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9.

 誰が誰の馬で二人乗りするか、の組み合わせ決定に少しばかり揉めはしたが、俺たちは再び、馬上の人となって先を急いでいた。


 撃退した魔物は、当然ながら、そのまま放置する訳にもいかないので、手早く大急ぎで処理をした。

 魔物に襲われていた母娘と姉妹は、幸運にも、かすり傷が少しある程度の負傷で済んでいたので、簡単に処置を施した。


 つまりは、ほぼ無駄な時間の浪費などせず迅速に対処し、直ぐさま出発した訳だが...。


「オフィーリアさん。どんな感じ、だろうか?」

「...」

「やっぱり、難しいそう?」

「...はい。荒野もしくは城壁の外での野営を、想定しておかれた方が、宜しいかと」

「そっかぁ...」


 初めて通る街道ではあるし、初めて訪れる街でもあるので、断定は出来ない。

 が、しかし。事前に入手していた情報とこれまでの移動で培ってきた感覚から類推すると、まず間違いなく、目的の街が閉門してしまう時刻までに到着するのは難しい。

 そう言わざるを得ない、状況なのだ。


 うん。此処に来て、前の街での出立の大幅な遅れが、祟っている。

 とほほほほ。


 優秀な副官でもあるオフィーリアさんは、いつも通り、パッと見は無表情をキープしている。

 が、眉間に皺が微かに寄っている、ようにも見えるので、たぶん、猛烈な勢いで思考を加速して今後の取るべき対処の候補を真剣に吟味中、だと思う。


 因みに。

 新たな同行者さん達の方は如何(どう)だろうか、とそっと様子を窺ってみると、母娘の方は何も分かっていなさそうな緩い雰囲気だが、姉妹の方は迫り来る危機に気付いていて相当に焦っているようだ。


 はてさて、如何したものだろうか。


 いや、まあ。ある意味、選択肢など無きに等しい状況、ではある。

 この近辺のように魔物の出没が多い地域では、日が暮れた後の時間帯に入ると危険の度合いが大幅に跳ね上がったりするので、少しでも確実に安全を確保するため、速やかな決断と行動が求められるのだ。

 つまり。僅かな可能性に賭け、ズルズルと決断を先延ばしにしているとドツボに嵌るという...。


「オフィーリアさん、申し訳ない」

「...」

「魔物からの襲撃を避けられそうな野営地の候補が見えたら、教えて欲しい」

「承知、致しました」

「まあ。難しいだろう、とは思うけど、ね」

「...」

「最悪は、街の城壁を背後に、バリケードを築く、しかないかなぁ」


 潰さないギリギリを見極めつつ騎馬を駆けさせながらも、美麗なオフィーリアさんの横顔にコッソリと身惚れる、俺。


 うん。意外と冷静、だな。

 まあ、焦っても仕方がない、のは確かだけど。


 六騎中の四騎は二人乗りという悪条件でありながらも先を急ぎ、結構なスピードを出して駆けているので、下手に喋ると舌を噛む。

 つまりは、必然的に、会話は少し不自然な箇所で言葉をブチ切ることなり、互いの顔色を窺うのも容易ではない。

 けど、そんな状況下であってもクールな美少女との会話を楽しめているとは、俺の乗馬の技術も進歩したものだ。と、感慨深いものがあった。


 いや、いや。そうじゃない。


 今、現在進行形での最優先な課題は、このまま余程の幸運な出来事でも起こらない限り、俺たちが本日の宿泊を予定していた街から締め出されてしまう、という事態を如何にして解決するか、だ。

 というか、解決するのは現実的に難しそうなので、どのように対処して明日の朝日を無事に拝むか、という命題の解を考える必要がある。


 まずは、ある程度は防御力の見込める野営地を見付けなければ為らない訳だが、これは運次第、かな。

 地の利もない初めて訪れた見知らぬ土地で、迷いもなく的確な場所に直行する事など不可能なので、周囲の様子を窺いながら唯只管に前へ前へと進むしかない。

 全方位を警戒して野宿をするよりは背後だけでも街を囲む城壁で安全を確保できた方が良い、といった判断の元で、取り敢えず、当初から予定していた通りのルートで目的の街へと向かっている。

 ただし。それは最悪の事態、という想定であり、出来れば、避難所的な小さな砦とか洞窟などを見付けて利用したいところだ。

 そう。この近辺は魔物の出没が多い地域として知れ渡っている地域なので、当然、何らかの理由により城壁で囲まれた街の中に逃げ込めなかった場合のため、魔物の襲撃から身を守り立て籠もって時間を稼げるような施設の一つや二つ、ある筈なのだ。たぶん。


 ある筈なのだが、同行者となった地元民である母娘と姉妹は、その辺りの知識があるかどうか微妙だった。

 俺の前で俺が支えて何とか馬にしがみ付いている幼い娘は論外だし、オフィーリアさんの前で同じく必死に馬にしがみ付いている母親の方も期待薄。

 俺の後ろに続く護衛二人の馬に同乗している姉妹の方も、出発前に軽く会話した感じでは街から然程は離れずに細々と普段は活動しているらしく、直ぐに思い出せるような心当たりは無いようだった。


 と、いう訳で。何気に、ピンチだ。


 野宿した場合の防衛戦力としても、母娘は埒外で、姉妹の方は微妙。

 先程の熊っぽい大型の魔物との戦闘では、姉妹の片割れ、薄紅色の瞳をした妹の方が、派手な火球の魔法を繰り出してはいたが、制御が不安定な上に一発放つと魔力切れで意識が飛ぶ、という話だったので最悪なケースの最後の手段にしかなり得ないし、姉妹それぞれの個人としての戦闘力は得物の短剣をそれなりに扱える程度でしかない、らしい。


 はっはっはっはは。


 オフィーリアさんの対魔物の戦闘力はピカ一だし、元は俺の護衛としてロンズデール伯爵家お抱え騎士団の団長さんであるハロルドさんに鍛えられた過去を持つ他のメンバー四人も、それ相応の実力を有している。

 が、しかし。残念ながら、俺の戦闘能力は保護した姉妹と同レベルなので、五名の腕利きが五名の弱者を護衛する形となるため、護衛する側の負担がどうしても大きくなってしまう。


 俺は、唯々、何事もなく無事に明日の朝日が拝めますように、と祈るしかなかった。


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