プロローグ。
天涯孤独に、なった。
ので、心機一転。
初めて訪れる縁者も知人も誰一人いない未知の国の、見知らぬ街に、移住すると決めた。
着のみ着の儘、と迄はいかないが、多少の愛着がある小物類のみ残して他は全て売り払い、俺は、現金化した全財産を肌身離さず分散収納して慎重かつ厳重に隠蔽し、旅にでた。
気軽な物見遊山の一人旅を装い、乗り心地ハードな乗合馬車や惰性が永遠に続くかのような徒歩の旅を、お腹いっぱいの過剰摂取になりながらも気力と根性で満喫し続け、生国から遠く離れた未知の土地に住み易そうな街はないかと探索し、流離った。
旅が俺の日常として身体に程よく馴染み、ついつい旅の目的も忘れかけ、いつから旅をしていたのか記憶すら定かでなく朦朧としてきた。そんな頃に、漸く、新参者にも馴染み易く開放的な気質を持っていて活気があるという街の噂を聞きつけ、その真偽確認と情報収集も同時並行で進めながら、その街へと向かうことにしたのだった。
そして、つい先程。
新天地として近隣から多くの若者たちが目指すラッセル王国の王都、エレンの街へと到着した。
俺は、今、城壁に囲まれたその街の入り口の、立派な城門の前に立っているのだった。
感動も一入に、少し感慨に浸りながらも、目の前に聳え立つ雄大な城門を眺めた瞬間。俺は、唐突に、前世の記憶を思い出した。
そう。たぶん、前世の記憶。
巷でも程々に話題となる事もある、今の自分が生まれる以前の自分自身の人生に関する記憶、という奴だ。
ただし。俺の場合は何故か、世間でよく聞く馴染みのパターンとは微妙に異なり、明らかに此処とは違う別世界で過ごしたと思われる人生の記憶、だったりする。
うん。成る程。
切れていたリンクが復活して繋がったかのように、スッと思い出す過去の記憶。
そんな感じでの覚醒は、世間話の雑談や他愛もない日常会話の中に出てくる何処ぞの誰かに起こった経験談として語られ耳にするお話の数々と、全く以って同じだ。
ただ。俺が思い出した前世の記憶らしきものが、よく聞く現世の自分が生まれるよりも昔の時代に過ごした過去の人生などではなく、何故だか、この世界とは文明のレベルや種類や世界観などが明らかに違う異世界、二十一世紀初頭の日本での記憶であった、という点のみ異なっていた。
何じゃ、こりゃ~。
と。俺は、心の中で、盛大に吼えながらも力なくその場に突っ伏したのだった...。