帰ったばかりなんですが
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色々あって、やっと終わった初仕事。
そして私は長い道のりを再び渡り、やっと今王都に着いた。道中行く時には現れなかった強力な魔物が沢山いたり、途中でドラゴンと遭遇して一戦交えたりしたけど無事倒せたのでそれは置いといて。
なんだか久しぶりの王都だ……いや、実際久しぶりなのだが、なんとなく町並みが新鮮に感じる。あとなんか……『無駄にきらびやかだな』なんて感じてしまう。王都ってこんなだったっけ? いや、こんなだったんだろうな。半年くらいで劇的な変化をするわけ無いもん。
馬車はどこかに立ち寄ることなく城へと向かう。そして私は門の前で下ろされた。
……これから陛下に報告にむかうのだが、ここからは一人なのだ。本来ならベルさんとイグネイシスさんと共に行くのだが、どうやら師匠がついでに私に話があるそうで、一人で来いという言伝てが届いた。
ただ、二人からは後日報告を聞くそうなので言い漏らしの心配はしなくていい。しかしなぜ一人……と思いながら、案内されるがままに王座の間に向かい、扉を開けると中には王座に座った陛下。その斜め後ろには宰相さんが立ち、階段の下には静かに控えている師匠がいた。
陛下に労いの言葉をいただき、私が覚えている限りの報告をしていく。後日ベルさん達も報告してくれるとはいえ、なるべく言い漏らしがないよう丁寧に。
そしてそれが終わると、陛下から「セヴェールから話があるそうだ」と言われ、改まった空気の中師匠が陛下に向かって一礼して私の方を向いた。
話ってなんだ? なんでわざわざこんな改まったところで……話があるなら後ででも言えるのに。
そんな疑問を抱きつつ、私も師匠の方を向いてその言葉を待っていた。珍しく真面目そうな雰囲気だ、相当真面目な話らしい。
しかしなんだろう、なんか嫌な予感がする。
「初の任務ご苦労だったの。無事に帰ってこれてなによりじゃ」
「ありがとうございます」
「早速じゃが、本題に入ろうかの。お主の今後についてじゃ。
お主には王都を拠点として活動してもらおうと思っておる。よいな?」
「はい」
他の王宮魔導師さんは王都以外のどこかで研究したり弟子をとったりしてるらしいけど、私は家も王都にあるし他の所を拠点とする理由が無い。
私は了承の意を込めて大きく頷いた。
「うむ。ではそういうことでお主には早速次の仕事を頼もう」
すると師匠は数度頷き返し、そう満面の笑みで言い放った。それはそれは嬉しそうな顔で。
「……はい?」
これには私もびっくりである。一応これでも先程帰って来たばかりなのだ。それなのに次の仕事?
でもこういうものなのかもしれない、私はベルさん達と違って他の仕事もしてないし……
そう納得しようとしたのだが私は視界の端でとらえてしまった。首を傾げる陛下と宰相さんを。
考えてみればおかしいのだ、なぜ私はこれからの仕事のことを師匠から聞いているんだ。一応王宮魔導師の仕事って陛下から命じられるんじゃないのか。
「我弟子、クレア・フロワールよ、お主は若い。
能力的にはわしの弟子という立場から卒業し、自ら弟子を育てるのもよい程じゃ、だが如何せん経験が浅い」
事態を理解できていない私を置いて師匠は話し続ける。
「古より、"可愛い子には旅をさせよ"と言われるように、わしもそなたには色々な世界を見、学び、強くなってほしいと願っておる」
「……」
「そしてその機会を作ってやるのは師であるわしの務め!」
「……、……!」
私はここで師匠が言わんとしていることを感づいてしまった。ここにいる誰も気づいていない、本来私に任を言いつける立場である陛下でさえも。
しかしこれまでに師匠が言っていることが的を射ているため反論も出来ない。しかも確証がない。
それなのにいきなり口を挟むわけにもいかないと思っていると、師匠は私が予想していた言葉と概ね同じ言葉を吐き出してしまった。
「お主にはわしの仕事を任せようと思う!」
「「……ん?」」
陛下と宰相さんが揃って小さく首を傾げた。
師匠は笑っている。とても嬉しそうに、楽しそうに。
「お主にはまず大使としての仕事をしてもらう!
