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5.

 寂れた主要ではない街道に沿ってポツンとある、何処にでも在りそうな農村の、街道へと続く畦道の途中にある小広場で、俺たちは足止めを喰らっていた。


 この地域を治める領主だと自称した小者臭が濃厚に漂う悪人顔のオッサンと、見るからにガラの悪いご面相や風体(ふうてい)をした冒険者崩れっぽい荒くれ者たちの集団に、現在進行形で絡まれ対峙している。

 いや。正確には、儚い感じの美人な女性がその娘と推測される可愛いらしい女児から引き離され、無理矢理に何処かへ連行されそうになっている、といった場面に遭遇して押し問答の真っ最中、とでも言うべきか...。


「クリストファー様。どう致しましょうか?」

「そうだねぇ。こちらに怪我人を一人も出したくないから、俺が纏めて隙を作るよ」

「承知致しました」


 俺とオフィーリアさんは、阿吽の呼吸という奴で、多くを語らずして次の行動を決定する。


 いや、まあ。

 優秀なオフィーリアさんが、俺の考えを的確に読み取って臨機応変に対処してくれている、というのが真実な気もする。が、どちらであろうと、結果が良ければ全て良し、だよね。


 オフィーリアさんの目配せ一つで、俺の同行者たちが一斉に下馬する。

 ギョッとする、悪徳領主(?)の取り巻き達。

 そんな相手の反応も完全にスルーして、各人が最小限の動作で立ち位置を微調整。


 俺を背後に庇う位置にキリリと立ち、一分の隙もなく周囲を警戒しながら小悪人の腰巾着たちへと圧を掛ける、オフィーリアさん。

 勿論、オフィーリアさん以外のメンバーも、油断なく自然体で構え、的確な位置取りで俺の周囲を固めて、必要となれば速やかにこの場から離脱できる経路も然りげなく確保しつつ、相対する荒くれ者たちに圧を掛けている。


 いやぁ、ホントに。皆、成長したよね。(いぶ)し銀な騎士団長、ハロルド氏のお陰で。


 流石に、腕に多少の覚えがある荒くれ者さん達は、我が同行者の面々の実力に気付いたようで、額と背中に冷や汗を盛大にかいて怖気づいている、ように見える。

 彼方には此方の倍ほどの人数がいるので、数的には圧倒的に有利だと()めてかかっていた。が、俺の同行者たちの一糸乱れぬ行動と隙のない所作を見て、今更ながら焦り出した、といった感じだろうか。

 そう。空気の読めないお馬鹿な悪徳領主様ご本人を除いて、ではあるが...。


「おい、お前達。さっさと、邪魔者を片付けろ!」

「...は、はぁ」

「今から急いで町に戻れば、今夜のお楽しみに向けた準備が間に合う」

「...」

「おい、こらっ。惚けっとしてないで、とっとと働かんか!」


 雇い主の叱咤に気を取られ、焦りつつも肌に感じる形勢の悪さに躊躇した為か、悪漢の皆さんほぼ全員に、致命的な隙が生じる。


 俺は、すっと、一歩前へと踏み出し、そっと、オフィーリアさんの手を取る。


 うん。すべすべで小さくて綺麗な手、だよね。

 けど。俺に手を繋がれたオフィーリアさんの方には、躊躇いや恥じらいの様子は一切ない。

 そう。この反応の無さが、一応は男である俺としては、微妙に寂しさを感じるところではある。が、まあ、ある意味で役得という奴なので、深くは考えないようにしている。


 ちなみに。これは、断じて、パワハラやセクハラなどでは、ない。

 本人からも事前に了承を得ているし、強要など絶対にしてないし、職務遂行の上で必要な措置、なのだ。


 と、まあ。この現状には、残念でない部分も一部にはあるものの、不本意ながら、俺が実用的なレベルで魔法を行使する為にはオフィーリアさんの支援が必須である、という事情に変化はない。

 うん。また、時間を見つけて、魔法の鍛錬をしよう。是非とも。


 と、阿呆な方向に刹那の間だけズレた思考を即座に立て直し、精神統一。


 俺たちと対峙する用心棒たち全員を俯瞰して視界に収め、その足元の地面が一気に泥沼の如く沈み込む光景を、気合も全力で込めてイメージ。

 そして。素早く、カウントダウン。

 三、二、一、ごぅ!


 ずぼっ。


 警戒し微妙に及び腰になりながらもその場で踏ん張っていた男たち八人が全員、一斉に、十センチ程その場で地面に沈み込んで大きく体勢を崩し、一時的に身動きが取れなくなる。

 と同時に。俺の同行者たちが一斉に、手分けして、迅速かつ的確に全ての敵を無力化して回る。


 うん、手慣れたものだね。


 俺の魔法も、キンバリー伯爵領にて領主代行としての業務の傍らで貴族の嗜みと教養を身に付ける一環として訓練を繰り返していた頃に比べると、少しばかり洗練され実用性もアップした。

 残念ながら、俺には、炎や氷の系統の魔法を行使する才能は無かったようだが、工夫次第で、土壌操作系の魔法も対人戦闘や魔物駆除で役立つことはある、というお手本のような対応が出来た。


 まあ。今回の俺の諸国漫遊の旅に同行しているメンバーであれば、俺の魔法など無くても問題なく取り押さえられた、とは思う。

 けど、万が一のレベルであっても存在する誰かが負傷する可能性を低減できるのであれば、俺の魔法を使っての対処を選びたい、と思っている。


 という訳で。


 人相の悪い荒くれ者さん達は、全員、地面に叩き伏せられ、手足を拘束された状態に。

 何故だが俺に対して一方的に威丈高だった自称ご領主さまは、一瞬で距離を詰めて鋭く振り下ろされた細剣の刃をオフィーリアさんが眼前に突き付けたところで失神し、地面に尻餅をついて固まっていた。


 そして。

 現時点では経緯など詳細は不明ながらも無理矢理に連れ去られようとしていた若い母親は解放され、幼い娘と抱き合っている。

 そんな心温まる光景を、少し離れた場所から無言で窺いながらも、微妙に困惑の表情を曝け出してしまっている村人たち。


 取り敢えず、当面の危機は脱した訳だが次なる問題が待っている、といった感じかな?


 俺は、オフィーリアさんとアイコンタクトを取り、お邪魔な物体と化している悪漢の皆さんの処置を任せ、今後の対応を相談をすべく、この村の村長と思しき腰が引けた状態で傍観していた恰幅の良いご老体の方へと向かうのだった。


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