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4.

 ()一時間ほど、心持ち馬に急いで貰って人けの少ない街道を進んだところで、前方に、長閑で何の変哲もない農村が見えて来た。

 俺が、呑気にあと少しで昼飯だなぁ、などと考えていると。同行者たちの纏う空気が、変わった。


「クリストファー様」

「どうかしたかい?」

「はい。どうやら、この先で何か騒動が起きているようです」


 流れるようにスッと馬を寄せて来たオフィーリアさんが、静かに告げる。

 他の同行者たちは、無言のまま見事な連携で移動し、俺の周囲を固めて警戒態勢に入っていた。


 ロンズデール伯爵家お抱え騎士団の団長さんであるハロルド氏に、キンバリー伯爵領の領都で徹底的に鍛えられた俺の元護衛部隊のメンバーたち。

 その精鋭、という訳ではなく、エレンの街に所属する冒険者として請け負う依頼や、孤児院と所有する集合住宅および商会と出先機関の事務所を兼ねる建物の警備など、通常業務に支障が出ないことを最優先で選抜(?)した人員だ。

 そんな面子とオフィーリアさんと俺で構成されているのが、今回の使節団の先遣隊というか事前調査隊であった。


 だから。

 いざという時には、素早く的確に、俺を警護する隊形を取る。

 そんな行動は、ある意味で通常運転なのだった。


 まあ、それは兎も角。

 この先の一見すると平凡そうに見える農村で、何やらトラブルが発生している、らしい。


 俺は、少し思案した後で、当然と言えば当然な判断を下すことになる。


「この人数だと、分散するのも得策ではないね」

「はい」

「だから。警戒態勢を維持したまま、全員でことに当たるとしよう」

「「「はっ!」」」

「先頭は、このままオフィーリアさん。続く二名は、いつでも支援できるよう即応の構えで」

「承知致しました」


 いつの間にやら精悍な面構えとなった頼もしい同行者たちを見回して、俺は、軽く頷く。


「それじゃあ。厄介事の現場へと、向かいましょうか」


 俺を発言を受け、隊列が一時停止の状態を解除。

 颯爽と、規律正しく、足並み揃えて整然と進む、騎馬の一団。

 しかし、まあ。何とも、俺以外の仲間たちの、成長が著しく頼もしいこと。感慨深い。


 こうして。俺たちは、予定通りに、近隣の二つの主要都市を結んでいる何もない荒野を貫く裏街道的な少し裏寂れた道のほぼ中間地点にある何の変哲もない(筈の)農村へと、向かうのだった。




 そして、今。俺たちは、目の前で繰り広げられているのは、(たち)の悪い冗談のような光景だった。

 何と言おうか、その...なんだ。

 あまりにも、あんまりな、ステレオタイプな状況に、俺は頭が物凄く痛かった。


「余所者は、とっとと立ち去れ!」

「「「そうだそうだぁ!」」」

「ご領主さまの為さることに、口出しするんじゃねぇ!」

「おらおら、怪我しないうちに何処かに行っちまいな!」

「ひょろひょろの青二才が、女連れで粋がってるんじゃねえよ!」

「「「ぎゃははははっ」」」


 異国の寂れた農村で、見るからに小者然としたローカルな権力者とその取り巻きから、悪事の現場を見て見ぬ振りしてさっさと立ち去れ、と上から目線で要求されている、俺。

 ラッセル王国使節団の先遣隊だ、と言っても鼻で笑われ、ラッセル王国の重鎮であるロンズデール伯爵家から信任を得ている公式な職務だ、と説明してみても信じて貰えず。

 少数精鋭を旨とし、華美な装備も避けて質素な旅装を纏っていたのが、裏目に出た。小物が背伸びし無理して格好つけてる、とでも勝手に思い込まれてしまったのか、雑な扱いを受けていた。


 片田舎の半端者から小者と見下される俺って...そんなに、威厳が足りないのだろうか?

 思わず、遠い目をして現実逃避したくなる。

 色々と頑張ったので少しは貫禄も付いてきたかなぁ、と最近は少しばかり自身の評価を上方修正しようかと思い始めたところだったのだが、時期尚早なようだ。


 はっはっはっはは。


 乾いた笑いしかでない俺の横で、エルフで美麗な外見に無の表情を維持したままのオフィーリアさんは、静かに激怒していた。


「クリストファー様」

「お、おう」

「あれら、処分しても宜しいでしょうか?」


 あちゃ~。

 良い訳ないでしょ、オフィーリアさん。


 分かってて、言ってるよね?

 冗談だよね?

 ワザとだよね?


 まあ、俺の為に怒ってくれている、と思えば嬉しいのだけど、ね。

 駄目だよ?


 と、心の中では連続コンボで突っ込みを入れつつ、大きく息を吸って吐き、一言。


「却下」

「...御意」


 オフィーリアさんが、不承不承(ふしょうぶしょう)といった感じで強烈な殺気を収める。


 付き合いもそれなりになると、鉄壁の無表情の中にも極々微妙に混じる彼女の感情を何となく読み取れるようになる訳だが、可愛いというか微笑ましいというか、美少女は見ていて本当に厭きない。

 が、それは兎も角。

 はてさて、この状況、どう収拾したものだろうか...。


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