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エピローグ、も唐突に。

 王都が陥落した。


 そんな突然の訃報が、キンバリー伯爵家の王都屋敷からの早馬で届いた。

 知らせを届けた伝令兵は、重傷で、今もまだ生死の狭間を彷徨っている。

 キンバリー伯爵は、行方不明。その生存は、絶望的だという話だったが...。


 ノーフォーク王国は、崩壊。


 何とも呆気ない幕切れ、だった。

 良くある話、ではあるが...。


 いかん、いかん。

 呆けている場合ではなかった。


 そもそもが、俺がこの国に来る前から、予断を許さない状況だ、という話だったのだ。

 ある意味で、この事態は想定内。

 ここ暫く、ほのぼのとした日常が続いていたので、すっかり俺も弛んでしまっていたようだ。


 俺は、自分自身にカツを入れ、冷静になって状況把握に努める。


 キンバリー伯爵家に仕える皆さんも、ショックは受けているようだが、慌ただしく彼方此方へと忙しげに行き来している。

 何やら、事前に決められていた行動指針に従い、準備を進めているようだ。

 その陣頭指揮を取っているのは、リーズデイル男爵。


 そのリーズデイル男爵が、一通りの指示を出し終えたのか、厳しい顔をして俺の方へと近付いて来る。


「クリストファー様」

「何だい、ルーファス」

「お覚悟は、よろしいか?」

「ああ。元から、そういう話だったからな」

「左様でございますか...」

「当然だ」

「当然でございますか」

「お、おお」

「...では。後は、クリストファー様に、お任せする事に致します」

「おいおい、何をだ?」

「ほっほっほっほほ」

「...」


 途中から、幼い子供というか背伸びして精一杯に頑張るお子様を見るような顔付きになった、ルーファス爺さん。

 何となく不本意だったが、ルーファスさんのニコニコ笑顔の奥に澄んだ決意のようなものが垣間見えた気がして、何も言えなくなる。


「それでは。クリストファー様にお任せするお役目と守備範囲について、打ち合せを致しましょうか」


 そう言って、キリリとした出来る家令の顔になったリーズデイル男爵。

 俺は、いつの間にか見慣れてお馴染みとなってしまった好好爺と頑固爺を使い分ける有能なご老体との、喧々諤々な膝詰めでの対応協議へと、気を引き締めて臨むのだった。




 キンバリー伯爵領の領都ウッドハウスの街の中心部に悠然と建つ、少し年季は入っているが貴族の邸宅らしい立派なお屋敷。

 そんなキンバリー伯爵家のお屋敷の前に、この地に最後まで残る者たちと、これから出立する最後発組の面々が、勢揃いしていた。


 キンバリー伯爵家の家臣団に属す大多数の人たちは、友好国であるラッセル王国を、通称が色ボケ英雄の王国と頼りなげな感はあるが実力は十分な強国にある伝手を頼りとし、既にバラバラと分かれて旅立っている。

 屋敷に勤めていた使用人たちは全員、既に領都から離れ、領内の他の町に住む親類縁者や隣国にいる知り合いなどを頼って散り散りとなっていた。


 そして。俺は、孤児院の幼い子供や女の子と領都に流れて来ていた若い母娘たちやその縁者たちと、俺の護衛部隊と専属護衛を伴い、ラッセル王国の王都エレンの街を目指すことになっている。


 正直、何が正しいかは分からない。


 敗戦国に対する扱いについては、ケースバイケースで、色々なパターンが想定される。

 とは言え。常識的に考えて、生産活動に従事する領民たちについては、余程の事がない限り、極端に酷い扱いとはならないとは推定できる。

 が、一方で。

 相手があの強権国家である帝国の傀儡となっている隣国の場合、別の考慮も必要となる。

 領主一族とその家臣やその縁者たちは元より、当面の間は納税など見込めない社会的弱者など、目障りであったり貢献が見込めない者たちに対する扱いは、過酷となる事が大いに予測されるのだ。


 だからこその、ギリギリまで希望者を募っての逃避行、となる訳なのだが...。


「では、クリストファー様。お任せ致しましたぞ」

「...」

「何ですか、その不満そうなお顔は」

「ルーファス」

「忘れ物は、御座いませんかな?」

「ルーファス。やはり、だな」

「お渡しした伯爵家の隠し財産は、分散して万が一に備えつつも失くさぬよう、大事に扱って下されよ」

「それは、分かっているが...」

「クリストファー様を頼って集まってきた彼女たちを、見捨てる訳には行きますまい」

「...」

「誰か、領地の事情を知る者が残らねば直ぐ様、領民が困窮することに相成ります」

「だから...」

「故に。役割分担、という奴ですな」


 邪気なくニッコリと笑う、ルーファス爺さん。

 そして。その後ろに並ぶ、有志の老人たち。


 残った我らが生き残れるかどうかは、五分五分ですな。

 ただし。若様が残った場合は、十中八九、処刑となりましょう。


 そう言って、この役割分担を強硬に主張して押し切った、キンバリー伯爵家を長年に渡って支えて来た重鎮たち。

 結局、俺は、彼らを説得することが出来なかった。


 俺は、そんな彼らに、深々と頭を下げる。

 そして。

 最後発でこの地から旅立つ、孤児や若い母娘が目立つ領民たちを乗せた荷馬車の列と護衛部隊の騎馬隊に、俺は、出立の指示を出した。


 この地に残るリーズデイル男爵と有志のベテラン勢を背後に、ラッセル王国の王都エレンに向けて進路を取る。

 そんな俺たちの背に向けて、静かな、だが凛とした力強い声の、言葉が届いた。


「我が人生に、悔いなし。万が一の際には、来世でお会いしましょう」


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