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4.

 領主のお屋敷がある領都の街を、俺は、専属護衛と一緒に、周囲にはまだ不慣れな様子が垣間見える護衛部隊も伴って、普段よりも少し速度を落としたゆったりモードで歩いていた。


 そう。専属護衛と一緒に。


 凄腕の騎士さんであるハロルド氏、期待の人材。

 強国の超有力貴族が召し抱える私設騎士団の団長さんに、鍛えがいのある人材と言わしめた強者が、ついに、そのベールを脱いだのだ。


 うん。強烈な邂逅、だった。


 今でも、その姿は、俺の目に焼き付いている。

 いや~、眼福だった。一生、忘れないと思う。

 今世で、美少女のメイド服姿を拝めるとは、思ってもみなかった。ホント、感無量だ。

 しかも、エルフの美少女。

 異世界万歳、だ。


 ルーファス爺様のお話では、エルフどころかハーフエルフですらなく、両親ともに普通の人、だったらしい。

 ただ、リーズデイル男爵家の御先祖様には間違いなくエルフ族の人が存在したそうで、オフィーリアさんは先祖返り、なのだそうだ。


 流石だね、キンバリー伯爵家に代々仕える魔法に長けた譜代家臣の一族。

 エルフの血が流れているのなら、魔法能力が高いのも頷ける、というものだ。


 と、まあ、それは兎も角。


 当然ながらメイド服などではなく、さりとて男爵令嬢らしい装いでもなく、町娘風のワンピースを可憐に着こなし腰に剣を佩いた、なかなかに凛々しい格好をした美少女なオフィーリアさんをお供に、俺は、ウッドハウスの街を散策していた。


 指導教官として同行しているハロルド氏の部下二人が頻りと修正を繰り返す様子が視界に入ってくるので安心感とは程遠い感じで、俺の周囲に展開する護衛部隊。

 対して。横を歩くオフィーリアさんは、多少は雰囲気が固くぎこちない様子は見られるものの隙はなく、護衛をお任せ出来そうな感じだった。

 うん。問題なさそうだ、と安心して周囲の警戒は彼女に任せる。


 そして。俺は、改めて、街の往来へと目を向けた。


 キンバリー伯爵領における可愛い衣装の制作担当として不動の地位を確保した母娘、ジョセフィンさんとシェリルちゃんの活躍のお陰で、領都の往来も華やかになっている。

 母娘二人で制作指揮を取って古着と交換で配布した、安価な生地による簡素な造りではあるが、ちょっとした一工夫で可愛らしく仕上げられた服を着た若い母親や子供たちが、街の景色に色どりを加えているのだ。

 戦時下なので人通りが少なく寂れ気味なのは致し方ないが、お洒落な服を着て、心持ち明るさを取り戻したかのようにも見える人々の笑顔が、明らかに、街の雰囲気を良くしていた。


 そんな街の様子を、にこやかな微笑みを浮かべつつチェックしながら、時折り視線が合って笑顔で手を振ってくれる子供たちには軽く手を振り返し、街の往来をゆったりと歩き続ける。

