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君のいない世界で (1)


ブクマ&評価ありがとうございますm(__)m


本日は初めての翔視点でさお送りします。さくら(クレア転生前)の幼なじみですね。

ちょっと最初は暗い話かも知れませんが後半はそうでもないので読み進んでくださると幸いです。


 

 ~翔視点~


 高2の冬。世間ではクリスマスと呼ばれる日。

 俺の幼なじみはいなくなった。それは俺にとって突然で、理解のし難いものだった。

 しかし目の前には間違いなく俺の幼なじみが眠り、もう目を覚ますことはない。

 その手は触れると外に降り積もる雪よりも冷たく感じられ、数時間前までホワイトクリスマスだとはしゃいでいた人間の手だとも到底思えなかった。



「さくら……」



 何度呼んでも目の前の身体から返事が帰ってくることはない。



 バンッ

「さくら……!?」



 なにも出来ずただ立っていると大きな音をたてて霊安室の扉が開かれ、凄まじい勢いでさくらの親友である美羽が入って来た。

 後ろから「お静かにお願いします」という声が聞こえるが美羽には全く聞こえていない様子だ。

 そして美羽はさくらにかけより、身体を揺さぶったり、頬をたたいたりしている……でも。



「美羽、やめろ……」



 霊安室に美羽の泣き声が響いた。

 それが初めて美羽の泣き声を聞いた日だった。



 しかしさくらがいなくなっても時は流れる。

 それから俺達は高校を卒業し、大学に入った。美羽とは別の大学に入ったし、それから連絡もとらなくなった。

 でも俺はいくら時が流れようともさくらのことを忘れることは無かった。

 ふとした瞬間に『さくらは今頃なにしてるかな』なんて考えているのだ。それは本当に亡き人に向ける思いなのか……いや、まるで遠くに旅行に行っている相手に向けているようだと、そう思った。


 そしてそれは、俺が大学を卒業し就職してからも続いた。自分はまだ、さくらの死を受け入れられてないのかと「あれから何年たったと思ってんだ……」そう呟いても仕方ないだろう。



 そんなある日。俺は仕事で懐かしい人物に再会する。

 美羽だ。


 美羽は小説家になったらしい。美羽両親は厳格な人で、将来は公務員になるように言っていたように記憶している。そんな親が小説家になることを許したとは思えなかったため、話を聞いてみると家出したと言う。


 色々と驚くこともあったが、そんな美羽と久しぶりに話していると、次第に美羽も俺と同じでさくらのことを忘れられないということがわかった。

 もういっそのこと思い出話に浸ろうか、とそれから何度も会うようになった。




 そしていつからだろう。俺は美羽が好きになっていた。

 さくらのことを話せるのも美羽とだけだし、元々気心知れた仲だったし……とまぁ、色々な理由があるが。


 まぁ、難点が無いと言えば嘘になるが……惚れた弱味というやつか、単なる慣れかはわからないが、ある程度のことは可愛く思える。……例え自身が美羽の妄想のネタに使われようとも。


 そういえば高校の時から、こういった話にはさくらも美羽に振り回されていた。特にあの頃は二人ともゲームにはまっていていつもその話で盛り上がっていたように記憶しているがいつも途中から美羽が暴走してそれをさくらが止めるのだ。

 俺はいつもそういった二人の会話を話し半分で聞いていたのだが、最近それを少々後悔している。もっとしっかりと聞いていればよかった、特にさくらが美羽をどうやって止めていたのかを。

 もう話し出したら止まらないのだ、普段は仮面を被っているのが凛とした雰囲気を放っているのだが、もう話し出したら止まらない。最近の悩みだ。



 まぁそんな悩みを抱えつつさらに時は流れていった。


 そして交際を初めて3年目の冬に俺達は結婚した。式場で婚姻届にサインを行い、式が終わった足で役所に届けて受理してもらい、そしてある場所に向かう。


 なぜ今日、こんなにハードスケジュールをこなしているかと言うと理由があった。

 今日は世ではクリスマスと呼ばれる日。

 そう、さくらの命日である。俺達はさくらが死んでから丸々15年経ったこの日に式を挙げたのだ。『結婚式をさくらにも見てもらいたい、命日くらいこっちに来てるかもしれない』そんな思いから。


