとエリスの二人が抱える事情を、これまた成り行きで解決する破目になってしまったのだった。
俺の前を、仲良く並んで歩く、見た目が瓜二つな二人の少女。
お揃いのショートカットにした茶髪をポニーテールにしている、双子の女の子。
そんな二人を判別する際のポイントとなる相違点は、瞳の色と髪を括っているリボンの色、だった。
薄紅色の綺麗な瞳をした姉のアリスは、濃紺のリボン。
濃紺でキラキラな瞳をした妹のエリスは、薄紅色のリボン。
この相違点について口頭で説明を受けただけだと、混乱してしまいそうになる。
が。リボンと言うよりはスカーフと言っても良いくらいに大きな目立つ布で髪を括っているので、視覚的には違いが際立っている。
ので。少し見慣れてくると、直感的に見分けられるようになるのだった。
うん。双子って、面白いよね。
瓜二つに見えたり、ほぼ同年代の姉妹に見えたり、全くの他人に見えたり。
いや、まあ。流石に、人並みの見る目があれば、赤の他人には見えないか...ははははは。
と、まあ、可愛らしい双子の姉妹の元気な後ろ姿に癒されながら、俺は、魔物対策を主要な用途とする厳重な城壁に囲まれているが為に周囲への拡張が不可となり密集度を上げる方向へと発展した街の中を、少し早足になりつつも、物珍しく眺めながら観光気分で歩いているのだった。
孤児院というと、ついつい、古ぼけた教会に寄り添う田舎の小学校みたいな建物、を想像してしまう。
のだが...これは、予想外と言うか、想定の埒外とでも言おうか、その、なかなかに意表を突いた斬新な物体、だった。
うん。
何ともこれは、凄い。
壮観な眺め、とでも言おうか、圧倒的なスケールで目前に迫り来る、とでも表現するべきか...。
たぶん。俺が思うに、やっぱり、この街の成り立ちというか特徴が色濃く現れた、この街に最適化され進化し続けた結果としての最終形態、がコレだったのだろう。
狭くて、危険で、豊かとは言えない。
城壁に囲まれて限られたスペースしか確保できない、狭い街。
周囲が魔物だらけで、危険な環境。
農地や漁場や狩場にも恵まれない、豊かさとは縁遠い境遇。
故に、孤児となる子供もまた多い。
が。支え合いが日常となり、寄り添いながらも逞しく子供たちが活きる場所。
それが、この街の孤児院、というモノのようだった。
上へ上へと増築に増築を重ねた跡が垣間見える、密集形態の集合住宅。
小さな教会を取り囲むかのように聳え立つ、今にも崩れ落ちそうな高層の木造建築。
イメージは、展開されたハチの巣。
ハチの巣の内部中央から、周囲の巣穴を眺めるかのような印象を与える建物群。
カーテンなどない小さな窓から見えるのは、三段ベッドが詰め込まれた狭い部屋。
軽く見上げると、そんな光景が、ほぼ三百六十度で前後左右に展開されている。
いや、まあ、圧巻、の一言に尽きる。
ほえ~、凄いねえ。
と、ポカンと呆けて仰け反り気味に唯々見上げる、俺だった。
けど。日頃からこの光景に見慣れている二人には、当然、感嘆する箇所など欠片もないようで、通常運転。
目的地の真ん前に到着した仲良し姉妹は、二人揃って振り返り、弾丸トークの口火を切った。
「「クリスさま!」」
「お、おう」
「人数に、制限はありますか?」
「年齢に条件は?」
「えっと...」
「女の子で、良いんですよね?」
「男の子はダメ?」
「それは...」
「ねえねえ、アリス。冒険者にあまり向いてない子達を、取り敢えず集めちゃおうか」
「そうだね、エリス。集めちゃおう」
「...」
「うん、うん、そうだね」
「それが良いね」
「...」
「「クリスさま、行ってきます!」」
と、元気いっぱい、双子の姉妹が走り去って行く。
そんな二人の少女を、俺とオフィーリアさんは、成す術もなく唯々黙って見送るのだった。
年季の入った聳え立つような複数の木造高層建築に取り囲まれた小さな広場の中央に鎮座する質素な教会の前にて、俺とオフィーリアさんは二人で、一応は冒険者として生計を立てているらしい元気な双子姉妹が戻って来るのを待ちながら、なるべく自然体を心掛けつつ、見慣れぬ珍しい光景を興味深く観察し続けるのであった。