 と。本日の視察における次の目的地である、教会に併設された孤児院の建物が見えて来た。




 で、突然だが。俺の容姿は人並みだ、と思う。たぶん。


 次期領主であり領主代行として身に付ける高価な衣装も、着こなせているとは言い難く、残念で垢抜けない感じになってしまっている、のだろう。

 最近は領地の女性からも行政の手腕や施策への評価などは高まったようだが、憧れの若様といった感じで語られる事はない。残念ながら。

 そう。屋敷の中や街の往来を歩いていても、若い女性から黄色い声を上げられた事など、全くないのだ。

 自分で言っていて悲しいくらいに、俺は女性の憧れ対象というカテゴリーには分類されていない、と断言できる。

 黒目黒髪で、中肉中背の若者。少し小柄な方ではあるが、まだまだ成長期だ(と信じている)が...。


 そんな俺に、珍しくも訪れたモテ期だが...微妙、な塩梅だった。


「クリスさまぁ~」


 と、桃色のハートマークが舞い散る嬌声を上げて、俺に抱きついてくる美幼女。

 そう、美幼女。

 金髪碧眼で、白磁のような肌と将来性も十二分な美貌。だけど、今は当然、お子様体型。


「お仕事、ご苦労様ですぅ~」

「あ、ありがとう。リリアンちゃん」


 可愛い衣装の普及プロジェクト担当母娘における娘の方であるシェリルちゃんのお友達、リリアンちゃん。十歳の女の子、だった。


 あと五年から十年も経てば、それ程は不自然な歳の差でもなくなるのだろうが、現代日本で小学生の中学年に該当するお子様を恋愛対象とするのは、厳しい。

 下手すると、犯罪行為にすらなり得るのだ。

 俺には、幼女趣味はないので、是非とも御免被りたいのだが...残念ながら、一筋縄では行かない相手だったりする。


 オフィーリアさんが、俺の意思を汲んでか、リリアンちゃんをヒョイっと摘んで俺から引っぺがす。

 ぷぅ~と膨れっ面になる、リリアンちゃん。

 一見すると、幼女が駄々を捏ねているようだが...。


「何をする、この下郎。馴れ馴れしく触れるでない!」

「子供と言えども、クリストファー様に気安く近寄ることは許されていない」

「ふん。護衛ごときが、(わらわ)に逆らうでないわ!」


 そう。リリアンちゃんは、見ためも実年齢も十歳の女の子で間違いないが、中身は大人、らしいのだ。

 本人曰く、前世は高貴な身分の貴婦人、なんだとか。

 女性に年齢を聞くものではない、と前世での享年までは教えて貰えなかったが...。


 俺も実在の人物としては初めて遭遇したのだが、リリアンちゃんは、前世の記憶持ち、らしい。

 まあ。言動や知識などにその片鱗はある、と言えなくもないのだが、実際問題としてその証明は実現が困難なので、あくまでも自己申告では、となる。


 ちなみに。

 今世のリリアンちゃんは、王都に拠点を持つ大商人の娘さん、だそうだ。

 友人であるシェリルちゃんの様子が心配になり、この街まで勝手に追いかけて来た、らしい。

 勿論、この国の大商人の幼い娘が一人で旅をする訳もなく、護衛付きで、だが。

 ハロルド氏の見立てでは相当に腕利きである若い男女の二人組が、便宜上の保護者役も兼ねた護衛として同行している、のは確認済みだ。


 そんなリリアンちゃんが、何故だか俺に大変ご執心な訳だが、その行動が俺への幼女趣味疑惑の発端であったりもする。

 リリアンちゃんは、シェリルちゃん母娘が暴漢たちに襲撃されかけていた現場で、街の子供の振りをするため別途に入手したボロ服へと着替えた上で群衆に混じって活動中だったそうなのだが、一連の流れで俺の屋敷まで一緒に移動し、その道中では言葉巧みに俺を誘導して皆で仲良く温泉に入るように仕向けた、らしい。

 いや、まあ。その辺りの記憶は、朧げで、今一つハッキリとしないのだが...。


 と、まあ、そんな訳で。


「リリアンとクリス様は、一緒の湯船につかった仲なんですの」

「...」

「だ・か・ら、お邪魔虫は、引っ込んでおれ!」


 ドヤ顔をして、上から目線でオフィーリアさんを下から見上げるという器用な行動を取っているリリアンちゃんは、何処からどう見ても可愛いらしい小さなお嬢様、だった。

 その尊大な態度と、幾度も繰り返されてきた傍迷惑なその言動の数々は、可愛いからと軽く笑って済ませられるレベルでは到底ないのだが、当事者以外の傍から見ている人たちにとっては、唯々に微笑ましい出来事でしかないのだろう。


 微妙に困惑した表情のエルフ美少女と、ふんぞり返って鼻高々な美幼女。


 二人の可愛い女の子が、街の子供たちに読み書き計算を教える学校の教室へと仕立て上げられた孤児院の一室にて対峙する光景は、何故だか、ほのぼのとした牧歌的な出来事として周囲の皆から見做されているのだった。


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