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8.

大変お待たせ致しました。恐縮です。掲載を再開します。

 ラッセル王国に隣接する、ラッセル王国とは同盟国のような立ち位置を取っている自由都市連合に属する小規模な王国や公国や共和国などの領土に点在する、いくつかの主要都市。

 そんな街をいくつか巡り、表敬訪問やら通商問題が絡む外交活動など各種の公式行事を消化してから、エリスの街へと戻る。


 それは、決して容易な仕事ではないが、苦難の連続といった苦行ではない、筈なのだ。

 だから。俺たちが請け負った露払い的なその事前準備の一環である今回の旅も、それ程は難易度が高くない比較的ゆったりとした諸国漫遊といった(おもむき)のものになる、と見込んでいた。


 勿論、魔物が跋扈するこの世界における旅は、一般的には、ある程度の危険も伴う。

 だが、常に危機に直面した綱渡り状態が続くといった代物(しろもの)ではなく、油断していると突発的に厄災に遭遇する可能性がある、といった程度のものなのだ。

 実際、俺たちが主要な街道を移動している間には、特にこれといったトラブルも無かった。

 ただ、少し寂れた裏道的な街道に進路を取った際に、数騎で一群となって進む小集団を形成してノンビリと並足で馬を進めていたが為か、散発的に脅威度の低い魔物に襲われる事はあった。

 まあ、概ね、然したる問題もなく自力で対処できる、ちょっと面倒な厄介事、といった感じの出来事に分類されるレベルの些事でしかないのだが...。


 しかしながら、残念なことに、実際には、呑気に旅を楽しめるような状況には為らなかった。

 そう。いつの間にやら俺にトラブル体質が染みついてしまったのか、最初に訪れたこの国で早速に、人的なトラブルという奴に遭遇してしまったから。


 いやはや、困ったものだ。


 とはいえ。その想定外の突発的な出来事も、何とか無事に収めることが出来たので、良しとすべきだろう。

 先程の街で当初の予定通りに謁見した大公閣下は、この国の施政者における全般的な特徴なのかと思ってしまうくらいに胡散臭い雰囲気がそこはかとなく漂う人物であった。のだが、今回の事態へと至った経緯など俺から簡単にご説明すると、特に難癖など付けられる事もなく、素直に此方の主張を受け入れて下さった。

 結果的に、拘束して連れて来た悪徳領主による横暴な行為への当方の反撃は、正当防衛と認定。同行してきた若い母親と幼い娘に元気な少女と幼女と幼児の二世帯で計五名の移住も、快諾を得た。

 更に言えば、今回の騒動における被害者でもある母娘を含む移住希望者の五名が、エリスの街へと移動するための手段について、最終的にはこちらから辞退はしたものの、優遇を申し出て下さりさえしたのだった。

 その上に、彼女たちをエリスの街へ送り込むに際して俺の護衛から人員を割いた影響で、俺のこの街への滞在期間が当初予定よりも少し長くなる事が分かると、都市の見学や公国の首脳陣との歓談や商談などの機会を新たに設けるなど、色々と便宜を図って下さった。


 うん。至れり尽くせり、だね。


 人は外見で判断してはいけない、と反省すべきなのか、ラッセル王国もしくはロンズデール伯爵家のご威光に感謝すべきか、判断に迷いはするが...。

 いや、いや。それよりも、陰に日向にフル稼働した、優秀な副官であるオフィーリアさんの頑張りにこそ、感謝すべきだろう。

 うん。この街で大きなトラブルもなく過ごせたのは、考えが足りない上に腹芸やら根回しやらが不得手な俺に成り代わり大車輪の活躍をしてくれたオフィーリアさんのお陰、と言っても過言ではない、と思う。


