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3.

 思い立ったが吉日。


 にしても...何と言うか、我ながら、脈絡のない行動が続いているのではないか。と思う、今日この頃だ。


 うん。前世の人生を例え断片的にであっても思い返してしまうと、もう少し思うが儘に波乱万丈など恐れず大胆な行動をしても良いんじゃなかろうか、などと考えてしまう時もない訳では無いんだが、それにしても限度があるだろう。と、半ば呆れてしまっている俺がいた。

 まあ、確かに。ほんの少し前の、悲壮な思いを抱えて馬上で揺られていた時とは異なって、今回は、ゆったりと騎馬の旅を楽しんでいる、と言えなくもない状況ではある。が。何というか、全般的な傾向として、全く落ち着きのないジェットコースター人生が続いているような気がしてならない、のだ。

 デスクワークが好きだ、などとは口が裂けても言えないが、もうちょっと落ち着いた日々を過ごしていたいなぁ、などとボンヤリ考えている俺がいるのだった。


 そう。俺は今、再び馬上の人となり、少し寂れた街道を数騎で一群となって進む小集団を形成し、ゆったりと並足で歩む騎馬の旅を満喫していた。


 目指すは、ラッセル王国に隣接する、ラッセル王国と同盟国のような立ち位置を取っている小規模な王国や公国や自由都市連合などに属する、いくつかの主要都市。

 地図上で俯瞰すると、それらの街は、俺の現在の立場であれば我が祖国とでも公言すべき旧ノーフォーク王国とはラッセル王国を挟んだ反対側に位置している。


 そんな街々をいくつか巡り、表敬訪問やら通商問題が絡む外交活動など各種の行事日程を消化してから、エリスの街へと戻って来る。

 そんなイベントの具体的な行程を、安全性と移動効率を絶妙な塩梅で配分して組み立てるべく実地で調査検証する。それが、俺の請け負った今回のミッションだった。


 ラッセル王国の重鎮であるロンズデール伯爵家が誇る才女、クラリッサお嬢様から俺が受けたこの今回のお仕事は、近い将来に派遣が予定されている高位貴族が随行する王国使節団の辿る行程を決定するための最終調査と、その使節団の派遣目的として公示されている周辺諸国との貿易拡大に向けた取り組みの事前調整、という名目になっている。

 が。そんな重要な調査を、ぽっと出の素人に任せられるものか?

 否。それこそ、色ボケ英雄の国と称されながらも着実に勢力を拡大し続ける優秀な人材の宝庫であるラッセル王国には、掃いて捨てる程とまでは言わなくとも、それほど苦労なく確保できる程度には十分に適切な人員がいる筈、なのだから。


 では、何故に、このお仕事が俺に割り当てられたのか...。


 う~ん。たぶん、俺、値踏みされてる、よね?

 ロンズデール伯爵家の首脳、もしくは、ロンズデール伯爵ご本人に。


 けど、まあ、たぶん。クラリッサお嬢様は、良かれと思って今回のお仕事を斡旋してくれた、のだと思う。

 ほぼほぼは、純粋な好意、なんじゃないだろうか。

 あと。微妙ではあるけど、お嬢様の背後に控え同席していたハロルドさんにも、(よこしま)な考えや騙まし討ち的な意図など無かった、と思いたい。


 とはいえ、だ。


 ラッセル王国もロンズデール伯爵家も、慈善団体ではない。

 よって。何らかの目に見える形での貢献を、キンバリー伯爵家の看板を背負う俺たちに求めてきている、というのは確実だった。


 うん。世の中って、そんなものだよね...。


「クリストファー様」

「何だい、オフィーリアさん?」


 一瞬、さん付けで呼んだのが不満だったのか、少し渋い表情を浮かべる、外見はスレンダー美少女なオフィーリアさん。

 本日も、サラサラの銀髪に尖った長い耳という目立つ特徴よりも、標準装備された寡黙な無表情が印象的だ。

 微笑むと物凄く可愛いのに、と今日もまた性懲りもなく残念に思っている俺がいたりする。


 そんな呆けた俺の横に、さり気無く騎馬を寄せて来ていたオフィーリアさんが、穏やかに告げる。


「そろそろ、休憩に致しましょう」

「あ~、そうだね。何処かで昼食にするか...」


 とは言ったものの、だ。


 現在位置は、残念ながら、草原というよりは荒野といった表現がピッタリな場所のド真ん中。

 何もない平地を頼り無さげな一本の筋が貫いているかのような、少し寂れた街道の途中。

 次の目的地としている近隣の大きな街からは、まだまだ距離がある地点だ。


「この近くに、食事が出来るような町って、あったっけ?」

「残念ながら、御座いませんね」

「だよ、なぁ」

「確か、あと一時間ほど進めば、中規模な農村があったかと思います」

「う~ん、一時間かぁ」

「はい。所持してきた携帯食での遅めの軽食とはなるでしょうが、やはり、安全地帯での休息を取った方が、よろしいかと」

「まあ、そうだよね...」


 別に、オフィーリアさんを責めたつもりは無かったのだが、彼女の表情が極僅かに曇る。


 いかん、いかん。

 また、やってしまった。

 責任感が強すぎるオフィーリアさんに、ネガティブな感情を窺わせる表情を見せるのは禁物、なのだ。


 なし崩し的に俺の副官と護衛を兼務して貰ってるオフィーリアさんには、唯でさえ大きな負荷を掛けてしまっているのに、俺が不甲斐ないと更なる皺寄せがいってしまう。

 ここは、ビシッと、俺が率先して迷いなくポジティブな姿勢で行動しなければ!


「やはり、本番ではこの近辺を通るルートは推奨できない、という結論で問題なし、だな」

「はい」

「けど、まあ。万が一のトラブル発生時に備えて、確実に休息が取れる場所を押さえておくのも重要だ」

「然様、でございますね...」

「ああ。だから、まあ、もうひと頑張りと行こうか」

「「「はっ!」」」


 オフィーリアさんと一緒に、空気が読める大人な他の同行者たちが、元気な声で応える。

 そして。俺を含めて五人で構成される一団は、颯爽と騎馬を駆って、少し寂れた雰囲気の街道を心持ち早足となり進むのだった。、


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