プロローグ、も…。
正義とは?
真実とは?
幸せとは?
頭脳明晰でも天才的な発想力がある訳でもない凡人な俺には、少しばかりハードルの高い命題だ。
俺たちが、キンバリー伯爵領の領都であるウッドハウスの街から、決死の逃避行にて最短距離でラッセル王国の王都であるエレンの街まで辿り着いた頃には、全てが終わっていた。
つい先日に終焉を迎えたノーフォーク王国では、王侯貴族たちが国民から搾取して贅沢三昧に明け暮れ、王都に拠点を置くいくつかの大手商会の会頭と幹部たちは悪辣な王族や高位貴族たちと共謀して庶民から暴利を貪っていた。
だから。そんな王族や主要な貴族たちからは全ての財産と権限を剥奪し、大手商会の資金は没収となり経営幹部は総入れ替えを行い、罪人となった彼らは帝国の本国にある司法機関へと連行。
そんな内容が、戦勝国である帝国から新たに派遣されて来た行政官により、公式見解として発表された、らしい。
確かに、旧ノーフォーク王国の税率は周囲の平穏な国家と比べると相対的に高く、国民の生活が豊かであったと言えないのは、紛うことなき事実ではある。
王族や高位貴族たちの暮しが傍目からは豪勢に見えていたのも間違いではないし、庶民の生活物資が不足気味な中でも王国に地盤がある大手商会の関連施設で活発な荷動きが見られたのもまた事実ではあろう。
ただし。その原因が長引く隣国との紛争に起因するものであり、その紛争を裏で操っていたのが帝国であった、という点もまた揺るぎなき真実だったのだが...。
と、まあ、そんな訳で。現在の世間における俺の立ち位置は、微妙だ。
亡国の、元は筆頭貴族であったキンバリー伯爵家の当主である、キンバリー伯爵その人。それが、現在の俺、であったりするのだから...。
長年に渡って当主を務めていた俺の祖父にあたる(らしい)先代のキンバリー伯爵が、ノーフォーク王国の滅亡が確定するかしないかの正に直前の滑り込みで、所領のノーフォーク王国への返還を宣言すると共に自身の隠居と俺への爵位の譲渡を表明し、強引にではあったが正規の手続きを成立させていた。
と、俺自身も伝聞で聞いただけではあるのだが、公式文書の上では確かにそうなっている、のだそうだ。
驚愕の事実、という奴である。
完全に、本人は蚊帳の外での出来事、だった。
キンバリー伯爵家の家令であり実質的に領地経営を担っていたリーズデイル男爵に言い包められて伯爵家の財産を根こそぎ持ち出しラッセル王国へと逃れて来ている俺は、現在の旧ノーフォーク王国を治めている帝国の行政官に言わせれば、領民や旧王国民の財産を掠め取った略奪者、となるのだろう。
一方で。キンバリー伯爵家と友好関係にあるラッセル王国のロンズデール伯爵家など反帝国の立ち位置を取る陣営からすると、現時点でも行方不明のままとなっている前伯爵の遺志を継ぎお家再興を目指す健気な若者、といったイメージになるようだ。
うん、まあ、何だ。
個人的には、どちらも勘弁願いたい。
のだが、キンバリー伯爵家の財産は一時的な預かり資産の認識であり、一緒にキンバリー伯爵領から逃れて来た元領民さん達の生活が成り立つように尽力するのは逃避行の責任者としての義務だ、とも考えている。
ので、取り敢えずは、ここ、エレンの街で、暫くは頑張ってみようと思うのだ。
と、いう訳で...。
この世界での、今世の、これからの人生における俺の目指すべき方向性については、何が何だか訳が分からない状況な上に先の見通しも全く立たない状態が続いているので、暫くは保留、という事にしたいなぁ、と心の底から願っている俺だった。
はっはっはっはは。