 と、まあ。そんな訳で、今回の旅程は初っ端から遅れ気味となってしまった訳だが、ある程度は余裕を持った予定を立てておいた事もあり、問題はない。

 ただ。本日の出発に際して、何やかんやと引き留められて出発が大幅に遅れてしまったのには、正直なところ困った。

 何故なら、俺たちが向かっている次の街は、近隣にある鬱蒼と樹木の生茂った広大な森林の影響もあってか魔物の出没が多い地域であるため、頑強な城壁で厳重に囲まれている上に夜間は門が完全に閉鎖されてしまうので、必ず閉門の時刻までには到着しておく必要があり、遅延は許されないから...。


 う~ん。順調に移動すれば、門が閉鎖される時間にはギリギリ間に合う感じ、かなぁ。


 ロンズデール伯爵家のご令嬢であるクラリッサお嬢様から貸与されたラッセル王国とその周辺部の描かれた地図を見る限りでは、本日の目的地までの道程(みちのり)は、残りあと半分。

 ここから先は、魔物との遭遇率が少し高めの地域になるので、もう少し余裕が欲しいところではあるが、まあ何とか間に合うだろう。

 そう。運悪く、魔物の大集団に囲まれてしまったり、何らかのトラブルに巻き込まれたりしない限りは...。




 エリスの街へと我が商会の新たな従業員候補とその家族である五名を送り届けた二人と入れ替わりで交代要員として新たに三人のメンバーが加わり、俺たちは今、計六人の小集団となって騎馬を駆り、多少の焦りから心持ち早足になりながらも平然を装い街道を進んでいた。


 小高い丘を越えると、街道がなだらかな下り坂となり、前方の視界が開ける。


 その瞬間。俺の直ぐ前を先行していた二人が、馬に鞭を入れ猛然と加速。

 続いて、俺の後方から一人、それに追随すべく騎馬を急加速させ、アッという間に先行する。

 出遅れた俺も、騎乗する馬の速度を駆け足へと上げ、その後へと続く。

 凛々しい表情を更に引き締めたオフィーリアさんは、俺の左側すぐ横を並走。

 残っていたもう一人は、流れるように俺の右前方へと移動し、周囲を警戒しながら俺と速度を合わせて護衛の態勢を取り、明らかに人側が防戦一方で劣勢となっていっている前方の魔物襲撃の現場へと急行する。


 俺たちの前方では、二人の良く似た風貌の少女が並んで大型の熊のような魔物と対峙し、幼い娘を抱えた若い母親を背後に庇って、奮闘していた。

 ただし。少女たちの得物は、短剣が一本ずつ。

 明らかに、目の前に立ち塞がっている魔物を排除するには、役不足な武器、だ。


 しかも、魔物と対峙する少女たちは二人とも、完全に腰が引けており、よく見ると膝が震えているような...。


 これは、拙い。

 相手が弱気になっていると気付けば、魔物も容赦はしない。

 先行した俺の護衛三人が、応援に駆け付けるまで、少女たちは持ち(こた)えられるか?


 思ったよりも、俺たちと少女たちとの間には、距離がある。

 最初にほぼ同時に気付き先行した二人が、襲撃現場に辿り着くまで、あと少し。


 と認識し、ほんの少し俺の気が緩んだ瞬間。

 少女たちと睨み合っていた魔物が突然、後ろ足で立ち上がり、力業での攻撃を繰り出そうと...。


 ドォ~ん。


 と爆音がして、魔物の鼻先で、大きな火球が生じて派手に弾ける。

 爆発の勢いで、魔物が、たたらを踏んで棒立ちに。

 対峙していた少女の片割れが、ふらりと気を失って倒れかけ、もう一人の少女が、直ぐさま支えて二人でズルズルと後退。

 そこに。駆け付けた三人が、怒涛の勢いで乱入。

 そして。あっという間に、見事な連係で魔物を(ほふ)ったのだった。


 やれやれ、良かった。よかった。


 ひと()ず、胸を撫で下ろす。

 けど。こんな場所での、幼い娘と若い母親に冒険者見習いっぽい成人前の少女が二人、といった組み合わせとの遭遇に、何やら込み入った事情がありそうだなぁ、と思い至って肩を落とす俺なのだった。


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