ちょうど今隣国へ長期視察へ向かうことになっておる。それに一人で行ってくるのじゃ。道中の魔物の討伐も忘れてはいかんぞ!」
「は……え? 視察!?」
「頼むの。ではアースハイド、あとはよろしくの!」
「セヴェール様!?」
口早にそう告げた師匠は、転移で私達の目の前から一瞬にして消えてしまった。
「「「…………」」」
残された私達は顔を見合わせる。
もうそこに、先ほどまでの荘厳な雰囲気は無い。
私は頭痛を押さえるように片手で頭を押さえた。感づいた時にこれ以上話を進めないように遮っとけばよかったという後悔もある。
一応今何が起こったのか説明しておこう。
要は師匠は私に仕事を押し付けたのである。
長々と正当な理由っぽいことを話した上で……いや、半分はそうなのかもしれないが、もう半分はただ仕事が面倒なだけだ。師匠のあの笑顔がいい証拠。
「……陛下」
しかし私が予測したのはそこまで。しかしそれが"視察"だなんて思わなかった。
魔物の討伐とかならまだしもなぜ視察……絶対私なんかが行っていい仕事じゃない。
一体どうすれば……
「「「……」」」
この時アースハイドは思い出していた。『そういえばアルベルトも初仕事の後すぐに視察に行かされてたなぁ』と。
そして結論に至る、おそらくかつてのアルベルトも現在目の前にいるクレア嬢もセヴェール様の仕事を肩代わりすることになったのだろうと。
「陛下! もしかして私が視察に行くんですか?
大切な仕事ですよね、そんな大役私には無理です……!」
数秒考えて見たものの、やはり自分には荷が重いと感じた私は一生懸命訴える。無理だと、ましてや一人なんて、と。
もちろん過去に同じようなことがあったなんて知らない。仮に知っていたとしてもその頃の父とは歳も違えば立場も違うのだ。
陛下も「無理だ」と即答するとばかり思っていた。しかしその答えがなかなか帰ってこない。私は再度問いかける。
「へ、陛下……無理ですよね? ね? 私なんかが行ったらバカにされちゃいますって、下手したら怒らせちゃいます……!」
「うーん……」
アースハイドもそういった問題は第一に考えた。しかしアースハイドはなかなか頭の冴える王でもあるのだ。それゆえ気づいてしまった。『この年で王宮魔導師の資格を得た者を送り込むというのは他国へ圧力を加えることも出来るのでは?』と。しかもクレアはアルベルトの娘、王族の血を引いている訳だし子供だとしても無礼と言う者はいない。そしてアースハイドは言い渡す「行け」と。
このときのアースハイドに迷いは無かった。しかし一つ心配に思ったことを上げるとするならば。『……これあとでアルベルトに何て報告しよう』という、不安のみだった。
しかしそんな陛下心の中を、さしあたっては師匠がそこまで考えてこの視察を提案しているなんてわかるはずもないく、私は途方にくれる。
しかし陛下の決定に強く反論することもできない。私はとぼとぼと久しぶりの我が家に帰った。ちなみに出発は明日だ。
もう一度言おう。明日だ。
突然にも程がある。もうちょっと休ませてくれよ。
とは思うものの、どうやら私の師匠は、今まで私を教育していることを理由に視察やらなんやらという王都から離れることになる仕事を断ってきたらしい。
弟子としてそれは喜ぶべきところなのだろうが、なんだか素直に喜べない。
まぁ、とりあえず私を理由に仕事を断ってきた師匠なのだが、私が王宮魔導師になり、ヴァールハイト領に行くことになったことで仕事を断る理由もなくなり、視察の仕事が決まったのが約半年前。
要は私がヴァールハイト領に行くことになった頃だ。おそらく師匠は最初から私に押し付ける気満々だったのだろう。
しかし行くことが決定してから半年も放置されてしまっていたのだ、急いで行かないといけない。
ちなみに食料とかはすでに準備万端だった。
こうなったからには行くしかないのだが、こうも続けざまに仕事があるとさらなる問題が起こってしまうことに私は気づいた。
新しい魔法を覚える時間がすごく削られるのだ。
遠征にも魔法の書は持っていくけれど、そう何冊も何冊も持っていけるわけがないし時間もないし。
私が二人を召喚する魔法を創るのはいつになるのか……不安は募るばかりだ。
しかしこの時の私は心のどこかで思っていた。『でもそんなに急がなくてもいいかも』と。
私はもう王宮魔導師となり魔法学院に通う必要は無い、ゲームの舞台に立っていないのだからゲームの内容を熟知していてもどうしようもないのでは、と。
数年たってから思う。このときの私をひっぱたいてその緩んだ気を張り直してやりたいと。
セヴェール様の悪知恵
・一人でこいとの言伝て→ベルとイグネイシスがいたら一緒に行くと言いそうだから。
・わざわざ改まった場所でクレアに仕事を押し付けたのか→クレアはあとで自分に行けと言われただけだったら「自分で行って下さい」と断られるだけだが、陛下に「行け」と言われたら断らないから。
次回の投稿は14日(月)を予定しています。その前に登場人物が増えているので『登場人物(2)』を投稿させていただきたいと思っております。どうぞ宜しくお願いいたしますm(__)m