 そして俺達は今、さくらの墓前に立っていた。

 言わずもがな結婚したということの報告と、命日の墓参りのためである。

 しかし俺は、目の前の光景に違和感を抱いていた。



「墓前にブーケを供えるっていうのはどうなんだ……?」


「いいの、いいの。私はさくらにこれもらってほしかったんだから」



 そうなのだ、美羽は今日の式ためにブーケを作ったが、それをブーケトスなどは行わず持ち帰った。「あげたい人がいるのだ」と。

 そしてそのブーケが墓前に供えられているのだ。少々違和感を抱かずにはいられない。

 いやまぁ……いいか。ただ……



「私たちが結婚するとかあの頃は考えられなかったわよね。

 さくらびっくりするだろうなぁ」



 そういって笑う美羽は普段よりも元気が無い。

 数時間前まで純白のドレスを来て幸せそうに笑っていた姿はどこに行ってしまったのか……

 俺は少し後悔していた。やはり今日を式の日に選んだのは間違いだったかもしれない、と。美羽を説得して別の日にするべきだった、と。

 なぜなら今日は考えずにはいられない……さくらのことを。


 美羽も同じはずだ。何年も同じ悩みを抱えていることを俺は知っている。

 しかも今年は例年よりもずっとさくらのことを考えていた気がする。『さくらにも見てもらいたい』と、この日を選んだからというのもあるかもしれないが……



「……今日はもう帰ろう。疲れてるんだし外にずっといたら風邪引くぞ」


「……そうね。じゃあねさくら、また来るわ」



 そして俺たちはさくらの墓から去り、部屋に帰った。



 ◇◆◇◆◇



 マンションに帰った俺は、冷えた身体を暖めるため、浴槽に湯を入れるボタンを押してきた。

 そしてリビングに入った俺は目の前の光景に目を細める。


 しかしずっとそうしている訳にもいかない。足元に散らばる美羽のコレクションを踏んでしまいそうだ。

 俺は小さくため息をつき、それを拾い上げて美羽の隣に座った。



「こんな日にもお前は2次元なのか……」


「なんだか昔のゲームをしたい気分になっちゃって!

 引っ張り出してきたの! 翔も一緒にやる?」



 そう楽しそうに言われてしまうと、どうしても了承してしまうからダメなのだろうか……

 にしてもゲーム……ゲームか。美羽が楽しそうなのはいいんだけど……やっぱり今日は……



「これみて! さくらに貸してたゲーム! 懐かしいー。

 私このゲームのキャラ好きだったのよねぇ。なんて名前だったかなぁ……ヤバい、手の甲に黒子があったことしか思い出せない」



 美羽がゲームの推しキャラのことを思い出そうと頭を悩ませながら、乙女ゲームを見せてくる。


 さくらに貸していた? それはまた古いやつを引っ張り出してきたんだな……

 あぁ、「You with a star」ね……確かにタイトルを聞いたことがあるかもしれない。


 って、そうじゃなくて……



「なぁ、美羽……今日は初夜ってやつな訳なんですが」


「ん? なに、したいの?」


「いや、そういう訳じゃないけど……」



 ちょっとゲームっていう気分でもないかなー……っていう。



「って、うおっ!」



 そんなことを考えていると美羽がいきなり俺に飛び付いてきた。

 おまっ……急にずいぶんと積極的だな!?



「翔、ちょっとそこの充電器とって」


「……」



 俺はゲームに負けるのか……そうか。いつものことだ。

 そして言われた通りに充電器を取る俺も俺なのだろう……


 そして美羽は、これまたコレクションの奥から引っ張り出してきたのであろうゲーム機に先ほど俺に見せたゲームを入れて電源を入れた。

 どうやら古くてもちゃんと動くらしい。


 ……ぶれることを知らない妻である。

 俺は再度ため息をついてあちらこちらに散らばったコレクションを集めようと身体を動かした。


 そんな時、目の前にヒラヒラとなにやら紙が落ちて来た。ゆっくりと落ちて来たため容易に掴めたそれは……手紙のようだった。




前半暗い話だったのにも関わらず読んでくださりありがとうございますm(__)m


あと1,2話ほどは翔視点でやる予定です! 次回の投稿は5日を予定しています。どうぞよろしくお願いいたします!


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