閑話 転生幼女
広々とした開放的な部屋の片隅、大きな縦長の鏡をいくつも円形に並べて内向けに立てられた空間の、その中心にあたる位置で、見方によっては煽情的とも言えるポーズで腰をクネクネさせている女の子。
「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふ」
ご満悦の表情を浮かべ、自身の姿を様々な角度から、何度も何度も繰り返し眺め続けている。
「ふふん。この夜着で迫れば、アルフレッド様もイチコロじゃな」
ある意味、平和な光景だった。
その服装に対する寸評は脇に置いておくとしても、将来が大変に楽しみな容姿をした幼女が、鏡に映る自身の姿を見て満足そうに微笑む。
そして。
その周囲では、自分の世界に浸る美幼女の不審な挙動の一切を無視し、仕事が出来る女なオーラを無意識に放出する大人の女性たちが数名、テキパキと美幼女が纏う衣装のチェックと微調整を続けている。
「また、若様が、新たに二世帯ほど、若い母娘と幼い妹弟を連れた成人したての女の子を、送り込んで来られたそうよ」
「あら、まあ。若様も、相変わらず、なのね」
「そうよね。私たちみたいな境遇の者にとっては、有難い話なんだけど...」
「ここまで大所帯になると、維持するのも大変なんでしょうね。大丈夫かしら?」
「まあ、人手はいくらあっても足りないから、私たちは助かるんですけどね」
「まだ、キンバリー家の集合住宅には、空き部屋があるんでしたっけ?」
「え~と、確か、先日は、エリスの街で住居を追い出された若い母娘が三組ほど、入居したから...」
「あ~、あの新人さん達ね」
「そう。私たち伯爵領から移住した者とは感性が少し違って、なかなか斬新な発想をする人たち」
「へぇ~。そうなんだ」
「うん。この商会にとっては、良い戦力になると思うの」
「そっかぁ」
「そうよぉ」
「で。まだ、集合住宅には、空きがあるの?」
「えっと、あと何部屋かはあった、と思うわ」
聞こえてくる会話の内容は明らかに井戸端会議そのものだが、真剣な眼差しとキビキビした無駄のない動作は、プロのお仕事モードだ。
「あっ、リリアン様。動かないで下さい」
「おお、すまぬ」
「いえ、いえ。この衣装の着心地は、如何ですか?」
「うむ。悪くないぞよ」
「左様ですか。それは、良かったですわ」
作業が佳境に入ったのか、自然と、お仕事モードの女性たちを取り巻く空気がピンと尖った鋭利なものとなり、会話が途絶える。
先程まで浮かれていた美幼女も、寡黙なモデルさんモードとなり、微動だにしなくなった。
広く開放的な部屋を、静寂が支配する。
時折り、作業に伴う微かな物音のみが聞こえる、といった状態が暫く続いて...。
「よし」
「「...」」
張り詰めていた空気が緩み、元の和やかな雰囲気が復活。
大人の女性たちは、この場から撤退すべく周囲に散在するお仕事道具や布切れなど材料を片付けながら、世間話を再開する。
「けど、ジョセフィンさん」
「?」
「あの...」
「ミッシェルさん、どうされました?」
「えっと。この年齢のお子様に、このような下着の需要はあるのですか?」
「まあ、無いでしょうねぇ」
「ですよね...」
「まあ、試作品ですから」
「リリアン様も喜んでいますし、ね」
「...」
「それに。小さいサイズの方が、無駄になる材料も減らせますから、試作としては問題ありませんわ」
黒いスケスケの生地に、同色のレースやらリボンやらを惜しみなく是でもかという程に盛って飾り付けた、お色気路線のネグリジェ。
そんな逸品を、十歳の可愛い盛りの幼児体型な美幼女が身に纏うと、何とも言えない微笑ましい感じになっていた。
が、しかし。
着ている本人は満足しているのだから問題はない、といった大人な判断なのであろう。
何事も無かったかのように自然とその場は解散となり、各人がそれぞれ、自身の持ち場へと向かって移動を開始するのであった。
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